仲間
部屋には、静かな緊張が残っていた。
赤いキューブから得られた情報によって、葉山病院と神崎首相の関係は見えてきたが、まだ終わりではない。
葉山の罪を明らかにするためには、地下3階に残されている残りのキューブが必要だった。
問題は、その場所へ向かう方法がないことだった。
涼太は、しばらく黙っていた。そして、ゆっくり顔を上げる。
「……これから、俺はどうすればいいんですか。」
佐伯(犬)は、すぐには答えなかった。
静かに涼太を見る。
「涼太くん。」
その声は、いつものように落ち着いていた。
「普段通りの生活に戻ってください。」
涼太は少し驚いた表情を浮かべる。
「戻る……?」
「はい。」
佐伯は頷いた。
「大学へ行き、今まで通りの日常を過ごしてください。葉山が動いた時は、私たちから必ず連絡します。」
天音も静かに頷く。
「涼太くんには、これ以上危険な思いをしてほしくない。」
涼太は2人の顔を見た。
自分を遠ざけようとしているのではない。守ろうとしているのだと分かった。
でも――。
「……無理です。」
涼太の言葉に、天音と佐伯(犬)が顔を上げる。
「涼太くん?」
「俺だけ、何も知らないふりをして生活するなんてできません。」
涼太はテーブルの上に置かれた赤いキューブを見る。
「葉山病院で起こっていること、自分が葉山と神崎にとって特別な身体だということ。天音さんのお父さんのことも、佐伯さんと天音さんが、2年間ずっと戦ってきたことも。」
ゆっくり息を吐く。
「もう、知ってしまいました。」
天音は黙って涼太を見る。
「本当は怖いです。脳を入れ替えられるなんて、テレビの世界みたいで。」
涼太は正直に言った。
「全部、怖いです。」
それでも。
涼太は目を逸らさなかった。
「でも、知らなかったことにして、何もなかったように生きることはできません。」
静かな部屋に、涼太の声だけが響いた。
佐伯(犬)は、しばらく黙っていた。そして、天音を見る。天音もまた、涼太を見つめていた。
この2年間。
佐伯と2人で、この戦いを続けてきた。何度も迷い、何度も立ち止まりそうになった。それでも、真実を追い続けてきた。
そして今。
目の前にいる青年は、自分からその道を選ぼうとしている。
「……私は。」
天音が静かに口を開いた。
「涼太くんに、協力してほしいと思っています。」
涼太が少し驚く。
天音は続けた。
「もちろん、危険なことは分かっています。でも、涼太くんはもう、この事件の外にいる人じゃない。」
佐伯(犬)は静かに頷いた。
「私も、同じ考えです。」
「これからは、涼太くんにも協力してもらいます。」
その言葉を聞いた瞬間、天音の表情が、少しだけ柔らかくなった。
「よろしく、涼太。」
涼太は目を見開く。
「……え?」呼び捨て…
天音は首を傾げる。
「だって、もう仲間でしょ。それに、私の方が2つも年上だから。」
涼太は思わず笑った。
「そこなんですか。」
「大事なところ。」
そのやり取りを見ながら、佐伯(犬)は静かに目を細めた。
2年前には想像できなかった。
失われたものを抱えた天音が、今は新しい繋がりを作ろうとしている。
そして3人は、次の一歩へ進む。
神崎首相との接触
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