14話 初めての魔法
「じゃあ、魔法について説明するね。まずは魔法の原理から」
街を出発し、森に差し掛かったところで、ウィローさんがそう切り出した。
「魔法っていうのは、魔力っていう力を変化させて発生させるの」
「魔力……魔物の体を作ってるものだよね」
「そう、あれも魔力だね。魔物はすべて魔力からできているから」
僕が知っている魔法は、魔物を構成する魔法と、ウィローさんの炎の魔法だけだ。
「魔法で一番大事なのは魔法陣! あれがないと魔法が成り立たたなくなっちゃう」
ウィローさんが言うことをまとめると……
魔法陣の役割は2つ。
ひとつ目は魔力の形を自分の望むように書き換えること。
ふたつ目は魔力を虚界から引き出すこと。
「虚界……ってなに? 多分初めて聞いた」
『前』にも聞いたことのない言葉だったのか、まったくイメージがわいてこない。
そんな僕の反応に、ウィローさんは緑色の目を伏せながらしばらく考え込み、その後、ポンッと手を打った。
「エラルドはさ、この世界がもうひとつあるって考えたことある?」
「世界がもうひとつ?」
「うん。この世界と同じように広い世界が広がっていて……でもそこには人間も動物も、魔物さえ何もいないんだ」
一度、そんな世界について思いを馳せてみる。
この世界に布1枚隔てたところにある、重なっているけれど、何もない世界……
「なんとなくわかるかも」
「それが虚界っていうんだ。その世界は何もない代わりに、魔力だけが満ちている」
「つまり……魔法陣がその世界とこの世界をつなげるってこと?」
「大正解! やっぱエラルドは呑み込みが早いね」
褒められてついつい、口角が上がってしまう。ウィローさんに見られないよう、ちょっと顔を伏せた。
「つまり、魔法陣を使ってこの世界に魔力を引き出して、それから魔力を整えれば魔法が使えるってこと。これさえわかってれば魔法を使えるようになるよ」
理論はなんとなくわかったと思う。あとは実践あるのみだ。
「次の休憩地点で魔法陣を教えるね」
初めて使う魔法……どんな感じだろう。
楽しみが目の前にあると、足が軽く感じるような気がする。
しばらく歩くと、森の中に開けた場所があった。
ちょうどいい岩に腰掛け、足の疲れをとる。
連日の移動で、足が痛くない日はない。でも、置いてかれないよう、ついていかないと。
「じゃあ、やってみようか。魔法陣を展開するためには、まず魔法陣の形を覚えるとこからだね」
休憩を取った後、ウィローさんがそう言いながら地面に木の棒で魔法陣を書き始めた。
「これは、ウィローさんの炎の魔法の魔法陣?」
「そうだね。いつもよりはだいぶ小さくしてあるけど」
魔法陣を書く手に迷いは全くない。地面の上に円状の模様が出来上がる。
「この模様を覚えて。そしたら次は魔法陣の展開ね」
お手本として、ウィローさんが模様に手をかざして、魔法陣を展開する。
光が地面の図形にそって広がり、小さな炎が発生する。
「魔法陣の展開は頭の中で図形を浮かび上がらせるイメージで……言葉でいうのは難しいから、実践あるのみかな」
そう言われ、魔法陣の前に立った。
目を一度瞑り、開く。呼吸を整える。
——魔法陣をイメージ。できる。大丈夫。
「——燃えろっっっ!!」
言葉を放つと同時に魔法陣が光りだす。
……だけど、いつまでたっても、炎は出てこなかった。
「はぁ、ふぅ……失敗だったかな」
集中しすぎて、息が止まってたみたいだ。少し頭がぐらぐらする。
「どういうこと……? ちゃんと道は空いているのに」
ふと横をみると、ウィローさんが考え事をしているようだった。
いや、深刻な顔というのか? すごく困ったような、悩んでるような……
「どうかしたの? ウィローさん」
「ん……ああ、ごめんね。ちょっと考え事を」
そう言ってしゃがみ込み、地面の魔法陣を指でなぞっている。
「やっぱり、魔法陣の形に間違いはない。光っていたから、魔力を通す道が開いてたはず……なのになんで何も起こらなかったんだろう?」
「もう1回試してみてもいい?」
「もちろんだよ。原因が特定できるといいけど」
改めて、魔法陣の前に立つ。手をかざす。
さっきと同じように魔法陣から光があふれる。でも、魔法は発動しない。
「こんなこと、初めて。原因が分からない……」
ウィローさんは手帳を取り出して、何かを書き始める。
しばらくして、ウィローさんが呟いた。
「”星の光は我らに降り注ぐ”」
そう言った途端、ポンッと魔法陣から小さな炎が発生した。
「わっ」
突然のことで驚いてしまう。いったい何があったのだろう?
「詠唱魔法っていうやつだね」
「詠唱魔法?」
またもや聞いたことのない言葉。なんだか難しそうだ。
「魔法がうまく使えない人が、祝詞を唱えるとうまくできることがあるんだ。エラルドもそのタイプなんだね」
「……今の魔法は僕のだったの?」
「そうだね。祝詞を唱えたのは私だけど、魔法はエラルドのだね」
「なんだか不思議な感じだ」
そうか。魔法を使えたのか。
確認のために、もう一度やってみよう。祝詞はたしか……
「星の光は我らに降り注ぐ」
ボウゥと魔法陣から炎が起こる。
「ほんとにできた……」
「うまくいって良かった。おめでとう、エラルド」
強くなるための第一歩になっただろうか。
まだまだ魔法の修行は始まったばかり。もっと、練習を重ねなければ。




