11話 2度目の旅立ち
目が覚めると、見慣れない天井があった。
「ここは……?」
「エラルド! よかった……」
僕の寝ているベッドの横に座っているのはウィローさん。
どうやら、ここは宿の一室みたいだ。夕日が差し込んで、オレンジ色になっている。
「今日の昼に街の外れで倒れてるのを見つけて、運んだんだよ。痛いところはない?」
体を軽く動かしてみたが、痛みはない。起き上がろうとすると、頭が痛かった。
「頭が痛い……お水、もらえる?」
「わかった。とってくる」
ウィローさんが部屋を出たタイミングで、先ほどあったことを思い返す。
そうだ、いつもみたいにアイツに急かされて、行った先で魔物が現れて……
「そう、魔物に襲われそうになったんだ……それで?」
魔物に追い詰められて以降、記憶がない。あまりの緊張で忘れてしまったのか。
……ウィローさんが助けてくれたのかな。
「お水、持ってきたよ」
「ありがとう」
受け取った水は冷たくて、生き返るような心地がした。
「眠っている間に、お医者様に見てもらったの。外傷はないから、今日は安静にしてなさいって」
「わかった……なんかすごく眠い」
「今日は休みな。また後で様子を見に来るから」
そう言って、ウィローさんは部屋を出て行った。扉が閉まる音がしたのと同時に、意識も落ちていった。
次に目が覚めたのは翌日の昼頃だった。
「おはよう、エラルド。調子はどう?」
ちょうど様子を見に来たウィローさんにそう尋ねられる。
「頭の痛さはない……けど、お腹ぺこぺこ」
「そうだよね。簡単に食べれそうなものもらってくる」
しばらくして、おかゆとお水をもらった。
1日ぶりの食事は本当においしかった。体に染み渡る感じがする。
「それで……昨日は何があったの? 覚えてることを教えてほしいな」
食事も終わったころ、ウィローさんに尋ねられた。
「昨日……街を歩いてたときに、いつもみたいに頭の中から声が聞こえてきたんだ」
彼女も僕がそうなったとき、どうなるかは知っている。不安そうな顔をしている。
「それで、街はずれまで走ったんだけど……気づいたらそこに魔物がいて」
魔物がいて、戦った。けれど、すべてかわされてしまい攻撃できなかった。
「そこからはもう覚えてない……ウィローさんが倒してくれたの?」
「ううん。私じゃないよ。ついた時にはもう魔物は倒れてた」
意外な答えだった。
じゃあ、いったい誰が倒してくれたのか。
「私も気になってることがある」
そう言って話してくれたのは、昨日ウィローさんが駆けつけてくれた時にあったこと。
「街のはずれから、光の柱が立っているのが見えた。嫌な予感がして行ってみたら、そこにエラルドが倒れていたんだ」
その時にはもう、魔物もほかの人もいなかったらしい。
謎は深まるばかりだ。そもそも、なぜ魔物が街に入ってきていたかもわからない。
「エラルドが眠ってる間に、魔石を魔災管理局に提出しに行った。やっぱり、前の魔物と一緒みたいだね」
情報が出回ってないくらいに珍しい魔物に、こんな短い期間に3度も出会うなんて、そんなことあるだろうか。何か原因があるのだろうか。
「それと……ごめんなさい」
考えを巡らせていると、急にウィローさんが言った。
「え……」
「今回のこと、私が自由行動にしようって言わなければ防げてたかもしれない。エラルドの体質のことだってわかってたのに……私の判断ミスで危険な目にあわせてしまった」
悲しそうに、膝の上で手を強く握って、絞り出すように話すウィローさんをみて、思う。そうじゃないって。
――こういう時、なんて言えばいいんだろう。
「旅をしていれば、今後もこんな危険な目に合うかもしれない。これからを選ぶ権利はエラルドにある……だから」
危険なことがあって、これが嫌なら、旅をやめてもいいということだろう。
――そんなこと、言うわけないのに。
「私がもっと経験豊富で強ければ、安全な旅路にできるかもしれない……けど、現状はとてもそうはできないから」
彼女の声は震えていて、下を向いていて顔は見えないが、ほとんど泣いているようにも聞こえた。
「旅をやめたいって言われても、今の私は引き止めない。引き止められないんだよ」
「僕は……」
何かを言わないと。ウィローさんを安心させられるような言葉を。
「旅に出てから毎日が今までで一番楽しい日なんだ。だから……そんなこと、言わないで」
何とか伝えたくて、強い言葉になってしまう。
言いたいのはそうじゃない。思うように言葉が出ないのが歯痒い。
「僕は、ちゃんと選んで旅に出たんだ。何があっても、後悔しない。そう言い切れるよ」
これが僕の本音だった。
記憶喪失で頭の中の声に振り回されて……そんな現状を変えたいと思って旅に出た。
なんのかわり映えもない日々を過ごすより、こっちの方がずっと楽しそうだと思った。
「だから、旅をやめるつもりはない……今はまだ、弱くて、役に立てないかもしれないけど、僕を旅に連れて行って」
そこまで言って、はじめて、ウィローさんがこっちを見た。
彼女の目からは大粒の涙がこぼれている。
「えっ……! 大丈夫!? ウィローさん!」
「大丈夫……エラルドがそんな風に思ってくれるの、嬉しくて」
差し込む太陽の光が、雫を際立たせる。
泣きながらも、笑顔を作るウィローさんはとても美しく見えた。
「じゃあ、これからも、一緒に旅をしよう。旅をして、大切なものを見つけて、帰って来よう」
「うん。もちろんだよ。これからもよろしく」
旅において、旅立ちは1回だけじゃないみたい。
今日、僕は、2度目の旅立ちを経験した。




