7話 魔石の謎
「……いた」
エラルドとはじめの街を出発し、山道に差し掛かったところ、道の真ん中に魔物がいるのが見えた。
昨日、エラルドが襲われていた黒色の狼の魔物。とはいえ、そこまで大きくはない。だいたい私の首下くらいの大きさだ。
「本当は道に魔物は出ないはずなんだけどね。迷い出たのかもしれない」
二人で体勢を低くしながら様子をうかがう。
目標から目を離さず、耳をすませてみるが、やはりほかの魔物の気配は感じられない。
「……どうするの? どいてくれそうにはないけど」
「かわいそうだけど、討伐するしかないかな」
魔物といえど、むやみやたらに討伐してはいけない。
駆除対象になるのは、人間の領域に入ってしまった個体と、人間を襲った個体。
あの魔物は前者に該当する。
「エラルド、短剣の振り方は覚えてる?」
「うん、朝に教えてもらったやつだね」
そう言いながら、エラルドは先ほどの街で買ったばかりの短剣を手にする。
「私が魔法で目くらましをする。そしたら、魔物の頭を狙って切り付けて」
「……本当に大丈夫?」
少し不安そうな顔をこちらに向ける。
当然だ。今まで魔物と無縁な生活を送ってきたんだから。
「ちゃんとサポートするから。強くなるための第一歩だとおもって、ね」
「……わかった。やってみる」
まだ出会って1日だけど、エラルドの決断力はすごい、と思う。
本人は気が付いていないみたいだけど、すぐに覚悟を決められるのは旅をするうえで大きなアドバンテージだ。
「じゃあ、行くよ。エラルドは向こう側に」
用意ができたのを確認し、アイコンタクトをとる。
こちらも集中しないと。胸の前で手を合わせ、精神を統一する。
――さん、にい、いち
ボゥン!!と展開した魔法陣から炎が巻き上がる。
魔物は私の方に気づいたようだ。目を閉じたままだが、こちらに向かってくる。
「はぁぁぁ!!」
魔物を横から攻撃する形でエラルドが一撃を入れる。急所は外れたが、確実に魔物の横腹にダメージを入れた。
――思ったよりすばしっこいな。
そう考え、追加で魔物の足元に炎を発生させた。
成功。だいぶ動きが鈍くなる。エラルドの方が優位に立ち回れる。
「……てやぁぁ!!!」
ガツン!!と硬いものどうしがぶつかる音がした。
魔物が後ずさりをし、その場に倒れこむ。
そうして、姿は消え、あとには魔石だけが残った。
「ぜぇ……はぁ……」
「お疲れ様。討伐完了だよ」
完全に息が上がったエラルドに水を渡しつつ、魔石を拾い上げた。
「僕、ちゃんとできてたかな?」
「良い立ち回りができてたと思うよ。初めてとは思えないくらい」
「そっか……良かった」
えへへ、とへにゃっとした笑顔になる。
――獅子みたいな目と髪なのに、中身は猫みたい。
とはいえ、エラルドの才能は本物だ。パワーもあるし、技術の呑み込みも早い。
そのうち追いつかれるだろう……魔法は負けられないけど。
「魔物が消えるのは知っていたけど、実際見ると不思議なものだね」
「たしかに、普段は見る機会もないし……ついでだから魔石の話もしておこう」
そう言って、エラルドに青黒い石を手渡す。赤い双眸がそちらに向く。
「石に何か書いてある。これは……魔法陣?」
「そう。魔物の体は魔力でできていて、その設計図になるのがその魔法陣、だね」
「ウィローさんが使ってる魔法でも魔法陣を使うよね?」
「うん、あれも魔法の設計図みたいなものかな。魔力をどんな形で出力させたいかに合わせて変わるんだ」
へぇー、と興味深そうに魔石を太陽にすかしながらエラルドは答えた。
「じゃあ、この魔石さえあれば、魔物は死なないってこと?」
「そうなるね。逆に少しでも魔石の魔法陣部分に傷がつけば体が保てなくなるから」
「さっきも剣と魔石がぶつかったから、たおせたんだね……なるほど」
どうやら、知識の呑み込みも早いようだ。
「魔石は回収して魔災管理局に届け出せば、報奨金がもらえるから。依頼以外だと、貴重な収入源だね」
「魔災管理局?」
「えっと、魔物関連の色々を管理してる組織だよ。これから何度もお世話になるはず」
「……なんだか冒険って感じがする」
「そうだよ、冒険だよ」
私も、旅に出たばかりのころはこんな風だったな。
エラルドの中に数か月前の自分を見た気がした。
◇
そんな風に話しているうちにエラルドの息も整ったようなので、出発することにする。
「ウィローさん、魔石がどうかした?」
「え、うん。ちょっとだけ気になることがあって」
先ほど手に入れた魔石になんだか違和感があった。
「この魔法陣……この辺の魔物じゃ見られないものなんだ」
「そうなの?」
「うん……詳しいわけじゃないんだけど」
エラルドを襲っていた最初の魔物も、今日の魔物も、アウローラでみられる種とはわずかにだが異なっているように思えた。
「魔物は魔力溜まりから生まれてくる。魔力溜まりっていうのは強い魔力を持った生物が死んだ場所にできるもののこと」
「じゃあ、魔物たちは生まれる元になった生物に似るってこと?」
「そういうこと」
その前提で魔石をみると。この魔力の元になった存在は……
「神様の死骸から生まれた魔物かもしれない」
「神様って……例えばオーロラ様みたいな?」
「そうそう」
どこの国にも、国を治める神様がいる。
莫大な魔力と、神にしか使えない魔法をもつ。
魔石に刻まれた魔法陣は……まさに『神にしか使えない魔法』のそれにそっくりだ。
とはいえ、疑問は残る。
仮に、この魔物たちが神様の死骸から生まれてきたとして……その神様はいったい誰なんだ?
「うーーーーん……わかんない!」
ガクッと隣でエラルドがずっこけていた。
仕方ない。わかんないことはわかんないんだから。
「……これからどうするの?」
もっともな質問だ。でも、明確な答えもある。
「わからないことは、その道の人にお伺いを立てるのが一番だよ……次の街で魔災管理局にいこう」




