表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
器ーうつわー  作者: 天城そら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/38

決断

 聞き慣れない言葉に、リビングの空気が凍りついた。


 「器……?」


 天音は小さく呟いた。


 「身体を使うということですか。」


 佐伯(犬)は静かに頷いた。


 「はい、葉山たちが欲しいのは、NCTで必要な提供者……脳死の患者ではありません。」


 「健康な身体です。」


 リビングに静寂が落ちる。時計の秒針だけが、小さく時を刻んでいた。


 佐伯(犬)はゆっくりと言葉を続ける。


 「葉山たちは、自分たちが老いるたびに、新しい身体へ脳を移しています。表向きには、その身体の持ち主は事故や病気で脳死という偽りの診断をされ、身体提供を受けているのです。


 天音は顔を強張らせた。


 「そんなこと……。」


 「そんなこと、本当にできるんですか。」


 佐伯(犬)は苦しそうに目を閉じる。


 「できます。私は、その技術を研究していました。そして、葉山はその技術を利用し、自分達だけのものにしたのです。」


 宗一郎は拳を握り締める。


 「じゃあ……。」


 「適合者というのは。」


 佐伯(犬)は宗一郎を見つめた。


 「脳移植が成功する可能性の高い身体です。」


 「神経受容率が高いほど、脳と身体は強く適合します。だから葉山たちは、その数値を基準に器を選び続けています。」


 佐伯(犬)はゆっくりと天音へ視線を向けた。


 「天音さん。」


 「あなたの神経受容率は、現在確認されている適合者の中でも、極めて高い数値です。」


 宗一郎の顔から血の気が引く。


 「そんな……。」


 佐伯(犬)は静かに頷いた。


 「追加検査を受ければ、葉山たちはあなたを直接確認します。その時点で、あなたは正式な器候補として管理されるでしょう。」


 天音は震える声で尋ねた。


 「……じゃあ、私は……、私は、どうなるんですか。」


 佐伯(犬)は答えるまで数秒、沈黙した。その沈黙が、何より残酷だった。


 「いずれ、表向きは事故か病気で搬送されたことにされ、脳死と診断されます。そして、あなたの身体は、誰かの器になります。」


 リビングから音が消えた。宗一郎は天音の肩を強く抱き寄せる。


 佐伯(犬)はその姿を見つめながら、静かに言った。


 「真実を話しました……時間がありません。」


 宗一郎は天音の頭を優しく撫でた。


 「大丈夫だ、何があっても、お前はお父さんが守る。」


 その言葉に、天音は小さく頷いた。


 宗一郎はゆっくりと佐伯(犬)へ向き直る。


 「佐伯さん、私は、これから何をすればいい。」


 佐伯(犬)は少し考え込み、静かに答えた。


 「まず最優先にすべきことは一つです。天音さんを葉山たちの目から隠さないといけません。」


 宗一郎は真剣な表情で頷く。


 「身を隠す場所……。」


 しばらく考え込んだあと、ふと顔を上げた。


 「そうだ、妻の実家があります。義父母が亡くなってから空き家のままですが、今も管理はしています。」


 「山間部にあるので、人の出入りも少ないので、葉山たちも、すぐには見つけられないはずです。」


 佐伯(犬)は小さく頷いた。


 「最善の場所だと思います。しばらくは、そこで生活してもらえますか。」


 天音は不安そうな表情で宗一郎を見る。


 「お父さんは?」


 宗一郎は静かに微笑んだ。


 「急に姿を消せば、かえって怪しまれる。だから、お父さんは今まで通り生活をする。天音、お前だけが隠れるんだ。」


 「そんな……。」


 天音は首を横に振る。


 「お父さんを一人にはできない。」


 宗一郎は娘の肩に手を置く。


 「大丈夫だ、この件が終われば、すぐに迎えに行く。」


 宗一郎は佐伯(犬)へ視線を向けた。


 「佐伯さん、一緒に証拠を集めましょう。葉山たちが脳移植を行っている証拠を。そして、それを世間に公表する。」


 佐伯(犬)は静かに宗一郎を見つめた。


 「……宗一郎さん、葉山たちは、この国の医療の中枢にいます。証拠を掴む前に、私たちが消される可能性もあります。」


 宗一郎は静かに頷いた。


 「天音は必ず私が守ります。それが、私の決断です。」


 佐伯(犬)はしばらく黙っていた。


 やがて、小さく頭を下げる。


 「……ありがとうございます。では、共に戦いましょう。」

『器』を読んでいただき、ありがとうございました。

この物語が少しでも心に残ったなら、とても嬉しいです。

よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります。次話もぜひお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ