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旅路はいずれモノミスへ  作者: 天織 星桂


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18/24

18話 精霊

 ベーラさんとの話が終わったころには、すでに日が傾いていた。

 今から森の中を進むのは危険だということで、ご厚意で一日、妖精の里に泊まらせていただけることになった。


 翌朝。

 日が上がる少し前、まだ空が薄青い時間に目が覚めた。

 ——少し里の中を見て回ろうかな。

 そう思い立ち、布団の中から抜け出して、外に出た。


 ひんやりした空気の中、鳥の声だけが響く里の中を歩く。

 空気がとても澄んでいて、心が洗われる気分だ。体を伸ばし、大きく息を吸い込む。


 湧き上がる感情を文字にして、手帳に書き落とす。いつもより、ずっと筆が乗っている。

 「うーん、最高!」

 なんて素敵な巡りあわせだろうか。おじいちゃんの故郷に来れて、こんな光景を見られるなんて。


 しばらく、周りを見渡しながら歩いていると、建物の間に広場があった。

 誰かがいる? この里の人の水色の髪ではない。

 「エラルド……?」

 「あっ、ウィローさん! おはよう」

 やはり見えた金髪の頭はエラルドのものだった。

 「おはよう。なにしてたの?」

 「ちょっと魔法の練習を。昨日妖精さん達に教えてもらったから」

 「そっか……怪我は大丈夫?」

 「うん。剣はまだ握れないけど」

 そう言って、左手を握って見せる。包帯が痛々しいが、動きは戻っているようだ。

 

 「それより見て! 昨日教えてもらった魔法!」

 エラルドが右手側に魔法陣を展開し、そこから氷の刃を生成する。

 一振りすると、軌道上に冷気が発生し、空気を凍らせた。

 「妖精さんたちは魔法の専門家だから、色々教えてもらったんだ。おかげで、上達できたよ」

 「エラルドの覚えが速いのもあると思うな。魔法をもう自分のものにしてる」

 「そうかな……強くなれてるならうれしいな」

 エラルドはきっと理想の自分に一歩ずつ近づいているのだろう。私も自分のことのようにうれしい。


 「お二人とも、おはようございます」

 声をかけてきたのはベーラさん。朝から優雅にこちらに向かって歩いてきた。

 「おはようございます」

 「朝から特訓ですか? 殊勝なことで」

 「ベーラさんはお散歩ですか?」

 「ええ。そこでお二人の姿が見えたので、挨拶に」

 ベーラさんは軽く手を振り、魔法陣を展開させ、氷の花を生成する。

 「あと、もう1つ。レイファンについてお話できるかと思いましたので」

 「レイファンについてですか?」

 ベーラさんが氷の花をなでながら、うなずく。昨日、話の流れで今はレイファンに向かっていると話したんだっけ。


 「我らの先祖はレイファンに住んでいました。今も本元はレイファンにいます」

 この里は氷の妖精たちに住む里だ。だから、その元が降雪地帯で有名なレイファンであることは不思議ではない、と思う。

 「昨日からずっと考えていたのです。同胞の命の恩人であるお二人に何をお返しできるかと」

 そういって、ベーラさんは先ほど作り出した氷の花をこちらに手渡した。

 「これをぜひ持って行ってください。特殊な魔法で生成したので溶けることはありません……これを見せれば、きっとレイファンの精霊や妖精が協力してくれます」

 「いいんですか? こんなすごいものを」

 「もちろんです……精霊とは寿命の長い種族ですから、ウィローさんの疑問に答えられる者もいるかもしれません」

 氷の花はひんやりとしていた。なんだか心を落ち着かせてくれる温度だ。

 続いて、ベーラさんがエラルドの方に向き変える。

 「エラルドさん。昨日今日過ごして、貴方の魂が……精霊のそれに非常に近いように感じました。過去を探して旅をしていらっしゃると聞いているので、その点もレイファンの精霊に尋ねてみるとよいかと思います」

 「僕の魂が……?」

 「我もこの点は曖昧にしか分からず。申し訳ないです」

 「いえ……貴重な情報です。本当にありがとうございます」


 エラルドが精霊……考えたこともなかった。

 この気配が感じ取れるのも、やはりベーラさんが長く生きてきた精霊だからだろう。

 旅の中でエラルドの体質についてヒントを得られたのは初めて。本当に良かった。


 「さあ、日も上がってきたことですし、朝食にしましょうか」

 気が付くと空は紫色に染まり、日が顔を出していた。

 私とエラルドはベーラさんの後を追って、朝食を食べに向かった。


 「二日間、お世話になりました」

 里の入り口にて、ベーラさんと助けた妖精さんに向けて礼をする。

 「いえいえ! お二人は命の恩人です! 本当にありがとうございました」

 「我からもお礼を。本当に同胞を救ってくださったこと、感謝しております。またいつでもお越しくださいね」

 

 別れを告げて、妖精の里を出発する。

 次の街はラゼンスク。魔石の謎が解明されることを祈って出発した。

 

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