禁断の通信
神崎は、もう一度通信内容に目を落とした。
葉山総合病院、神経受容率、NCT
そして――
「佐伯志道……。」
その名前を口にした瞬間、胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えた。どこかで聞いたことがある。だが、思い出せない。
神崎は静かに口を開く。
「佐伯志道を検索。」
すぐに執務室の空間へ情報が投影された。
『佐伯志道、2119年東京生まれ。東京大学卒業。
2144年葉山総合病院研究施設へ就職。翌年には研究所所長になります。数々の研究をしてきましたが、有名なものは「NCT」の理論構築に携わった主任研究者です。2155年研究所内にて心筋梗塞にて亡くなっています。』
神崎の瞳がわずかに揺れた。
「……そうだ。」
思い出した。葉山がかつて口にしていた天才研究者。NCTの礎を築いた男。だが、その男は死んでいる。
神崎は再び通信画面を見る。
その名を名乗る者が、なぜ今になって私へ接触してきたのか。目的が読めない。
神崎は静かに口を開いた。
「返信。」
秘書AIが応答する。
『音声入力を開始します。』
「身に覚えはないが、要求は何だ。」
送信。
数十秒後、返信が届いた。
『直接お会いして、お話ししたいことがあります。』
神崎は画面を見つめる。
要求は金でも権力でもないのか。合わない方が得策だが、葉山との関係を知られている。その情報が外部へ漏れるのは避けなければならない。
神崎は決断した。
「返信。」
『音声入力を開始します。』
「明日18時、公邸へ招待しろ。」
送信。
ほどなくして、再び返信が届く。
『承知しました。明日18時、3人で伺います。』
『私たちに危害を加える意思がないことを願っています。』
『なお、私たち3人の身に何かあった場合、保有している情報は自動的に公開ネットワークへ送信されるよう設定しています。』
神崎は、その一文を何度も読み返した。
静かに息を吐き、執務室の窓から夜景を見つめる。
「……用意周到だな。」
相手は、自分が首相であることを十分に理解している。ならば、自分も相応の覚悟で会うしかない。
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