10話 ダイアリーのメッセージ
エラルドと別れた後、本屋に来ていた。
おばあちゃんの冒険記をはじめ、本を読むのは大好きだ。
とはいえ、旅をしている以上、たくさんの本を持ち歩くわけにはいけない。
だから、街につくたび、持っている本を売って、新しい本を2冊ほど買うようにしている。
これが、新しい街に来た時の楽しみだった。
本屋につくと、まず新しい本をチェックする。気になるものはタイトルを手帳にメモ。
古い本の話なら、手帳に書き込むと、ダイアリーが返事をくれることもある。外の世界を見るのに必要な魔力に比べれば、手帳の文字を見たり書くのに必要な魔力は非常に少ないそうだ。
『ファーディナンド冒険記の批評本、ですか。内容は……ふむ、合理的ですね。ただ、当時の社会情勢に触れていないのはいただけない』
ファーディナンド冒険記に関する本の感想はちょっと辛口だ。言っていることはまっとうだけれども。
買う本を決めたら、支払いをして店を出る。
町をぶらつきながらあたりを見渡す。
どこか本の読めそうなところ……日陰で、風通しが良くて、暑くないところ。
しばらく歩くと、道の真ん中に大きな木が立っているのが見えた。
周りには木のベンチがいくつか置かれていて、新聞を見る人や、待ち合わせをしているであろう人がいた。
――ちょうどいい。ここにしよう。
ベンチに腰掛け、本を手に取り、読み始める。
街を行き交う人たちの足音が集中を高めてくれるようだ。本を読む場所として最高だ。
今日選んだ本は、レイファンの文化についての本。
これから向かう国のことを調べておこうと思った。
「気候は寒冷、面積は同盟国最大。建国は900年前」
重要な情報はメモを残す。書いた方が頭に入っていく感じがする。
「北部では、魔獣と呼ばれる魔物が60年周期で発生。原因は……」
魔獣。おばあちゃんから話を聞いたことがある。
おばあちゃんが旅をしていたころ、ちょうど魔獣の発生周期だったらしい。「英雄」なんて呼ばれるようになったのも、この魔獣討伐に尽力したのがきっかけだったはず。
おばあちゃんの旅をモチーフにしたファーディナンド冒険記にも、この記述があった。主人公メテオは二人の旅の仲間とともに、この魔獣の根源と戦うことになる。
そこで、ふと思う。60年周期で魔獣の発生があるなら、そろそろその時期ではないか、と。
自分の見解も書き留めておこう。そう思って、手帳に目線を落とす。
すると、書いた覚えのない文章が増えていた。
『ウィローさん、エラルド君が危ないかも知れません』
ダイアリーの筆跡で、そう書かれていた。
――どういうこと?
返事を手帳に書き込む。訳が分からないけど、なにか悪いことが起きているみたいだ。
『街の外れにエラルド君はいます。そちらに向かってください』
なんでダイアリーが手帳の外の世界のことを認識できているのか、疑問はあるけど、今気にするのはそこじゃない。
――わかった。すぐ向かう。
そう書き込んで、本をしまい、立ち上がった。
◇
『街の外れ』とはどこだろうか?
ダイアリーに聞いてみたが、『行けば分かる』らしい。
とにかく、露店の並ぶエリアをぬけ、人の少ない方に足を進める。
「本当にこっちであってるの? いったいエラルドになにがあったの?」
疑問はあるが、手帳に書き込む時間はない。
ただ、エラルドの無事を祈って、街の外側に向かって走った。
突然、光の柱が立つ。建物の間から方角も分かった。
「『行けば分かる』ってこのこと……!?」
ヒントはこれしかないから、行ってみるしかない。
人通りの少ない道を一心に走り抜ける。
建物のあるエリアを抜けると、草原が広がっていた。
遠目からでも、人が倒れているのが見える。
「エラルド!」
そう叫びながら、走る。
周りには何もなかった。また、頭の中の声に振り回されてしまったのだろうか?
エラルドの方に向かいつつ、周りを見渡す。魔物が近くにいる気配はない。
草原の長い草に足を取られながらも、なんとかエラルドのもとについた。
「エラルド! 聞こえる!?」
上半身を抱え上げながら、問いかける。返事はない。
胸に耳を押し当てると、心臓が動いているのは聞こえた。息もある。
すこし安心したのもつかの間、不穏なものが目に入る。
エラルドの足元には、例の魔物の魔石が落ちていた。
……魔物と戦ったの?
もう一度、エラルドの体を見るが、血は見られない。
短剣が鞘から抜かれているのを見るに、交戦したのは間違いなさそうだ。
「とにかく、ここで寝かせとくわけにはいかない。宿に連れて帰ろう」
冷静になれるよう、独り言を言いながら、状況を整理する。
外傷がないか、倒れた原因はなにかも、見てもらわないとわからない。
放置しておくわけにもいかないので、魔石を回収した後、エラルドをおぶって、立ち上がる。
――私が別行動しよう、なんて言わなければ。
後悔、先に立たず。ふがいなさに涙が出そうだった。
まずは、安全を確保するのが先。そう自分に言い聞かせて、宿への道を急ぐ。




