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旅路はいずれモノミスへ  作者: 天織 星桂


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9/13

9話 自由行動

 翌日。

 今日はまだ出発せず、街の中を見ることにした。

 「じゃあ、自由行動にしようか。夕方には宿に帰ってきてね」

 「わかった! 行ってきます」

 そう言って、ウィローさんと宿の前で別れる。手にはお金の入った袋を握りしめて。

 魔石の提出で報奨金を受け取った後、ウィローさんが半分を僕にくれた。

 初めて自分で魔物を討伐して手に入れたお金は好きなものに使って、ということらしい。

 ――ほとんど手伝ってもらったようなものなのに。

 そう思いつつも、街を見て回るのは魅力的だ。いままで、1人で思うがまま買い物をする、なんてことなかったし。

 スキップでもしてしまいそうなほど、足取りは軽い。

 

 まず、見つけたのは食べ物を売っている露店だ。

 一番手前にあったのは串刺しの肉料理店だった。煙が風に乗って香ばしい香りを伝えてくる。

 ――これにしよう。


 「すみません。串焼き一本ください!」

 「はいよ! 熱いから気をつけな」

 「ありがとうございます」

 先ほどもらったお金を店員さんに手渡し、串焼きをもらう。

 自分一人で買い物なんて初めてだから、ちょっと手が震えていた。

 震える手で落とさないように気を付けながら、肉にかぶりつく。

 ――おいしい!

 最近はたくさん運動をしているためか、食べるものすべてがおいしく感じられる。だけど、その中でもこれは一級品だ。

 

 露店の食べ物の値段は安く、ほかにもおなか一杯になるまで食べ歩いても、お金は少し余るくらいだった。

 自分で初めてお金をもって、はじめて物の値段を知ったかもしれない。先生に連れられて行った店で、値札を意識したことなんてなかったから。

 ――これも成長、かな?

  

 一通り露店を見終わったあと、街のベンチに座り、街行く人たちをぼんやり眺めていた。

 改めてみると、いろんな人たちがいる。お年寄り、青年、少女。みんな揃って笑顔だ。

 のどかな街だ。足音、雑談の声、すべてが心地いい。

 

 ふと、ベンチの向かい側にある露店に目をやった。ガラス細工を売っている店のようだ。

 天井から吊り下げられているのは星のような見た目の、ガラスの工芸品。

 店に差し込む光を受けて、複雑に光が反射している。

 べつに、買おうと思ったわけではない。ただ、その輝きを近くで見たくなった。

 半ば無意識で、ベンチを立ち上がった、その時。

 

 ……休暇かい? そんなことしている暇が君にあるとでも?


 ズキンッと。頭が割れるような感覚がする。

 ――なんで、また。どうして今なんだ。

 視界が端から黒い光が覆う。立っているので精いっぱいだ。

 また、あいつだ。いつも突然やってくる。

 心臓の音が体中に響き、呼吸が早くなる。

 ――そうだ、鍛錬、鍛錬をすれば。

 ウィローさんに稽古をつけてもらった時のことを思い出す。ひとしきり動いた後は、あの声もいなくなったはずだ。

 とりあえず、なんとか動く足で街の外側を目指す。

 先ほどまで、幸せそうに歩いていた人々の目が、異常なものを見るような目に変わって僕の方を見ている。

 僕から逃げるように足を進め、僕を嘲笑う。

 本当はそんなことない。でも、そんな考えが捨てられない。

 その恐怖に、体を小さくすることしかできない。

 

 ……忘れるなよ。君は……

 自分の頭の中からか、地底からかもわからないような低い声が頭にまとわりつく。

 忘れるなって、僕に言われてももう何も残っていないのに。

 ――どうして、お前は……

 誰とも知らないこの声を、心の底から恨むことしかできなかった。

 町の外れには広く広がる草原があった。ここなら、思いっきり動けるはず。

 正直、ここに来るまで走ったため、胸がすごく痛い。でも、体は止まってくれなかった。

 「せいっ……やぁぁぁ!!」

 鞘から短剣を抜いて力任せに振る。

 「ていっ!! はあぁぁぁああ!!」

 体が完全に剣に振り回されている。とても正しい振り方とは言えない。

 でも……体が勝手に動いてしまう。

 短剣を握る手に力が入りすぎて、手は赤黒くなってしまっている。

 目の端に汗か涙かもわからない液体が流れる。それを拭う余裕もない。

 ……そうだ。君はそれでいいんだ。

 まだ頭の中の声は消えてくれない。

 

 「グォォ?」

 背中から突然聞こえた声に、固まる。

 振り向かなければ対処はできない。でも、振り向くのは怖い。

 何とか、錆びついた人形の首みたいな動きで後ろを振り向くと……案の定、狼の魔物が。

 街中なのにどうして、とか、戦わなければ、とか、なんで3回も、とか。

 いろいろ思うのに、さっきとは打って変わって体は動いてくれない。

 「グルルルル……」

 魔物は一歩一歩、草を踏みつけてこちらに向かってくる。


 短剣をにぎり直して、何とか狙いを定める。

 「たぁぁ!!」

 頭を狙い、一振り。かわされた。

 腕に振り回されて、そのまましりもちをついてしまう。

 

 どうすることも、できなかった。

 「た、たす……」

 ――ウィローさん、たすけて。

 最後の瞬間、ここにいない人の助けをただ祈ることしかできなかった。


 攻撃が、来る。

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