真実
涼太は息を呑んだ。
「殺された……?」
「誰にですか。」
佐伯(犬)は静かに答えた。
「葉山清人。葉山病院の院長だ。」
涼太は思わず天音を見る。天音は静かに頷いた。
「でも。」
涼太は納得できなかった。
「どうしてそんなことを。」
佐伯はしばらく黙っていた。やがて、静かに口を開く。
「NCTは完全ではなかった。」
「感情……自己意識を完全に残すことはできなかった。」
「その事実を、葉山も知った。」
「そして。」
「葉山は、私が別の研究をしていることを知った。」
涼太は眉をひそめる。
「別の研究……。」
「脳移植だ。」
その言葉に、涼太は息を止めた。
「私は一つの仮説へ辿り着いた。」
「脳そのものを神経接続が可能な身体に移植すれば完全な自己意識を保つことができることを。」
「完全な人間として、生き続けられる。」
部屋が静まり返る。
佐伯は続ける。
「理論も完成した。」
「だが。」
「私は、その研究を公表しなかった。」
「倫理を越えてしまう。」
「健康な人間の命を、器として扱うことになる。」
「そんな技術は、この世にあってはならないと思った。」
涼太は静かに頷いた。
もし本当にそんな技術が存在するなら。悪用される未来しか思い浮かばない。
「しかし。」
佐伯はゆっくりと目を閉じる。
「葉山は違った。」
「私の研究を奪った。」
「そして、自分の病院で人体実験を始めた。」
「人体実験……。」
「医師や研究者たちを使い、人体実験を成功させた。完全なる命の継続を。」
「その後、高齢だった葉山自身も脳移植を行い、若い身体を手に入れた。」
涼太は言葉を失う。
佐伯の声だけが静かに響く。
「そして」
「葉山は、一人の男へ、この技術を提案した。」
「神崎。」
「当時、60歳。」
「総理大臣就任2年目だった。」
「神崎は悩みながらも、それを受け入れたようだ。」
涼太はゆっくりと首を横へ振る。
「じゃあ……。」
「今の総理は。」
「脳移植を繰り返して200年以上、自己意識を保ったまま生き続けている。」
佐伯(犬)は淡々と説明していく。
「もちろん国民には、公表されていない。」
「表向きは、神崎もNCTを受けたことになっているからな。」
再び静寂が訪れる。
涼太は、自分の知っていた世界が崩れていく感覚を覚えていた。
「……どうして。」
佐伯(犬)は静かに涼太を見つめる。
「その秘密を知る者は、ほんのわずかしかいない。」
「だから。」
「君の検査の結果が葉山へ送られた瞬間、私たちは確信した。」
「いずれ君が狙われると。」
涼太は無意識に拳を握っていた。
「……どうして僕なんです。」
佐伯(犬)はゆっくりと立ち上がるように身体を向け直した。
「その答えは。」
「君自身の身体にある。」
「次は、その話をしよう。」




