3話 キャンプ その一
青い空。そして川のせせらぎ。森から聞こえる鳥のさえずり。そして頬を撫でる心地のいい風。
そんな、景色と音楽を楽しみながら僕は原っぱに寝そべっている。
「アイリスさん。やりましたね。それ」
「あはは、冷たーい」
『えいえい』
ふと声のした方を見ると、アイリスとリュミー、キュノが水遊びをしている。
今日のリュミーは白いワンビースに麦わら帽子を被っている。いつもより可愛く思える。
アイリスは、かなり元気な感じの格好で、Tシャツと短パンという格好だ。
キュノは⋯⋯変わらいないな。
一瞬、水に濡れてもいいのかな? と思ったけど、服を乾かすとか言う魔術があったのを思い出した。後で掛けてあげるか。
エリスとニウスは、二人でテント(僕が作った)を立てている。一人一個の親切仕様だ。一個一個が広く、軽くベット、机、椅子をおいてもまだ余裕があるほどだ。
僕も手伝おうとしたけど、のんびりしててと言われたので、のんびりと転がっていたのだ。
リリーも僕と一緒に転がっている。ちなみにリュミーには姿は見せていない。なんでも信用するために時間が欲しいんだそうだ。
そう、僕らはキャンプに来ているのだ。予定的には、二泊三日を予定している。なんでキャンプを? と思うかもしれないがそれは昨日に遡る。
■■■■
帝国へ行くことが決まった翌日──。
「ねー、お兄ーちゃん。なんか面白いこと無いー?」
アイリスが扇風機の風に当たりながらそんなことを聞いてくる。
確かに、ギルドも夏季休業らしいし、帝国行きの準備も整えたのでこれと言ったやることは無い。
そこで、この提案である。確かに、最近はやることがないしちょうどいい機会かもしれない。なにか考えてみるか。
⋯⋯。⋯⋯。うーん。思いつかないなあ。海水浴とかもいいかもしれないけど、このグラディア王国は内陸の国だ。海なんかあるはずがない。
ギルドの依頼や紹介なら他国へ行くことも可能だけど、現在ギルドは夏季休業のため利用できない。
今更だけど、冒険者ギルドって案外ホワイトな会社(?)なんだな。実は、ギルドは事前に申告していたら有給で休むこともできるらしい。しかも夏と冬には一週間程度だが休業日があるのだ。
日本じゃあお盆休みか年始休みに該当するのかな。
まあ、それは置いといて。本当に全く分からない。
なんかいい案ないかなあ⋯⋯。
そんなことを考えているとピンポーンと、来客を知らせるベルが聞こえた。
慌ててインターホンに向かうと、リュミーの姿が見えた。
「はーい」
僕は家のドアへの転移のボタンを押した。すると、入口のドアが開きリュミーが入ってきた。
もちろん、このインターホンは僕のお手製だ。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
僕も転移のボタンを押した後すぐに玄関に向かったため、出迎えることができた。リュミーは最近よく家に来る。王女様なのに大丈夫なのか心配になるが本人曰く問題ないらしい。
僕らは特に断る理由も無いので好きにさせている。
「突然ですがユート様」
「は、はい」
並々ならぬ気迫で思わず敬語を使ってしまった。
「みんなで星月を見ましょう!」
ん? 星月? なんだそれ⋯⋯?
「星月って何?」
「フッフッフ。それは見てからのお楽しみです」
はぐらかされた。まあ、見れば分かるだろう。
「分かったよ。それで、いつから行くんだ?」
「明日から行きましょう! とっておきの場所に案内します」
いつになくノリノリだ。こんなリュミー見たこと無いな。というか取って置きの場所? なんか楽しそうだ。
「ちなみに場所は?」
「そのままの通りの『場所』ならお楽しみに、ですが。地形的な場所と言ったら森の中のある場所です」
なるほど、森⋯⋯か。森⋯⋯!
「そうだキャンプだ!」
「「きゃんぷ?」」
そうだキャンプだ。リュミーの言い方的に星を見に行くのだろう。ということは夜になる。つまり、キャンプになるんだ。そうだそうだ。
「ユート様、『きゃんぷ』ってなんですか?」
「そうだよお兄ちゃん。思考の海に沈んでないで教えてよ」
おっと、考え込んでいたせいで驚く二人のことを忘れてしまっていた。反省反省。
「えーとキャンプって言うのはね──」
その後、二人に懇切丁寧にキャンプについて教えて、その時必要になる道具は僕が作ることになった。まあ、最近暇だしいいだろう。ただ、一日しか時間が無いのは困るけどね⋯⋯。まあ、がんばるか。
あっ、そうそう。エリスとニウス、キュノに聞いてなかったけど、聞いたらオッケーしてくれた。明日が楽しみだなあ。
■■■■
というわけで今に至る。
「おーい、ユート、アイリス、キュノ、リリー、リュミー。準備ができたぞー」
おっ、どうやら準備ができたようだ。何の準備ができたかって? そう、バーベキューだ。
もちろん台は僕のお手製だ。
あーいい匂いしてきたあ。僕はその匂いに釣られるままテーブルへと向かった。水遊びをしていた二人も戻ってきたようだ。
一瞬、乾燥魔術をかけようと思ったけど、すでに乾いていた。アイリスは火属性が苦手だし、リュミーがやったのだろうか。
網の上にはきれいな焼け目がついたうまそうな肉や、しっかりと焼けた野菜が置かれていた。どれもとてもいい匂いを漂わせている。
もちろんちゃんと炭火焼きだ。
僕は早速、配らた皿に焼肉のタレを入れて、割り箸で、こんがりと焼けた肉を取った。
実はこの世界、調味料が異常なほど発達している。それはもう地球と大差無いほどだ。もちろん、味は全く違う。それでも、美味しいのだ。
「「「『『いただきます!』』」」」
見事に、僕ら手伝っていない組の声が重なり、それを合図に口の中にタレを絡めた肉を入れた。
その瞬間ジュワァと、肉汁が広がった。噛むごとに肉の旨味が溢れ出し、その上、タレが絡み合って口の中は美味しいの大洪水だ。
「うまい!」
「美味しいです!」
「美味しい!」
『美味しい!!』
みんながいつも以上に笑顔になった。気がつけば、準備をしてくれたエリスとニウスも席につき、僕らと同じように野菜や肉を頬張り始めておいた。
キュノは圧倒的なほどに肉を頬張っている。
「このバーベキューとか言うやつ美味しすぎるだろ! 最高だぜ⋯⋯! なんだか焼肉よりもうまく感じるぜ。」
「本当にそうね。最初は違いが分からなかったけど、薪に火で焼くよりも、炭で焼くほうが美味しく感じるわ」
もちろんのことだがバーベキューは僕が案を出したのだ。キャンプといえばこれだな、と思っていたのだ。
肉や野菜を炭火で網の上に乗せて外で焼く、何ていう発想はなかったらしい。説明は簡単だった。焼肉の文化はあるため、それを利用しながら説明すると簡単に理解してもらえた。
というか、冒険者とか言う職業があるのに、なんでバーベキューの発想がでてこないのかねえ。不思議なものだ。
まあ、とりあえず今はこの美味しいご飯を楽しむとしよう。
■■■■
「……やばい食べすぎた」
僕は、再び原っぱに寝そべりながらそんなことをぼやいた。
バーベキューが美味しすぎて、食べすぎたのだ。
とはいえ、何もしなかったら今の状況は変わらないので、腹ごなしに少し散歩をすることにした。
「みんなー。散歩に行ってくるね」
「でしたら私も行きたいです」
「いいよ」
食器の片付けを終えたリュミーが、こちらに来てそう言った。ニウスは、食べ過ぎにもほどがあるぐらい食べていたからまだ全く動けないようだ。ご愁傷さま。
アイリスとエリスは、川遊びを始めていた。アイリスは二度目のようだがよく飽きないよね。
まあ、それは置いといて。すぐ近くにある森の中に僕とリュミーで散歩に行くことにしたのだ。
二人きりはなんか気恥ずかしいけど、楽しませてあげられればいいなあ、とそんなことを思ったのだった。




