4話 キャンプ その二
てなわけで、僕とリュミーは、緑生い茂る森の中に二人で入っていったのだ。
「心が落ち着きますね……」
「そうだね」
森の中は、テントを置いてある場所よりも圧倒的に涼しく、夏なのか不安になるほどだ。日陰って言うのはここまで涼しいものだったとはね。
森の奥の方からは、鳥のさえずりが聞こえる。その声は、どこか心を落ち着かせてくれる。
「あっ、そうだった」
「どうしましたか?」
「いや、ここは森の中だから魔物が出る可能性もあるなあって」
「そうなんですか?」
おや? 知らなかったのか?
「実は──」
この世界ではどちらかというと、平原よりも森の中のほうが魔物と出くわす可能性が高い。
平原では、見晴らしが良く、たとえ魔物がいたとしても、迂回して戦わない選択肢が簡単に取れる。しかし、見晴らしがいいため、魔物も僕らも圧倒的に見つかる可能性が高い。
平原にいる魔物はそんな生存競争の中でも生き残れるような強いモンスターが多い。
それに対し森は、発見が難しいため、戦闘を避けられないときもあるが、隠れる場所も多く、弱い魔物でも生き残れるようになっている。
ただ、森にいるような魔物は、単体でいるよりも群れでいるほうが多いので、見つかったら、かなり厄介になる。
「なるほど。勉強になります!」
おっと、つい語りすぎちゃった。
「そういえばリュミーってどれぐらい魔法と魔術を使えるの?」
ふと思い立った疑問をリュミーにぶつけてみた。
「そうですね。魔術はある程度使えますが魔術は、術式構築に時間がかかってしまって、実践ではほとんど使えないんですよ……。ユート様は魔術の省略発動が使えていいなあ。それに魔法ですけど、全くだめです」
「なるほどね。よかったら今夜でも教えようか? どれだけできるかはリュミーの頑張り次第だけど……」
「ぜひお願いします!!」
うお、かなり乗り気だ。やっぱり魔法と魔術はできたほうがいいよね。リュミーはどれぐらい上達するのかな? ちょっと、というかかなり気になった。今夜が楽しみだな。
「得意な属性とかあ──」
僕は、得意な属性がある? と聞こうとしたが、口をつむぐ。前から魔物が三体向かって来ていることを感知したからだ。ストレージリングから、アテナを取り出す。
「リュミー、下がって。魔物が来る。そうだ! 僕が、魔物のヘイトを集めるから、リュミーも魔術で攻撃してみてくれ」
「わかりました!!」
ノリノリだ。何属性が得意なのかな?
森の奥から出てきた魔物はフォレストウルフだった。危険度もそこまで高くないので大丈夫だろう。それにしても懐かしいなあ。フォワードの町から旅立って一番最初に倒した魔物だったなあ。
「ガァァ!」
おっと、フォレストウルフの一体がこちらに飛びかかって来た。速度は、ヒバリさんや、ガルダーと比べると圧倒的に遅い。
簡単に防ぐことができた。全くもって苦じゃない。
そうだ、この武器の特色を活かすか。僕はアテナに魔力を流す。
「『変形』盾、」
するとアテナが剣の形から盾に変化した。それと同時にもう一体のフォレストウルフが攻撃を仕掛けてきた。
僕はその攻撃を見極め盾で防ぐ。
「ユート様! 構築できました」
「ナイス!『空間転移』」
僕は転移してその場から離脱する。
「行きます。『風の刃』!!」
リュミーが作り出した風の刃が、さっきまで僕に攻撃をしてきたフォレストウルフに直撃し、首を刎ねた。
なるほどリュミーは風属性が得意なのか。……待てよ? 弓に風魔法を纏う事ができたら、攻撃力が格段に跳ね上がるのでは……?
魔法はイメージの具現化だから可能なはずだ。じゃあやってみるか。
「『変形』弓」
僕はアテナを盾から弓に変化させる。そして風を纏う矢を明確にイメージする。
するとイメージどおりに風をまとった矢を作り出せた。
「くらえ」
僕はその矢を弓につがえ引き絞り、矢を放つ。
すると素早くフォレストウルフの眉間に矢が到達する。眉間を射抜かれたフォレストウルフは絶命した。
さっき放った矢は普通に矢を放つときよりも圧倒的に早かった。これが風の効果だろうか。
「できたできた」
「ユート様! 今のはどうされたんですか?」
「えーっとねえ。魔法を使って風をまとわせた矢を作ったんだ。さっき魔法はイメージの具現化だって言ったでしょ? それを応用したんだ」
「なるほど。すごいですね。私もしっかりと使えるようにしたいです」
おっと、そんなことを話していたら、最後のフォレストウルフがこちらに噛みついてきた。僕は即座にアテナの形状を剣に変える。
その剣で躱しざまに正確に首を刎ね絶命させた。
「よし、討伐完了」
「やっぱり慣れてますね」
「そりゃあ、たくさんの死線をかいくぐって来たからね」
「流石です」
リュミーはそう言って花のような笑顔を見せる。僕はその笑顔に少しドキッとしてしまった。やばい、可愛い。
心の動揺に気づかれないように気をつけねば。
そんなわけで二人で森の中を散歩した。何度かドキッとすることがあったけど、なんとかバレずに済んだみたいだ。
散歩のおかげでかなり腹ごなしになった。次からは食べ過ぎに気をつけないとな。
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テントのところに戻ると各々が好きなことをしていた。ニウスとアリスはどこから持ってきたのかトランプでババ抜きかジジ抜きをしている。一手一手で一喜一憂していて見ていて面白い。
アイリスとキュノは近くに広がっていた花畑で花冠を作って楽しんでいた。
「リュミーはなにかしたいことある?」
「そうですね⋯⋯。水遊びをしましょう」
「分かった。じゃあやろうか」
そう答えるとリュミーは満面の笑みを浮かべる。
そうと決まれば善は急げ。僕はリュミーの手を引いて川辺に走る。
到着すると、すぐに靴を脱ぎ、水の中に足を入れる。あー冷たくて気持ちいいー。
「えい!」
心地よさに身を委ねているとリュミーに横から水をかけられた。
「やったな」
僕は手で水を掬いリュミーにかける。
「やりましたね。えい」
それから水をかけ合い始めた。案外楽しいな。
「リュミー、そんなにはしゃいでたら転ぶよー」
「大丈夫ですよ⋯⋯ってきゃあ」
「リュミー!」
言わんこっちゃんない。リュミーはバランスを崩して倒れた。
「だから気をつけろって言ったじゃ──」
ズルル!! しまった。
バチャーン!!
大きな音を立てて水しぶきが上がる。
「痛てて。⋯⋯!」
目を開くと目の前にリュミーの顔があった。
「ユート様、大丈夫ですか?」
「ププ⋯⋯ハハハハ!!」
「どうしたんですか? 急に笑いだして。頭打ってしまいましたか?」
「いや、ごめんごめん。助けようとしたら僕も転んじゃって無性におかしくなっちゃって」
「もう⋯⋯」
とりあえず僕はすぐに起き上がる。笑いが込み上げて来て忘れていたが、さっきまでの態勢は非常にまずい。リュミーが僕を押し倒した図なのだ。見られたら大変だ。⋯⋯主にリュミーがだけど。
「ビチョビチョになってしまいましたね」
「そうだね。すぐに乾かすか。『乾燥』」
僕が乾かすイメージで魔法を唱える。イメージするだけでいろいろなことができるから、魔法はかなり便利だ。
「すっかり乾きましたね。ありがとうございます」
「ううん、当然のことをしただけだからね。よし、そろそろ夕飯を作り始めるか。リュミーも手伝ってくれる?」
「はい、喜んで」
僕らは、そんな会話を交わしながらテントを張ってる場所に向かった。




