21話 真剣勝負
食事が終わった後、僕たちは町の外れの広場に来ていた。
「二人とも、準備はいいですか」
「おう! いつでもいいぜ」
「僕もいつでも」
こんな風に誰かと手合わせをするのは初めてだ。
僕の正面には仁王立ちをしたルベがいて、少し離れたところにウィローさんとユーストマ先生、フェイさんがいる。
——緊張するな。
震える手を握りこんで、顔を上げる。
相対するルベは笑っていた。これからの戦いが楽しみで仕方ないといった感じで。
「では、始め!」
ユーストマ先生の宣言と同時に、ルベが地面を踏みこみ、距離を詰めてくる。
彼の手にあるのは一般的な長さの木刀。大きく振りかぶり、振り下ろされる。
まずは……防御!
「はぁ!!」
ゴンッ、という鈍い音をたてて木刀同士がぶつかる。かなりの衝撃で腕がしびれる、が力を抜くわけにいかない。
「ははっ、さすがに一発目からははいらないか」
「流石に……これくらいは」
会話をしながらも、確実に押されている。このまま耐え続けるのは無理だ。
だとしたら、次の行動は……回避。
体制を低くして、鍔迫り合いの状態を解消。後ずさりをし、距離をとる。
「星の光は我らに降り注ぐ」
近距離戦に勝ち目はない、そう判断し、詠唱をする。
——これでいつでも魔法を使える。
「詠唱魔法か! ならこっちも」
そう言ってルベは木刀をしまい、両手を胸の前に合わせる。
「砂礫の国の栄光を聞き届けよ」
詠唱が終わると、あたりからパチパチと音が聞こえ始めた。目視して初めてそれが電気だとわかった。
——さっき言ってた、電気の魔法か。
全方位に多くの魔法陣が展開され、電気のせいで皮膚がビリビリとするのを感じる。
「どこからくる……?」
その瞬間、背中に悪寒が走った。
——まずい!!
とっさに右に転がり回避する。うまく着地できず地面の砂が腕の皮膚を削る。
痛い。けど、あの雷に打たれればこれじゃ済まなかっただろう。
この勝負は、すべての痛さを回避したら、負ける。とにかくマシな方を選び続けるしかない。
「すごい瞬発力だな。結構なスピードだと思ってるんだが、この電撃は」
そういうルベは余裕しゃくしゃくだ。そもそも、最初の位置からほとんど動いていない。
何とか立ち上がり、心を落ち着かせる。次はどうくる?
一度、魔法陣を展開し氷の盾を作り出す。氷は電気を通さないから、これで何とか出来れば……
「それがエラルドの魔法だな……創造系か」
言い終わると同時に、正面からわかりやすく電撃が飛んできた。
盾を構えて、攻撃を防ぐ。痛みは全く感じない。
「やっぱり、通らないな。なら……」
右から気配。すぐさま電撃が飛んでくる。
後ろに下がると今度は上から。これも大きく横に飛んで回避。
「ぐっ……」
反応が遅れた右足を電撃が貫く。痛いというより、体の制御がしばらくきかなくなる感じだ。
その状態で正面に魔法陣が生成される。もう一度盾を構えるが……
パチッと火花が散る音が後ろからも聞こえた。今攻撃されたら回避ができない!!
目をギュっとつむる。
でも、これは今からくるであろう衝撃に対しての行動じゃない。頭を必死に回して、魔法陣を構築する。
「凍れ!!」
正面と背後、同時に電撃が放たれる。間一髪のところで氷の生成に成功した。
カラン、と氷の塊が落ちる音が後ろでしている。
「はぁ、はぁぁ……あぶなかった」
「これも乗り切るなんて、やっぱお前すごいよ」
ルベはそう言うけど、今のは運が良かっただけだ。実力差は埋めきれない。
今だって、ルベは息も切れていない。
僕と彼の間に大きな力の差があるのは今ので十分わかった。とすれば、目標は勝つことじゃない。
一発、それだけでいいから攻撃を入れて見せる。
こんどは僕から動く。地面を蹴って、前に。
ルベの真正面までいけば、正面からの攻撃のリスクはなくなる。そう考えてだ。
「やぁぁあ!!」
木刀を右手で振り下ろす。が、当然抑えられる。
でも大丈夫。本命は左手だ。
左手に生成した氷の刃をルベの左肩に向けてたたきつける!!
「ぐっ……!!」
「やった!」
一発攻撃が入った。だけどルベもすぐに体制を整えてくる。
氷の刃は投げ捨てて、今度は細かな氷の粒を生成した。顔めがけて投げつけ、視界をふさごうとした。
バチバチバチッッ、ものすごい音が響いた。投げた氷の粒はすべて水滴に変わっていた。
「電気の熱で溶か……」
「本気で行くぜ!」
今度はルベの方から距離を詰められる。振り下ろされる剣を何とか抑え込んだ。
しかし、突然剣が引かれ、体のバランスを崩してしまう。
その間にルベは木刀を後ろに放り投げた。そして足を前に踏み込んでくる。
——攻撃が来る! でも一体何が……
一瞬、ルベの見開かれた瞳に、ヘビのような縦の瞳孔をみた。
笑っているように、見えた。
そのまま拳が腹に入る。痛みと痺れが同時に来る。
「がはっ!!」
体が大きく痙攣し、そのまま地面に崩れ落ちた。
「そこまで!」
ユーストマ先生の宣言が反響して聞こえる。頭がグラグラする。
「今回復魔法をかけますね」
地面に転がった僕のそばに先生が駆け寄ってきて、治療をしてくれた。魔法陣が展開されると全身の熱が引いていく感じがする。
——回復魔法か。レオニード先生が使ってたのと同じ……
「起き上がれるか?」
ぼんやりと考え事をしているうちに治療が終わったようだ。ルべの手が伸ばされる。その手を握り返した。
「ありがとう」
「おう! 強かったぜ、エラルド」
「僕なんてまだまだ……」
「そんなことないと思うけどな。なあ、ウィローもそう思うだろ?」
ルべが横に目をやる。視線の先を辿ると手帳を手にしたウィローさんが立っていた。
「私もそう思うよ。お疲れ様」
メモを取っていた顔を上げて、そう言って笑ってくれた。
「ほんと、楽しかったぜ。またやろうな」
「……僕がもっと強くなったらね」
「じゃあ、きっとすぐだな」
これが何度も戦う事になるルべとの、記念すべき1回目の勝負だった。




