表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
器ーうつわー  作者: 天城そら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/38

監視

葉山病院――地下研究施設。


 白を基調とした静かな廊下を、美冬は歩いていた。感情の起伏をほとんど感じさせない表情のまま、一枚の自動ドアの前で立ち止まった。


 「失礼します。」


 静かな声とともに扉が開く。


 部屋の奥では、葉山が重厚な革張りの椅子に深く腰を掛けていた。


 葉山は振り返ることなく言う。


 「何か分かったか。」


 「はい。」


 美冬は端末を差し出す。


 「対象者、久遠涼太。」


 葉山は端末へ目を落とした。


 そこには、大学へ向かう涼太の姿が映っている。その横には、今日一日の移動履歴。


 葉山の視線が止まる。


 「ここは。」


 「久遠涼太の通う大学です。」


 「解析した結果、本日午後、学生以外で対象者へ接触した人物を確認しました。」


 画面には帽子と眼鏡を掛けた若い女性が映し出される。


 葉山は映像を静かに見つめる。


 「顔認証は。」


 「変装のため一致率は低下していますが、歩行特徴と骨格解析により92.8%で八代天音と判断しました。」


 その名前を聞いた瞬間。葉山の口元がわずかに動いた。


 「生きていたか。」


 静かな声だった。怒りでも驚きでもない。

獲物を見つけた狩人のような笑みだった。


 「なるほど。」


 「佐伯も動いている。」


 葉山は窓の外へ視線を戻す。


 「面白くなってきた。」


 美冬は静かに問いかける。


 「対象者を確保しますか。」


 葉山は首を横へ振った。


 「まだだ。」


 「急ぐ理由もない。しばらく監視を続けろ。」


 美冬は静かに頭を下げた。


 「承知しました。」


 美冬は静かに頭を下げ、部屋を後にした。


 自動ドアが閉まり、廊下には再び静寂が戻る。


 一定の歩幅で歩き続ける美冬の足が、不意に止まった。


 ――佐伯。


 葉山が口にした、その名前だけが頭の中に残っていた。


 記憶領域に、微かな映像が浮かぶ。


 白い研究室。


 散らばった資料。


 コーヒーの香り。


 「美冬。」


 優しく笑う、一人の男性。


 その隣で、自分も笑っている。


 だが、その映像は次の瞬間には霧のように消えていった。


 美冬の表情は変わらない。


 悲しみも。


 懐かしさも。


 何も感じない。


 ただ、胸の奥に言葉だけが静かに残る。


 ――佐伯 志道


 「……シドウさん」


 誰に聞かせるでもなく、小さくその名を口にすると、美冬は何事もなかったように再び歩き出した。


 その背中を、無機質な白い廊下の照明だけが静かに照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ