闇への階段
19時ー
研究所地下1階
廊下を照らす照明は最低限まで落とされ、空調設備の低い駆動音だけが規則正しく響いている。
宗一郎は胸ポケットに小型ライト、最低限の工具を入れ、立ち上がった。
研究室の入口には、佐伯(犬)が静かに座っていた。
その口には、小さな黒いキューブがしっかりとくわえられている。
佐伯(犬)は宗一郎を見上げた。
宗一郎も小さく頷く。
言葉は必要なかった。
2人は研究室の照明を落とすと、静かに廊下へ足を踏み出した。
地下研究棟は、不気味なほど静かだった。昼間の絶え間なく行き交う研究員や搬送ロボットの姿はなく、広い廊下には宗一郎と佐伯(犬)の足音だけが小さく響いていた。
1つ角を曲がるたびに神経が張り詰める。背後を振り返りたくなる衝動を必死に抑えながら歩き続けた。
やがて、人気のない廊下の突き当たりへ辿り着く。そこには無機質な灰色の扉があった。
赤い文字で、
「関係者以外立入禁止」
と表示されている。
宗一郎は小さく息を吐いた。
「ここですね。」
佐伯(犬)は静かに頷く。
口にくわえていた黒いキューブを床へ置いた。
宗一郎はしゃがみ込み、それを拾い上げる。
キューブの表面には継ぎ目すらなく、一見すると金属の塊にしか見えない。
「これを。」
佐伯(犬)の声は落ち着いていた。
「扉の認証部へ近づけてください。」
宗一郎は扉の横にある認証パネルへキューブをかざす。
数秒――。
何も起こらない。
宗一郎の額に汗が滲んだ。
「やっぱり……。」
その瞬間だった。
ピッ――。
静かな電子音が廊下へ響く。
認証パネルの赤いランプが、ゆっくりと青へ変わった。
続いて、重いロックが解除される音が響く。
ガコン。
宗一郎は思わず佐伯(犬)を見る。
佐伯(犬)は静かに頷いた。
「認証は成功しました、行きましょう。」
宗一郎はゆっくりとドアノブへ手を掛ける。
重い鉄扉が、軋む音とともにゆっくり開いた。
その先には、地下へと続く薄暗いコンクリートの階段が口を開けていた。
最後まで『器ーうつわー』を読んでいただき、ありがとうございます。
もしこの作品が少しでもあなたの心に残ったなら、ぜひ評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。
一つの評価、一つの感想が、次の物語を書く大きな力になります。
コメントいただければ、可能な限り返信させていただきます。




