13話 夜の小話
「ふぅ……おいしかったね」
宿への帰り道、隣にいるエラルドにそんな風に話しかける。
「うん。ウィローさんの弾き語りもあって、いつにもましておいしかった」
「そういってくれると、やったかいがあるね」
自分の歌で人が喜んでくれるのを見るのが好きだ。いつもそばにいてくれる人が言ってくれるなら、なおさら。
「そういえば、ウィローさんはどうしてあんなに物語を覚えているの?」
「あの物語……ファーディナンド冒険記は、私のおばあちゃんが書いたものなんだ」
ちょうどいいタイミングだった。エラルドにもいつか話したいと思っていたから。
「そうなの!? 旅に出た理由でも言ってたけど……そんなにすごい人だったんだね」
「そう。おばあちゃんは本当にすごい人だった」
優しい夜風が街に吹いている。こんな静かな夜は、大切なことを話すのにちょうど良い。
「おばあちゃんは、私が旅に出る数日前に亡くなったんだ」
「……!」
突然の告白にエラルドは何も言えないみたいだった。
私も、少し前までは気持ちの整理がついてなかったから、こんな風には言えなかっただろう。
「おばあちゃんは亡くなる前の日に、手帳を私にくれた」
そう言いながら、手帳を取り出す。ちょっとずっしりとしていて、安心感を覚える。
「記録をつけている……って言ってたよね」
「そう。おばあちゃんも同じように旅をしながら手帳に記録をつけていたらしいの」
この手帳が旅に出るのは2度目。私よりも広い世界を見てきている。
「旅に出た理由はたくさんあるけど、理由の1つがこの手帳に宿る精霊だった」
「精霊?」
「うん。精霊っていうのは、物や場所に人の願いが集まってできる存在なんだけど……旅をしているうちに、この手帳にも精霊が宿ったみたい」
「そんな不思議なことがあるの?」
ダイアリーの話をするのはこれが初めて。エラルドが驚くのも無理はない
「私もすごく驚いた。おばあちゃんが亡くなって何日か、悲しさで何もできないところに急に現れたから」
あの夜のことを思い出す。おばあちゃんが亡くなってからしばらくのことはあまり覚えてないけど、あの夜のことは鮮明に記憶している。
「その時、旅に出ようって言ってくれたんだ。それがなかったら……私は今も家にいて、エラルドとも出逢ってなかったかもしれない」
あの時は、本当に何も手につかず、旅に出たいことさえ忘れてしまっていたから。
「精霊は今も手帳に宿ったまま?」
「そうだよ。姿は見えないけど、昨日エラルドの危険を教えてくれたのも精霊……ダイアリーだったんだ」
いまだ理由はわからない。だけど、あの時ダイアリーはエラルドに危険が迫ってると教えてくれた。
「そうだったんだ……じゃあ、僕にとって命の恩人だね。ウィローさんと一緒で」
あの時は本当に差し迫った状況だった。あのとき、ダイアリーが気づいてくれなかったら、と思うとぞっとする。
「いつか直接、お礼を言いたい。姿を現してくれるかな?」
「ダイアリーが言うには、今は魔力が足りないんだって。でも、私が旅に出て、英雄になればまた手帳から出てこれるって言ってた」
英雄になること。そう言うと、なんだか無謀にも聞こえる。
でも、ダイアリーは旅をして、届く範囲で人を助けていけば、いずれ英雄と呼ばれるようになる、と言っていた。
「英雄、か。ウィローさんも一緒なんだね」
エラルドも大切な自分の記憶のために旅をしている。目的は違くても、道は一緒だ。
満天の星空の下、静かな街の真ん中で、静かに祈る。
この旅路が英雄の旅になりますように。
「さて……明日は出発だね。」
「うん。ラゼンスクだっけ」
「そう。このあたりだと一番大きい街だね」
魔物と魔石の謎は増えた。エラルドが2回も襲われているし、とても無視できない状況になった。
「僕、やっぱりもっと強くなりたいって思ったんだ。昨日のこともあるし……だから、明日、歩きながら魔法について教えてもらえないかな?」
「もちろんだよ。私にできることならなんでも」
エラルドは、出会って数日だけど、間違いなく強くなっている。
呑み込みが早いのか、一度指摘されたことは確実に直す。
そんなエラルドなら、魔法の習得もすぐだろう。
「どんな魔法がいい? 知ってる範囲なら教えてあげられるよ」
「どの魔法……考えてなかった。」
そう言って、エラルドは手を口元にあてて悩む仕草をした。
魔法の数は膨大だ。その中から自分に合った魔法を見つけるのは簡単なことではない。
最初に使う魔法が自分に合った魔法とは限らない。でも、せっかくなら気に入っている魔法を使ってみるのがいいだろう。
「じゃあ……炎の魔法がいい。一番見慣れているし」
「そっか……そうだね、私も一番得意だしちょうどいいかも」
旅の中で、魔法を使う機会は何度もあった。
もし、エラルドが私の魔法を見て、炎の魔法を好きになってくれていたなら……本当にうれしいことだ。
そんな風に話しているとあっという間に宿についた。
今日の疲れを感じながら、最後の力で階段を上がり、部屋の前につく。
「じゃあ、おやすみ。明日も太陽が大地を照らしますように」
「おやすみなさい。太陽が動く限り明晰でありますように」
おやすみの挨拶をして、それぞれが部屋に戻る。
今日はよく眠れる気がする。今日あったことを軽く手帳に記した後、ベッドに入った。




