16話 氷の妖精
「着きました」
妖精さんに道案内をされ、山道を歩くことしばらく。
木々の間の少し開けた場所にこじんまりとした木の家がいくつか並んでいるのが見えた。
「ここが妖精の里です。ここまで、本当にありがとうございました」
「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」
先ほどと同じようにペコペコと何度も頭を下げられる。当然のことをしたまで、だけど感謝されるのはうれしい。
「里長さまを呼んできますね。少しお待ちくださいな」
そう言って妖精さんは里の奥の方に走って行ってしまった。
「行っちゃった……まぁ、急ぎじゃないしね」
隣にいるエラルドにそう話しかけた。エラルドはさっきの左手をしきりに気にしているようだった。
「大丈夫? 手、まだ痛む?」
「あっ……ううん、平気。」
「本当? 痛みが続くようなら街に降りたときに見てもらおう」
「うん……ありがとう、ウィローさん」
先ほどのエラルドの怪我はやはり気がかりだ。悪くなっていないといいけれど。
さて、改めて周りを見渡してみる。
こちらを物珍しそうに見ている何人かの妖精さん達。彼女らにも名前がないのだろうか。どうやって呼び分けてるんだろう……。
妖精の里に訪れる機会はそうそうない。疑問が次から次へと出てくる。
「お二人とも~ 里長さまをお連れしました」
最初に会った妖精さんが、水色の長髪の女性を連れて戻ってきた。きっと彼女が里長だ。
「はじめまして、冒険者のウィローといいます」
「同じく、エラルドです」
「ようこそいらっしゃいました。我が里長のベーラです。同胞を助けていただいたこと、改めて感謝申し上げます」
そう言い、深々と頭を下げた。
その後、姿勢を戻したベーラさんはこちらに目をむけた。いや、見つめられた。
「あの……私の顔になにか?」
「ああ、失礼しました。あまりに彼に似ていたもので」
彼? 彼とはいったい誰だろうか。
そんな私の疑問にベーラさんは微笑みながら答える。
「あなたのおじいさんのガニュメデスに。彼はこの里で生まれたんですよ」
「おじいちゃんが?」
私のおじいちゃん、ガニュメデス・ファーディナンド。たしかに妖精族で長命種であると言っていたはずだ。
「どうしてそれが分かったんですか?」
「我は里長として同胞たちの気配を感じ取ることができます。ウィローさんから、ガニュメデスの気配を感じましたので」
「ということは……ここは氷の妖精族の里なんですか?」
「はい。ここは氷の妖精たちが住む里の1つです」
なんというめぐり合わせだろうか。たまたま助けた妖精さんの里が、おじいちゃんの故郷なんて。
「ふふ、実はルメリクさんもこの里に来られたことがあるんですよ。ちょうど二人が新婚のころでしたか」
おばあちゃんまでこの里に来たことがあるのか。
私は今、確実に二人の旅路をたどっているんだ。そう考えるとうれしくなる。
「立ち話もなんですので、我の家に案内します。エラルドさんの手当てもしましょう」
「はい、ありがとうございます。」
ベーラさんに案内され、里の中を進んでいく。
その途中、隣を歩いているエラルドに話しかけられた。
「ウィローさんのおじいさんって妖精族の人なの?」
「そうなんだよ」
「どんな人なの?」
「うーん、魔法がすっごく上手で……私に氷の魔法を教えてくれたのはおじいちゃんだったんだ」
魔法が上手。これは本当のこと。
でも他にほとんどエピソードがない。
おじいちゃんはとにかく静かな人だった。私の話はいつも聞いてくれていた。
でも、おじいちゃん自身の話を聞いたことはほとんどない。知っているおじいちゃんの昔話は全部おばあちゃんから聞いたものだ。
もしかしたら、ベーラさんからおじいちゃんの話を聞けたりしないだろうか。
冒険者となった今、おばあちゃんと同じように旅人だったおじいちゃんの話を聞きたいと心から思う。
(それと……おばあちゃんが旅をやめた理由も)
旅に出る前からずっと気になっていたことがあった。
どうして、英雄とまで呼ばれたおばあちゃんが旅をやめ、1つの場所に住み続けたのか。
あんなに旅が、世界が好きな人がどうして。
なんだか、本人にそれは聞いちゃいけないような気がしてた。だから、結局わからないままで。
(旅をしているころのおばあちゃんを知っている人……なにか少しでも情報が欲しい)
「ウィローさん? なにか考え事?」
「あ……ごめん」
ついつい、自分の世界に入り込んでしまっていたみたいだ。おばあちゃんの事となると考えすぎてしまう。
「もうすぐ着くって、ベーラさんが」
「そっか。ありがとう、エラルド」
いったん頭を切り替えないと。エラルドの怪我の手当てもしないといけないし。
でも……もしかしたら、おじいちゃんやおばあちゃんの事が知れるかも。その期待は捨てられないままだ。




