6話 空っぽの村にて
ある夜、とある山間の村にて。
平和なこの村に似つかわしくない、黒い衣を羽織った男2人が歩いていく。
「……まったく運の悪いこった。一年前に殺したはずのガキが生きてたって?」
「信じがたいが,上が言うことなんだから本当なんだろう」
「はー、何が悲しくてこんなド田舎に二度も来なきゃならんのだ。わざわざ国跨いでるってのにいい酒が飲めるでもねぇ」
誰も聞いてはいないと高をくくっているのだろう。不躾な会話は止まらない。
「だいたい、あんなガキひとりが何だってんだ? どうにも俺には頭のイイ奴らの言うことが分からなくってね」
「同感だ。」
雑談しながらも目的地に着実に足を進めていく。一応彼らもその道のプロであった。
「ターゲットは金髪赤目の男、……背中に魔法陣がある」
「どう調べるんだ、追い剥ぎでもするのか?」
「冗談はよせ。魔法解析でどうとでもなる……おい」
会話を止め、耳を澄ますと、自分たち以外の足音がきこえてきた。コツコツ、という音はまっすぐこちらに向かってきているようだ。
「おっと、ここで第一村人か。どれどれ……」
一人の男が光の魔法を使ってあたりを照らす。村人に正体がばれてもいいと考えているのか、男に顔を隠すそぶりはない。
暗闇にぼんやりと浮かびあがったのは……白衣を着た男性だ。
「いー夜だねにーちゃん……おやおや?」
目が慣れてきた男たちに映ったのは……獅子のように獰猛な赤い目と、星のように光る金色の髪。
「オマエ、ターゲットか? それにしちゃあ、年食ってるように見えるな」
どうやら他人の空似だったようだ。まぁ、いきなりターゲットを見つけられるなんて思ってない。ここからは聞き出しだ。
「オレたち人探しをしてるんだけどよぉ、知らないか? にーちゃんみたいな髪と目のガキなんだけどよ」
じりじりと距離を詰めながら質問を投げかける。返事は返ってこない。
「1年前くらいにこの村に来なかったか? ちょーとだけそいつにお話しがあってよ」
男はさらに距離を詰める。今度は刃物まで手に取りだした。
「なぁ、何とか言ったらどうなんだ?」
刃物が白衣の男性の腹部に突き付けられる。しかし、まったく動じず、ただその両目で男たちを見据えている。
「なんだコイツ? 恐怖で口がきけなくなったか?」
「他の村人にあたるか。丁度、人質も手に入ったとこだ」
「そうだな、とりあえず逃げないように……」
ロープを取り出し、白衣の男性の手をつかもうとした、その瞬間。
「………………は?」
男が見たのは靴だった。遅れて体が地面に衝突した痛みを伝えてくる。
……つまり、どういうことだ?
地面に組み伏せられた?こんなに速く?触れられた感触も全くないのに??
「お前……ふざけるな!!」
もう一人の男が魔法陣を展開する。高密度で洗練された魔力は、一人を攻撃するには少々過剰だが……
ぱちん、と。
あまりに軽くあっけない音とともに、魔法陣はすべて消滅する。
「何……がぁ!!」
もう一人の男もまた同様に土の触感を味わうことになる。
地面にへばりついた2人を前に、彼はようやく口を開いた。
「そうか、あの子を、エラルドを狙っていたのはお前たちか」
満天の星空を背負うように立ち、男たちを見下ろす。冷たく、蔑むように。
「なんだ……やっぱり知ってるじゃねえか!?」
まだ男たちに口と意識が残っていたようだ。
そこで、最後にひとつ真実を告げる。
「あの子は……つい数日前、息を引き取ったよ。1年前、お前たちがつけた傷と心労のせいで」
次の瞬間、先ほどの正体不明の攻撃が男たちを襲う。意識はそこで途絶えた。
◇
「二日前に疑似的な魔法反応を発信したばかりだが……もう引っかかるとはな」
白衣を着た男性、レオニードは男たちを捕縛しながらそうつぶやいた。
状態を見るに一日は起きないだろう。死んではいない。ちゃんと手加減はしている。
「……ただの雇われとはいえ、北国の者たちだ。処分はオーロラ様に任せるべきか」
次の行動を考えながら、男たちが持っていた道具袋に手を入れる。
入っていたのは小さく折りたたまれた紙。開いてみるとこの国の言語でない文字で書かれた書類のようだ。
『星の子の抹消計画について』
内容にはよく見覚えがあった。自分に向けて発行されたことさえあった。
こんな紙一枚で、いったい何人の子供たちが殺されてきたのだろう。静かな怒りが沸き上がる。
「とはいえ、今回は守れた。それを喜ぶべきか」
男たちは一旦は捕虜となるが、いずれ国に返されるだろう。その時に証言すればいい。
ターゲットである星の子、エラルドは死んだのだ、と。
「1年、か。私にとっては短い間だったが……あの子にとってどれほど長い時間だっただろうか」
再び夜空に目を向ける。いつにもまして清々しく美しい星がそこにある。
「エラルド。君はもう自由だ」
彼の旅路が安泰であるように、自分はやるべき事をしよう。そう決意を新たにする。
手始めに意識のない男をつかみ、村を出発した。
7話は 5/28 20:00 投稿予定です




