22話 英雄と呼ばれた聖竜
少し短くなりました。
これからの更新日は、あとがきに記載しますのでご確認ください。
『何者だ!?』
何もない森の中、ドラゴンの声が脳内に響く。
「僕はユート・フォワードだ。さっき、君の周りに結界を展開したのは僕だよ」
『ああ⋯⋯、先程の⋯⋯君か。さっきは⋯⋯ありがとう。フフ⋯⋯まさか⋯⋯こんなところで⋯⋯ユウキの子孫に⋯⋯出会えるとはな…⋯』
言葉が所々途切れる。限界のようだ。
「えっ、ユウキさんを知っているの?」
『ああ⋯⋯そうだ。ユウキと一緒に⋯⋯魔族と戦ったからな⋯⋯」
ドラゴンは思い出に浸るように言葉を紡ぐ。まさか、この竜は聖竜なのか?
聖竜とは、数百年前に勇者とともに魔族と戦った竜のことだ。
その絶対的な魔法の操作技術で、勇者パーティーメンバーの危機を幾度と無く救って来たらしい。そんな竜が今僕の目の前にいる。
恐れ多いが早く治療しないと。
「待っててください、すぐ治療します」
『やめて⋯⋯おきな。僕ははもう⋯⋯助からない』
「そんな悲しいこと⋯⋯言わないでください」
どうやら、助からないと分かっているようだ。
僕だって、無理だと思う。それでも、もしもを期待してしまう。
『フフ、君は⋯⋯優しいん⋯⋯だな。アイツと⋯⋯一緒だ』
「ユウキさんですか?」
『そうだ。⋯⋯最後の瞬間まで⋯⋯思い出の⋯⋯話しをしようか。そして⋯⋯一つ⋯⋯お願いがある』
「何でしょう?」
僕はせめて楽にしてあげようと、『付与』で痛覚遮断を掛けながら聞く。少しは楽になるだろう。
『痛みが引いた。君の力かい?』
「はい」
『確認だけど、怪我が治った訳では無いんだよね』
「はい。すみません」
『そうか、痛みをなくしてくれただけでありがたい。では、先に、お願いを伝えようか。この卵を孵して、その子を育ててほしい』
聖竜様が卵を見ながら言う
えっと、つまり、この卵から生まれて来る竜の育ての親になれってこと? まあ、それぐらいはいいか。それに、聖竜様の最後の願いだ。できるだけ叶えたい。
「わかりました。そのお役目謹んでお受けします」
『そうか、ありがとう。この子は僕の子でね、僕を継ぐ立場にある。だけど、僕はこの子には自由に生きてほしい。君に託すよ』
「はい。かしこまりました」
ということはこの卵から生まれたドラゴンは次代の聖竜ってことか? ⋯⋯かなり重要な役職だな。しっかりと果たさないと。
『じゃあ、次は思い出話をしようかあれは僕がまだ、小さかったころ──』
そう言って、彼は語りだした。
それは、ユウキさんとの出会いの話だった
聖竜様がまだ小さかったころ、親は人間に殺されて、一人で森を彷徨っていたそうだ。
その森で、狩りをしたり、木の実を拾ったりして生活していた。そんな、ある日、森の中で討伐依頼を受けていた冒険者の一行と出くわした。
人間に興味を持っていた聖竜様は、興味本位に、その冒険者たちの前に姿を表したのだった。
その時は、言葉を発してみると人間には全く伝わらず、相手の言葉もわからなかった。気がつけば、冒険者たちは武器を抜き、聖竜様に襲いかかってきたのだ。
命からがら冒険者たちから逃げた聖竜様は、道端で怪我と疲労で倒れ込んでしまう。もちろんそこは森の中だ。その森にいた魔物が聖竜様に襲いかかった。怪我と疲労で動けない聖竜様は目をつむり、死を覚悟した。
だが、その瞬間は訪れなかった。恐る恐る目を開くと、さっき襲いかかって来ていた魔物が死体となって転がっていたのだ。
不思議に思い、周りを見回すと、一人の少年が立っていた。先程、人間に殺されかけていた、聖竜様は痛みで動かない体にムチ打ち、その場から逃げ出そうとした。
だけど、ほとんど動けない。また、聖竜様は死を覚悟したのだ。
が、少年がとった行動は、予想していたこととは全く違った。言葉とともに、手を差し伸ばして来たのだ。
言葉はわからなかったが、確かな優しさを感じたという。
その後、少年は聖竜様に回復魔法を掛けた。傷はみるみるうちに癒え、疲労も回復した。その後、なにかを言って、少年は去っていった。
この時、なんとも言えない気持ちを持った聖竜様はその少年についていったのだ。少年は最初は驚いていたが、次第になれていったのか、一緒にいることが普通になったのだ。
そんな中、気持ちはなんとなく分かるが意思の疎通ができないことに不便さを感じた聖竜様は、次第に人間の言葉にも興味を持ち始めた。少年の家にある本を読み漁ったり、人々の声を聞いてみたりした。
そして数年後、人間の言語を習得することに成功したのだ。ただ、口では喋れないので、テレパシー的なものだったのだ。
だから、声は脳に直接来ていたのか。
そして、言語を習得した聖竜様は、その少年に名前を聞いてみた。その名はユウキ・フォワードだった。
それから、一緒に生活して、一緒に成長していった。あるときは魔物を狩り、あるときは仲良くおしゃべりをしたり、と、とても充実した日々だったそうだ。
そして、ユウキが十七歳になった時に、悲劇が起こった。
そう、魔王が人類への攻撃を開始したのだ。魔王は自身の手勢である魔人達と協力し、人々を恐怖へと陥れたのだ。
そこで、ユウキは立ち上がった。ユウキと他、二名のパーティー⋯⋯ヒバリ・フレイヤ、そして、スカイ・プロテクトだそうだ。
ふと、二人の家名がニウスとエリスと同じで驚いたが、話は止まらずに進んで行ったから考えるのを中断した。
そのパーティーは数々の魔人を撃退し、人類と魔族の戦争で、魔族有利だった戦況が、人類有利へと変わっていった。
しかし、すでにどちらも消耗が激しく、戦闘を継続することは不可能と考え、魔族と人間の間で和平条約を結んだのだ。
こうして、現在で第一次魔族・人族戦争と呼ばれる戦争は終結したのだ。
その戦争が終結すると、ユウキは、やることがある、と言って聖竜様に別れを告げたそうだ。
その後、聖竜様は、とある秘境で生活をしていたそうだ。そして、別れた後のユウキがどうなったかは分からないらしい。
『そんな思い出だよ。そして、秘境でのんびりと暮らしていると、ワイバーンが襲って来て、今の状態になったんだよ』
「教えてくださりありがとうございました」
『礼には及ばないよ、僕が勝手に話したからね』
聖竜様のお話で、今までわからなかったことが何個か分かった。さすがはその時を生きた聖竜様だ。
『そろそろ、時間かな。この子のことを頼んだよ。きっと、君⋯⋯いや、君たちの力になってくれるよ。ちゃんと、言語を習得させて上げてね』
聖竜様は、卵の方を見て微笑みながら言う。
「わかりました。任せてください」
僕は決意を込めた眼差しを聖竜様に向ける。
『いい目だね。きっと君は強くなるよ。そうだ、当時のユウキの仲間と、四天王に会いに行ってごらん。きっと、君たちの力になってくれるよ』
「そんな過去の人達が今も生きてるんですかね?」
『生きている⋯⋯とは言い難いけれど、意思としては存在しているよ。どんな姿で、どこにいるかは分からない。だけど、きっと、この世界の何処かにはいるよ。あと、僕が居た場所にも訪ねてくれ。そこに、僕の墓でも立ててくれ。場所は、君に直接伝えるよ。まあ、今の君たちの実力ではこの場所に行くことは自殺行為だから、まだやめていたほうがいいよ。だけど、君たちならいつかきっとたどり着いてくれるはずだ。僕の勘は当たるんだ』
脳内に場所が鮮明に刷り込まれていく。地図でも場所が分かるようにされているようだ。
「ここが⋯⋯ですか。ところでこれは魔法ですか?」
『そうだよ。残念ながら、僕は教えるのが下手でね、それに時間も無いし、君に教えることはできない。ごめんね』
「いえ、聖竜様が住んでおられた場所を教えていただけるだけで十分です」
当時のユウキさんの仲間と、四天王⋯⋯か。どこにいるかはわからないけど、出会ってみる価値はありそうだ。
「ユウキさんの仲間、そして四天王も探してみます」
『それがいいよ。最後に君と話せて楽しかったよ。一人で死ぬのは寂しいからね。死んだあとの僕の体は君が好きなようにしていいよ』
気がつくと、僕の目から涙が流れ落ちていた。
これだけは言わなくちゃ。
「──ます」
『ん?』
「あなたの意思を継ぎます。あなたの思いを、後世に伝えます。もちろん、あなたの子にも、この子が言語を覚えたら君の父親はすごいんだよと何度も言って聞かせます。あなたの思い、確かに受け取りました。なので、安心してください」
僕は、涙を流しながら、おぼつかない笑顔を作った。
『最後に君に出会えたこと、神様に感謝するよ。任せたよ⋯⋯』
その言葉を最後に、数百年前に勇者とともに戦った、英雄の聖竜は、その長い生涯に終止符を打ったのだった。
僕はそんな英雄の骸をストレージリングにしまった。ストレージリングの中では時間が止まっている。だから腐る心配はない。彼の住んでいた場所で眠らせてあげるのだ。
さっきの話を聞く限り、今の僕の実力ではきついのだろう。だけど、今よりもっと強くなって、いつかきっとその場所に到達してみせる。
僕は心の中でそう決意した。
僕は目に滲んだ涙を服で拭き、彼から託された卵を見つめる。
大きさは、三十センチメートルはあり、所々に赤色の水玉模様がある。触れてみると確かな温かさがあった。僕はこの命を僕の命に変えても守ると誓ったのだった。ストレージリングは生き物をしまうことはできない、だけど卵なら大丈夫だろうという考えのもと、卵をストレージリングに入れる。しっかりと収納された。
僕は『飛行』で、ホテルに戻った。
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ホテルに窓から戻る。時計をみるとすでに深夜三時を回っていた。明日は九時にここを出発する。それまではしっかりと休むか⋯⋯。
やべ、夕飯食べてない。どうしよう。そう思っていると、机の上に夕飯が乗っていた。
書き置きを残しておいて正解だった。
食事の横には紙が置かれていた。そこには『どこかへ行くとのことでしたので、食事を置かせていただきました。魔術で温めてお召し上がりください。』と書かれていた。
ありがたいな。
僕は魔術を発動させて、食事を食べ始めた。
うん、美味しい。
このハンバーグは一度冷えているのにもかかわらず、肉汁がたっぷりで美味しい。ソースは特製だろうか。とても美味しい。
サラダに使われている葉は鮮やかな緑色だ。ドレッシングはマリネだろうか? 酸味が効いていて美味しい。
こうして僕は、美味しい夕食を、頂いたのだった。
食後、寝心地の良さそうなベットにダイブした。そうだそうだ、卵は温めたほうが良さそうだ。そう思い、卵をストレージリングから取り出し、布団を被せて抱き枕のように優しく抱いて一緒に転がった。
しばらくすると、強烈な睡魔に襲われた。その睡魔に抵抗することもなく眠りについたのだった。
今日は⋯⋯色々あったなあ⋯⋯。
次回の更新は三日後です。




