表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
器ーうつわー  作者: 天城そら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/38

真実

 大学を出てから30分ほど経った頃には、高層ビルはすっかり姿を消していた。


 電車を二度乗り継ぎ、人通りの少ない住宅街を歩く。真夏の陽射しは強かったが、何だか落ち着く静かな場所だった。


 「もう少しです。」


 天音は振り返ることなく歩き続ける。涼太は何も言わず、その後ろ姿を追った。


 やがて、一軒の古い日本家屋が姿を現す。立派な門構えではなく、築百年以上は経っているような木造住宅だった。庭には木々が並び、風鈴が夏風に揺れている。ここだけ時間の流れが違うような、不思議な静けさがあった。


 「ここです。」


 天音は引き戸を開けた。


 「どうぞ。」


 涼太は小さく息を吸い、中へ足を踏み入れる。

廊下には木の香りが残っていた。外の暑さとは違い、家の中は驚くほど涼しい。


 その時だった。


 廊下の奥から、一匹の小型犬がゆっくりと歩いてきた。淡い茶色の柔らかな毛並みに、丸い瞳。


 小さな足音を立てながら近づく姿は、どこから見ても生きた犬にしか見えない。


 涼太は自然と笑みを浮かべた。


 「犬、飼ってるんですね。」


 天音は静かに微笑む。


 小型犬は涼太の前まで来ると、小さく尻尾を振った。そして、ゆっくりと口を開く。


 「初めまして。」


 落ち着いた男の声だった。


 涼太は思わず目を見開く。


 「えっ……。」


 一瞬驚いたものの、すぐに納得する。犬型の人工知能。人間と見分けがつかない受け答えをするAIも、本物と区別できない生体素材で造られたロボットも珍しくない。


 この犬も、その一体なのだろう。


 「ようこそ。」


 小型犬は穏やかな声で続けた。


 涼太は苦笑した。


 「びっくりしました。」


 「本物の犬かと思いました。」


 その言葉に天音はくすりと笑った。


 「紹介しますね。」


 「こちらは、佐伯さんです。」


 涼太は一瞬、意味が分からなかった。


 「……佐伯さん?変わった名前を付けてるんですね。」


 天音は笑いを堪えながら、続ける。


 「佐伯さんはもともとは人間で、脳データをこの犬型ロボットへ移送しています。」


 その一言で、涼太の思考は止まった。


 「……え?」


 「NCTって……人間に移送するものじゃないんですか。」


 佐伯(犬)は静かに涼太を見つめる。


 「世間では、そう思われている。」


 「犬型ロボットへ移送した例は、公には存在しない。」


 「少なくとも、私が知る限りではな。」


 涼太は佐伯(犬)と天音を交互に見た。


 「じゃあ、どうして……。」


 佐伯(犬)は小さく首を振る。


 「その話は後にしよう。」


 「150年前の話をしなければならなくなる。」


 「今は、もっと先に話すべきことがある。」


 そう言うと、佐伯(犬)は居間の方へ歩き始めた。


 「こちらへ。」


 涼太はまだ状況を整理できないまま、二人の後を追う。居間には大きな木製の机と本棚が置かれ、一角には古い研究資料と最新式の情報端末が並んでいた。


 古さと未来が、不思議なほど自然に共存している。


 佐伯(犬)は机の前で立ち止まる。


 「まず、一つ確認したい。」


 「君は、NCTについて、どこまで知っている?」


 涼太は少し考えてから答えた。


 「学校で習った程度ですが。」


 「脳死判定を受けた人の身体を使って、その身体へ保存していた脳データを移送する医療技術。」


 「身体を提供した家族には補償金が支払われて、その制度は神崎総理が作ったとか。」


 「亡くなった人の身体が誰かの命を繋ぐことで、多くの人を救っている……。」


 「そう教わりました。」


 佐伯(犬)は静かに頷いた。


 「そこまでは、間違っていない。」


 「だが。」


 「一番大切なことだけが、国民には知らされていない。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ