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旅路はいずれモノミスへ  作者: 天織 星桂


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2話 英雄・ルメリク

 私、ウィローが旅立ったのは今から1か月前。

 それまで、私は生まれた村で叔母(はは)と母方の祖父母と暮らしていた。

 きっかけは祖母の死。そしてあの女性との出会い。

 

 祖母の名前はルメリク・ファーディナンド。

 彼女はかつて英雄と呼ばれるほど力を持った冒険者だった。

 冒険者を引退してからは自身の旅をモチーフとした物語、「ファーディナンド冒険記」を執筆した。主人公が旅を通して成長していく姿は大陸中の子供たちを夢中にさせた。

  

 そんな祖母だが、彼女は短命種だった。

 この世界には様々な特性を持った種族があまりに多く存在している。なので、人々はわかりやすく寿命別の分類方法を提唱した。短命種と呼ばれるのは平均寿命が150年以下であるものだ。

 家族の中で短命種なのは彼女だけ。誰よりも早く亡くなってしまうって……わかっていたはずだった。

 おばあちゃんが亡くなる前日。夕方になり家に帰ると真っ先におばあちゃんの部屋へ行きベッドの近くに腰かけた。

 いつもの日課みたいなものだ。

ベッドから動くことができないおばあちゃんに今日あったことを話す時間。この時間が私はとっても好きだった。

 その日も今日の出来事について話し、いつものように穏やかな時間が過ぎていった。体調がよかったのか、体を起こしたまま、ずっと話を聞いてくれた。

一通り今日の話もし終えたかというとき、ふとしたようにおばあちゃんが言った。

 「ウィロー、今でも旅に出たいと思ってるの?」

 「もちろん! やっぱり、おばあちゃんの話の主人公みたいに力をつけていろんな人を助けたい! それにそれに! おばあちゃんの物語って世界の御伽噺がモチーフなのも多いでしょ? それも全部知りたい! あとあと、おばあちゃんの物語は全部頭に入ってるから、まだ知らない人に聞かせてあげたい。そして一番は……」

 「一番は?」

 「私もこの世界を自分の目で全部見てみたい!」

 「ふふ、素敵な夢だわ……本当にウィローは変わらないわね、目がキラキラしてる」


 興奮気味にまくし立てる私に、おばあちゃんは優しく微笑んでくれた。

「そうそう、ウィローにこれをあげようと思っていたの」


 そう言いながら手渡されたのは、本革でできた手帳ケース。おばあちゃんの愛用品だ。使い込まれたことによって、独特の光沢が出ている。

「いいの?」

「ええ、私はもう使うことがないけど、捨てるにはもったいなくって」

「お友達がくれたものって言ってなかった? それに紐栞はおじいちゃんが作ったって」

「孫子の代まで使えるようにって、奮発して良いのを買ってくれたの。おじいちゃんもかわいい孫が使ってくれるならうれしいって」

「そっか」


 昔のことを思い出すおばあちゃんの笑顔は、とても優しく、穏やかで、温かいものだった。そんな思い出の品を託してもらえたことを本当にうれしく思う。

 そんな話をしていたら、部屋の外から声がかかった。もう夕飯の時間みたいだ。

 「ありがとう、おばあちゃん」

 そうお礼を伝えて、ご飯を持ってきた祖父と入れ違いに部屋を出た。


 その後、夜も更け、寝る前におやすみの挨拶をしに行った。

 「おやすみなさい。明日も太陽がこの地を照らしますように」

 「ええ、おやすみ。太陽が再び眠りから覚めますように」

 ……それが祖母との最後の会話だった。

 

 朝、いつもより早い時間に叔母(はは)から声をかけられた。

ひどく焦っているようだった。そしてこう聞かされた。

「おばあちゃんが……今朝亡くなったの」

 なにか話していたが、それ以降、何も耳に入らなかった。

 

 後で聞いたところによると、最期の時は祖父のみが付き添っていたらしい。朝いちばんに起きた叔母(はは)がそのことを祖父から伝えられたそうだ。

 本当に突然すぎた。叔母(はは)に連れられて祖母の部屋へ行ったが、いつものように眠っているようにしか見えなかった。

 湯灌をしたり、装束が着せられるのをぼんやりとみていたような気がする。

夜はベッドに入ったが一睡も出来なかった。何を考えていたわけでもなかったのに。それほどまでに放心していて、何も頭に入ってこなかった。


 翌朝、家族みんなで棺を担いで墓地まで歩いた。

 埋葬の儀式の時、祖父が魔法を唱えていた。得意としていた氷の魔法。朝日と相まって厳かな雰囲気の中、祖母は土の下で永遠の眠りについた。


 その夜も私は全く寝付くことができなかった。遠くない未来、おばあちゃんが亡くなることを知らなかったわけじゃない。でも、昨日今日だとは思っていなかった。横になったまま、考えがぐるぐる回るばかり。


 数日間、そんな生活が続いた。とにかく、心が自分のもとになかった。浅い眠りと少量の食事を繰り返し、過ごしていた。

 ――おばあちゃんは知ってたのかな……? 自分の命はもう長くないって……

 ある日の真夜中、ベッドに腰かけ、少し戻ってきた心でそんなことを考える。続いておばあちゃんが亡くなる前日にくれた手帳のことに思い当たる。

 ――どうして、この手帳を私にくれたんだろう……?

 考えを巡らせ始めたその瞬間。


 部屋中に魔法陣が展開される。

 「何……!?」

 見たことのない構築式からあふれ出す光の洪水。目が明けていられない……

 しばらくして、やっとあたりに暗さが戻ってきた。

 「……やっと出られた」

 聞いたことのない女性の声が聞こえる。恐る恐る目を開けるとそこには……

 「ウィローさん、ですね?」

 私の名前を呼ぶ、やはり会ったことのない金髪の女性がそこに立っていた。

 「はじめまして。わたくしはこの手帳の精霊……英雄、ルメリク・ファーディナンドとの旅路の中で芽生えた思考体です」

 精霊。人々の願いから生まれる存在。

 目の前にいる女性は自らを精霊と言った。手帳を媒体とし、英雄の旅路の中で生まれた存在であると。

 ここ数日、ほとんど動くことのなかった脳が動き出すのを感じる。目の前の未知の存在の言葉を、情報を聞き落すまいと体が覚醒していく。

 「今日、あなたの前にこうして現れることができたのは幸運でした。どうか、1つ、わたくしの願いを聞いていただけないでしょうか?」

 その問いかけに、コクリとうなずく。精霊は笑顔を見せた。

 「ありがとうございます。では、単刀直入に……ウィローさん、わたくしを旅に同行させてください」

3話は5/25 20:00に投稿予定です

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