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器ーうつわー  作者: 天城そら


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公邸

翌日、17時50分。


 涼太、天音、そして佐伯は首相公邸の正門前に立っていた。厳重な警備の中、3人は受付へ案内される。


 警備員は手元の端末を確認すると、小さく首をかしげた。


 「本日お約束いただいているのは……3名と伺っていますが。お二人ですね。」


 天音は静かに微笑み、足元の佐伯(犬)へ視線を向けた。


 「いいえ、この子を入れて3人です。」


 警備員の視線が犬型ロボットへ向く。


 「申し訳ありませんが、犬もロボットも入館はできませんので、こちらでお預かりいたします。」


 天音は首を横に振った。


 「それはできません。今回、神崎首相と面会する相手の一人が、この子です。」


 警備員は困惑した表情を浮かべる。


 「確認いたします。」


 耳元の通信機へ短く報告すると、すぐに受付横の大型モニターへ映像が切り替わった。そこには、執務室から監視映像を見つめる神崎の姿が映し出される。


 神崎は2人と犬型ロボットへ視線を向けた。


 『佐伯さんというのは、どなたですか。』


 天音は佐伯(犬)を抱き上げ、カメラへ向ける。


 「こちらです。」


 佐伯(犬)は静かに頭を下げた。


 「初めまして、神崎首相。」


 「佐伯志道です。」


 神崎は思わず眉をひそめる。


 『……犬。』


 数秒の沈黙。


 『いや、ロボットか。』


 神崎は佐伯を見つめたまま、小さく呟く。


 『佐伯志道というのは、このAIですか。』


 佐伯は落ち着いた口調で答えた。


 「詳しい話は、直接お話しします。」


 神崎はしばらく考え込んでいたが、やがて静かに口を開いた。


 『わかりました。通してください。』


 警備員は一礼すると、佐伯へ携帯型スキャナーを向けた。


 「念のため、機体を検査します。」


 高性能スキャナーが内部構造を解析していく。


 爆発物、銃器、有害物質、危険な通信装置、すべての項目を確認し、端末には「異常なし」の文字が表示された。


 「確認が完了しました。どうぞ、お進みください。」


 3人は静かに公邸の奥へと歩き始めた。


 案内された応接室は、静寂に包まれていた。重厚な調度品が並ぶ部屋の中央で、一人の男が静かに腰を下ろしている。


 内閣総理大臣 神崎正臣


 涼太と天音は軽く頭を下げる。佐伯(犬)も静かに一礼した。


 神崎は三人を見渡すと、背後に控えていた警護官へ視線を向ける。


 「全員、席を外してくれ。」


 「ですが、総理……。」


 「構わない。」


 短く告げると、警護官たちは一礼し、部屋を後にした。重い扉が閉まり、部屋には神崎、佐伯(犬)、天音、そして涼太だけが残される。


 神崎は佐伯(犬)へ静かに視線を向けた。


 「改めて聞かせてくれ、君は、150年前に亡くなった研究者、佐伯志道なのか。」


 佐伯(犬)は静かに頷く。


 「はい。ご存じのとおり、葉山総合病院で命を奪われた研究者です。」


 神崎の表情がわずかに強張った。


 「……どういうことだ。君は、佐伯志道を学習したAIなのか。」


 その言葉を口にした直後、神崎は何かに気づいたように口を閉ざす。


 「いや……まさか、NCT……。」


 部屋に沈黙が落ちる。


 佐伯(犬)は穏やかな口調で答えた。


 「その話は、ひとまず置いていただけませんか。今日、私たちがここへ来た目的は、そこではありません。」


 神崎は佐伯(犬)を見つめたまま、小さく頷く。


 「……分かった。」


 「続けてくれ。」

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