20話 VSゴブリンコマンダー
これぐらいの文字数が普通になりそうです⋯⋯。
どうやら女性二人は無事のようだ。間に合って良かったな。
さてと、ゴブリン共を退治しますかね。
「『付与』ゴブリン特攻」
僕は自分にゴブリン特攻を掛ける。
その後、とりあえず転がっているゴブリンの首を落とす。戦いに慣れていないであろう女性達の前でやることではないが、しょうがないだろう。
えーと、残りのゴブリンは⋯⋯フム、二十体か。それと、ゴブリンコマンダーが一体か。
それに対し、騎士が五名。僕らのパーティーを入れて八人か。確かに差がひどいな。よくこの状態で戦えてたよ。称賛に値する。
おっと、ゴブリンがまた包囲網を抜けてやってきたよ⋯⋯。そろそろ騎士たちも限界かな。
とりあえず、こっちにやってきたゴブリンを、一刀のもとに切り捨てる。見た感じ再生はしていないようだ。楽でいいや。
「すごい。ゴブリンを一瞬で⋯⋯」
後ろの方から声が聞こえる。
そんなに驚くことかね? まあ、いいや。
「『火の玉』!!」
騎士たちを囲んでいた、ゴブリンを魔術が一瞬で吹き飛ばす。この魔術はエリスだな。
どうやら二人が到着したようだ。よし、これで負けることはないな。おっと、またゴブリンがやってきた。だけど、すぐに切り捨てる。
だいぶ減ったんじゃないか? えーと、一、二、三⋯⋯あれ? 三十体いないか? 最初に数え間違えたかな?
ふと、ゴブリンコマンダーの方を見ると、足元に何やら術式が見える。そこから、ゴブリンが出てきた。召喚魔術か。
魔術には属性以外にも違いがあったりする。それは、攻撃魔術、防御魔術、召喚魔術、支援魔術だ。
攻撃魔術はシンプルに攻撃に特化した魔術だ。『火の玉』はこれに属する。
次に、防御魔術だ。これは、守りに特化した魔術だ。僕が時々使う『風の壁』がその例だ。
次に、召喚魔術だ。その名の通り、魔術で動物を召喚したり、魔物を召喚したりする魔術だ。魔力を使って召喚する。
魔物は望んだヤツが召喚できるが、動物は何が出るかわからない。運が良ければ、神獣なんかも召喚できるかもしれない。まあ、魔力の量次第だけどね⋯⋯。
そして最後に、支援魔術だ。使用者、及び対象者の支援を目的とした魔術だ。使いどころによってはかなり強力だ。『風力推進』がこの例だ。
そうなると、ゴブリンコマンダーを倒すか、ゴブリンコマンダーの魔力が切れるまで、ゴブリンは増え続けるだろう。厄介極まりない。
「ユート! こりゃきりがないぞ」
ゴブリンを引き付けながら、ニウスが愚痴る。
「ゴブリンコマンダーがゴブリンを召喚してるんだ。エリス、魔術で攻撃してくれ」
僕がすればいいだろうが、ゴブリンが数体こっちにきて、攻撃されてる。僕が魔術を発動させてたら、ここにいる女性たちが襲われてしまうかもしれない。それは絶対に駄目だ。
「了解。『氷の槍』!!」
魔術が発動した⋯⋯と思われた。しかし、術式が消えた。
「え? どういうこと? 魔術が発動しない?」
エリスが驚いてる。僕だって驚いてる。女性の一人が発動させようとした術式も消えていた。どういうことだ? まさか、『術式破壊』か?
『術式破壊』とは、その名の通り、魔術の術式を破壊する魔術だ。相手の魔術の特性を見極め、術式を崩壊させるためかなり高度なテクニックだ。
僕だって、まだうまく使いこなせていない。一体誰がこんなことを⋯⋯。ゴブリンコマンダーの仕業か?
僕は試しに、ゴブリンに向けて魔術を放ってみる。
魔術はきえることなく、ゴブリンに命中する。ゴブリンへの攻撃は特に妨害されないようだ。
僕は試しにゴブリンコマンダーに向けて魔術を発動させる。が、消えた。やっぱりだ。この『術式破壊』はゴブリンコマンダーが発動させている。
「ニウス! そっちは大丈夫か?」
「数が多いが大丈夫だ」
ニウスはまだ余力がありそうだ。ニウスがゴブリンを引き付けているうちに、騎士たちが攻撃する、というローテーションをもう組んでいるようだ。仕事が早いね。
「エリス、ニウスの援護を頼む」
「了解」
エリスがニウスの方へと向かっていく。あっちはもう大丈夫そうだ。
「すみません、自衛できますか?」
さっき飛翔魔術を使おうとしていた人に聞く。どうだろうか。
「はい、可能です。あなたはどうするのですか?」
「僕はアイツを倒します」
大丈夫そうだ。
「ご武運を」
マントを羽織った女性が声をかけてくる。ちらっと、碧色の瞳が見えた。
なんだか気恥ずかしいな。
「ありがとうございます」
僕はそう返事し、ゴブリンコマンダーの前に立つ。
「『水の刃』」
一応、もう一回魔術を発動してみる。が、案の定、術式が霧散した。
『付与』の効果は問題無く発揮されている。さてどう来るか⋯⋯。
ゴブリンコマンダーが手にした斧を振りかぶる。当たったらひとたまりも無さそうだ。まあ、当たったらだけどね。
僕は落ち着いてその攻撃を見切り、横に躱す。が、それを読んでいたのか、斧が地面にぶつかる直前で、向きを変え、こちらに方向を変える。
嘘だろ!? こんなことこともできるのかよ⋯⋯。僕はしゃがんでこれを躱す。力いっぱい振り抜いたのか、追撃はなかった。
一旦ヤツから距離をとる。一度様子を見るか。しばらくやつを観察する。
次の瞬間、ヤツが炎に包まれた。いや違う、アイツが魔術を使ってきたんだ。おいおい、こっちの魔術は封じてくるくせに、あっちからは普通に魔術を打ってくるのかよ。理不尽だ。
「『付与』魔術切断!」
僕は自身の剣に魔術切断を付与する。僕の剣が淡い虹色に光に包まれる。
炎弾が僕に迫ってくる。だけど僕は慌てずに魔術を斬った。
この『魔術切断』とは、自分の武器に付与すると、魔術を斬るとができる、というものだ。
斬られた炎弾は、勢いを失い、二つに割れ、霧散した。
次々に炎弾が飛んで来るが、そのすべてを真っ二つに斬り裂く。
こころなしか、ゴブリンコマンダーの表情に驚きが浮かんだように見えた。
僕は次々に炎弾を斬り、ゴブリンコマンダーに近づいていく。ついに、剣が届く範囲に来た。僕は全力で、剣を振るう。
が、剣は見えない壁に阻まれたように止まった。僕は一瞬驚き、動きが止まってしまった。
ちっ、防御魔術まで使えるのかよ。
ゴブリンコマンダーはその隙を逃さずに、斧を横に振る。
僕はなんとか剣で防ぎ、直撃を防いだが、押し合いに負け、後方に吹き飛ばされる。
力も強いとはな⋯⋯。いや、フルスイングだから当然か。
「『飛翔』」
僕は『飛翔』を使い、吹き飛ばされた方向と反対に加速し、勢いを完全に殺した。
ふー。使えるようにしておいてよかったあ。『風力推進』よりも使い勝手がこっちのほうが圧倒的にいいのだ。念のため瞬間構築できるようにして正解だった。
これで気づいたことがある。攻撃魔術はすぐに『術式破壊』で破壊されるけど、ゴブリンコマンダーが認識できないくらいの速度の防御魔術や、支援魔術は破壊されないっぽい。さっき、女性の一人が使おうとしていたときは、術式構築が遅く、ゴブリンコマンダーに術式を破壊されたのだろう。
いいこと発見しちゃった。
「大丈夫ですか!?」
マントを羽織った女性が聞いてくる。かなり心配そうだ。
「大丈夫でーす!」
とりあえず返事しておく。その声を聞いたからか、見るからに安心したような仕草をする。どうしてだ?
まあ、それは置いといて⋯⋯。僕は再び、ゴブリンコマンダーに集中する。
どうやら今の攻撃で大ダメージを負ったと思っていやがる。まあ、ほとんどノーダメだけどね。
その表情、驚愕に染めてやる。防御魔術と、支援魔術を破壊するには時間がかかるという弱点は、かなりでかいぞ。
練習はしたけど、省略発動に成功したことはないけど、やってみるか。
「『空間移動』!」
一瞬で景色が切り替わり、目の前にゴブリンコマンダーの背がある。うまく成功したようだ。僕は剣で背中を斬る。
「ギャアアア」
ゴブリンコマンダーが悲鳴を上げる。急に消えたと思ったら、背後を深々と斬られたんだ。悲鳴を上げないほうがおかしい。
フッフッフ、ざまあ見やがれ。
今僕が発動させた『空間移動』は、現代ではほとんど使い手がいない、王級魔術だ。術式で空間と空間をつなぎ、その間を移動する魔術だ。長距離の移動や、不意打ちにはもってこいの魔術だ。
ただし、術式構築に途方もない時間が必要なので、省略発動が使えないと、全然役に立たない魔術だ。
今まで、省略発動が成功していなかったけど、成功して良かったよ。それに、今のでコツを掴んだし、次からも使えるだろう。
ゴブリンコマンダーだって、斬られて黙ってはいない。斧を振り下ろしてくる。だけど、さっきよりも遅い。さっきの攻撃で、かなりのダメージを与えられたようだ。
僕は、最小限の動きで、攻撃を躱す。ドガアァ! とけたたましい音がなるが、地面の凹み具合から察するに、火力も下がっているようだ。
ゴブリンコマンダーの足元は自らの鮮血で、赤に染まっていく。
ゴブリンコマンダーは、地面に刺さった斧を抜こうと必死になっているがうまく抜けていないようだ。
その隙を見逃す僕ではない。自身の剣に貫通強化を施し、ゴブリンコマンダーの心臓に剣を突き刺した。
ゴブリンコマンダーは一度、ビクン! と痙攣し、動かなくなった。刺した剣を引き抜くと、ゴブリンコマンダーは、膝から崩れ落ちた。
よし、討伐完了っと。ふと、ニウスたちの方を見るが、あっちも片付いていた。死者は出ていないっぽい。良かった。
おっと、忘れてた。
「すいません。大丈夫でしたか?」
僕は、女性二人に声をかけた。
「はい、ありがとうございます」
「ご助力感謝します」
二人にお礼を言われる。
「気にしないでください。当然のことをしたまでです」
僕は笑顔で返す。
そんな会話をしていると、ニウスと、エリスがこちらに来た。見た感じ怪我は無さそうだ。騎士たちもこちらに来たようだ。
「じゃあ、僕達は行きますね。道中には気をつけてください」
「あの──」
そう言ってこの場を離れようとすると、マントを着た女性に呼び止められた。
「どうしたんですか?」
「あの、あなた達はこれからどこへ?」
行き先を聞かれた。まあ、隠す必要もないし、素直に答えるか。
「王都に向かっています」
「でしたら、私達を、王都まで護衛してくださいませんか?」
護衛してほしい、か。まあ、僕は問題無いけど、二人はどうかな?
ちらっと二人の方を見ると、二人とも頷いてくれた。好きにしろってことかな?
「わかりました。その依頼、お受けします」
「ありがとうございます」
なぜだか嬉しそうにしている。なんでだろ。
「自己紹介をしますね。僕は、ユートで、左から、エリス、ニウスです。あなたは?」
僕が代表して、自己紹介をする。すると、マントを着ていた方の女性が、フードを脱いだ。金髪碧眼で、髪は、ポニーテールでまとめられている。人形のように整った顔立ちをしていて、思わず見とれてしまう。さながらどこかの王女さまみたいで──。
「申し遅れました。私は、グラディア王国国王、オーディン・S・グラディアが娘、リュミエール・S・グラディアです。こちらの方は、グラディア王国宮廷魔術師筆頭、メイジです」
⋯⋯えっ? マジモンの王女様!? 思わず、平伏してしまった。横を見ると、二人とも僕と同じように平伏している。
「ちょ、顔を上げてください。居心地が悪いです。それに、ここは正式な場では無いので、自然体でいてください」
「わかりました。そうさせていただきます」
そう言われたので、僕は自然体にする。ふと、横を見ると、まだ二人とも土下座を敢行している。
「ちょっと、二人とも、王女様もこう言っているし、自然体になれば?」
「そんなことできるか!! なんでユートは逆にそれができるんだよ」
「そうよ、恐れ多くてできないわ!」
説得しようとしたら、怒られた。なぜだ?
「本当はこんな手は使いたくありませんが、恩人に頭を下げられるわけにもいかないので、やむを得ません」
そんな独白めいた、言葉を僕ははっきりと聞き取った。
「申し訳ありません。命令です。自然に接してください」
そんな命令ある!? 僕は思わず心の中で叫んでしまった。だってしょうがなくない? 命令ってもっとこう⋯⋯なんていうんだ、自分有利になるものじゃない? なのにこの王女様は、自然体で接して、っていう命令だよ。前代未聞すぎるだろうなあ。
「ご命令とあらば⋯⋯」
「大丈夫だよな⋯⋯」
二人も渋々納得したようだ。命令で、自然体で接するってどういうことだよ⋯⋯。まあいいか。
「改めてよろしくお願いします」
僕は手を差し伸ばした。
⋯⋯しまった。いくら自然体でも、王女様に握手を求めるなんて無礼だよな⋯⋯。
「はい、よろしくお願いします」
そう言って王女様は握手に応じてくれる。ふー、良かった。
なぜだか顔が赤い気がするがきっと気のせいだろう。
こうして僕らは、魔物に襲われている所を助けたら、王女様で、王都までの護衛を引き受けることになったのだった。




