表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅路はいずれモノミスへ  作者: 天織 星桂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

4話 突然の朝練

 「……ん」

 家を飛び出した日の翌朝、エラルドは差し込む朝日で目が覚めた。

 「あれ……?」

 見慣れない天井に違和感を覚え、体を起こそうとする。

 ――っ痛い

 全身に痛みが走る。そこで思い出した。昨日、必死に走ったのだ。なぜ?家出して森の中を歩いているところを魔物に見つかり追いかけられたから。

 そんなところを、ある冒険者の女の子が助けてくれた。

 ――ウィローさん、だっけ

 もう絶体絶命だと思った瞬間、炎の魔法で助けてくれた。

 魔物の咆哮にも、魔法の熱風にも動じない姿……かっこよかったな。


 そんなことを考えながら窓に目をやると、日はまだ上がったばかりのようだ。寝過ごしてはいないはず。

 「ちゃんとお礼を伝えないと」

 といっても、まだ早い時間だ。考えを整理するために外の空気を吸う時間くらいあるだろう。

 そう考え、起き上がり最低限の準備だけ済ませると、部屋を後にした。 

 外に出ると、宿の隣には湖が見えた。昨日は暗くて気づかなかったが、今は朝日を反射してキラキラと輝いている。

 ――きれいだな……

 今まで見たことのない美しい景色に心を奪われる。自分一人でこの光景を見ているという事実は、今までにない開放感を感じさせる。

 と、そこで湖の対岸のほとりに座り込んでいる人がいることに気づいた。紅色の頭が見える。

 ――ウィローさんだ。

 近くに行ってみてみると、楽しそうに鼻歌を歌っているのが聞こえてきた。

 「ん……? あ、エラルド!おはよう」

 「あっ、おはよう……ございます」

 音は立てていなかったつもりだが、突然、彼女が振り向き、その緑色の瞳と目が合う。とっさに挨拶を返す。

 「探してた? ごめんね。朝の日課みたいなもので」

 「ううん、平気……それと、昨日はありがとうございました」

 どうしても伝えなくては、と言葉が先走る。

 「どういたしまして。昨日も言ったけど、君が無事でよかった」

 急な僕の言葉にも、笑顔で返してくれた。本当、良い人だ。

 「痛いとことかない? 寝て起きてから痛さに気づくこともあるしね」

 「走りすぎで足が少し痛いくらい。全然大丈夫……です」

 「なら良かった。」

 そう言いながら、ウィローさんはポンポンと軽く地面を叩いた。横に座れという意味のようだ。

 芝生の上に腰かけて、目線を合わせると、彼女が手にしているものが見えた。ペンと手帳のようだ。

 「何か書いてたんですか?」

 「これ? 日記を書いてたんだ。旅の記録をつけるようにしてて……大切な人との約束でもあるの」

 旅の記録。彼女は冒険者だと言っていたはずだ。

 「冒険ってどんな感じですか? いままでどんなところに?」

 「まだ旅に出て1か月だから、そんなにたくさんはないけど……5日前までは国都のアウローラにいたよ」

 僕たちの住む国、テラアウローラの国都、アウローラ。

 記憶の限り、ずっと山のふもとの村に住んでいた僕には、ピンとこないけれど、石畳の道を毎日多くの人が行き交っていくらしい。

 「私も山の多い地域で育ったから……見渡す限り、緑が見えないのは変な感じだった。でも、すごく活気にあふれた場所だったよ」

 活気あふれる商店街、荘厳な城郭、道を行き交う様々な種族の人々。

 頭の中に光景が浮かんでくる。

 ――いつか、僕も、こんな風に、

 

 ……こんなことしてていいの?早く強くならないと


  突然、後ろからガツンと頭を殴られたような衝撃が襲う。

 ――なんで、今なんだ

 衝撃の正体はよく知っている。一年間、ずっと僕を苦しませ続けたヤツだ。

 不快な心臓のが頭に響く。腕が爪の刺さる痛みを伝える。

 ――どうしよう。ウィローさんの声が、聞こえない。

 水面に反射する光が黒くなっていく。視界が狭まる。

 そう、僕は、一刻も早く強くならないといけなくて、

 もう、二度と……を……ない……に……

 意識が完全にヤツに取り込まれてしまいかけた、その時。

 

 「エラルド!」

 ウィローさんの声と、強く握られた手の感触。自分の体が輪郭を取り戻していくのを感じる。

 「大丈夫?急に走りだしたからびっくりしたよ」

 「……ごめんなさい。僕、また」

 「謝ることないよ……座れる?」

 ウィローさんに促されて、半ば崩れ落ちるように座り込む。背中をさすられているうちに跳ね上がった心臓も落ち着きを取り戻してきた。

 「昨日も言ったけど……記憶喪失になってからずっとこうなんだ。」

 なんとか絞り出した声で事情を話す。自分を制御できない自分が情けなくてたまらない。

 こんな状態で、旅に出るなんてやっぱり無理じゃないか。そんな考えが頭の中を支配する。

 「やっぱり、僕には無理かなぁ」

 そんな風に弱音を吐いた。しかし、返ってきたのは意外な言葉。

 「エラルド、剣の練習を一緒にやってみない?」

 「え?」

 彼女の発言の意図が汲めず、つい間の抜けた声が出る。

 「少しずつでも強くなっていけば、頭の中で聞こえる声も多少は納得しておとなしくなってくれるんじゃない?昨日も思ったけど、エラルドって全然運動できないわけじゃないし」

 それに、と言いながら僕の正面に立って続ける。

 「旅に出てみたいんでしょ?やってみて無駄になることは絶対ないと思う!」

 昨日、僕を助けてくれた時のように。もう一度、僕の手を引いてくれた。

 朝日を後ろにうける彼女の紅色の髪が透けてキラキラしている。

 「わかった。一緒にやらせてください!」

 うん、と嬉しそうな声が聞こえた。

 「これが、いつも使ってる短剣と同じ大きさのだね」

 一度部屋にもどり、練習用の木の短剣を取ってきてくれた。

 「人に教えるのは初めてだから自信ないけど……まずは動きを見てて」

 そう言って、短剣を構える。瞬間、彼女の目つきが変わった。

 ――昨日、魔法を使った時。あの時と同じ顔だ。

 瞬きの間に鞘から短剣が抜かれる。その後も、次々と短剣が振られる。空気を割く音までも聞こえてくる。

 正直、細かい体の動きは何も見えなかった。ただ、続々と繰り出される技に目を奪われていた。

 「だいたいこんな感じかな……エラルド?」

 「すごい! すごいです! あんなに早く剣を振れるなんて……」

 「ありがとう。きっとエラルドもすぐできるようになるよ」

 そう言われながら、短剣を受け取る。初めて手に取ったそれは思っていたよりずいぶん重かった。

 「持ち方は……そう、そこに人差し指をかけて。まずは試しに振ってみて」

 いわれるがまま、剣を大きく振り下ろす。

 「わわっ」

 重さに引っ張られてよろけてしまう。

 「短剣は大きく振るってよりかは、体の近くで振るイメージかな。こう……脇をしめる感じで」

 「こう、ですか」

 次は初めに足を前に踏み出して、体ごと振るイメージで動かしてみる。

 「そうそう! 呑み込みがはやいね!」

 ウィローさんは腕に皮を巻きながらそう言った。そして続ける。

 「今度はここに打ってきて。大丈夫! ちゃんと板を入れてあるから」

 腕に向かって打って来いということらしい。

 「……はぁ!」

 もう一歩前に踏み出して、腕に向かって剣を振った。結構な力で打ったはずなのにビクともしない。

 「続けておいで!」

 いわれるがまま、角度も変えながら打ち込み続ける。

 すべてふさがれてしまう。でも、少しづつ体の動かし方がわかってきた気がする。

 「……たぁ!!」

 メキッ!!と板がへこむような感触があった。

 「そこまで!」

 掛け声の次の瞬間、あっさりと腕をつかまれて制止されてしまう。

 「すごいね……初めてなのにこんなに的確に打てるなんて」

 「ウィローさんこそ。どんなに強く打ってもビクともしないし……」

 実際に冒険をしてきた人は、やはりそれに見合う実力があった。駆け出しとは言っていたけど、旅に出るまでの努力も含めてのものなんだろう、きっと。

 「どう? 気持ちは落ち着いた?」

 「そういえば……」

 頭の中で響いていた声も、焦燥感もきれいに消えていた。残ったのは心地の良い疲労感だけだ。

 「すっかりなくなりました。途中から忘れてたくらい」

 「そっか。なら良かった」

 再び彼女は笑顔を見せた。

 「じゃあ、朝食を食べに行こうか。日もだいぶ上がってきたしね」

 「はい!」

 

 こうして、自分の人生の中で忘れることのできない、大切な一日が幕を開けた。

5話は 5/26 20:00 投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ