2話 熱中症対策 その二
なにか忘れてると思ったら扇風機だ。
六人(正確には五人と一匹だが)でかき氷を食べながら、思い出した。なんで忘れてたのかなあ。とりあえず、かき氷を食べ終わったら作るかな。
その後、かき氷を食べすぎたニウスがトイレに籠もるなんていうことがあった。どんだけ食べたんだよ⋯⋯。
さてと、早速始めるか。僕はどんな感じなのか気になるらしいキュノと一緒に特に使っていない多目的室(広くて、特になんの部屋とは決めていないからそう呼んでいる)へと向かった。
僕はストレージリングから、さっき買った風の魔石を取り出した。早速、付与開始だ。
「『付与』風」
風の魔石が一瞬光った。よし、付与はうまくいったみたいだ。性能はどうかなあ。
「何だそれ?」
トイレから出てきたニウスが物珍しそうに、僕から、魔石を取る。
「魔力を流したら風が出るんだよ。やってみるか?」
「じゃあ、早速」
そう言うとニウスが魔力を流し始めた。⋯⋯ちょっと待て、流し過ぎじゃあ。
突然、ゴオー! と部屋の中で突風が吹き荒れた。
「ちょ、何これー!?」
運悪くスカートを履いていて近づいてきたアイリスのスカートがめくれそうになる。アイリスはなんとか、スカートを抑えてめくれるのを防いでいる。
『あはは、たっのしいなあ』
なぜだかキュノは楽しんでいるが、これ以上はまずい⋯⋯。
「ストップ! ニウス、ストップ! 魔力を流すのをやめてー」
とんでも無い突風が吹き荒れている、やばいな。まあ、この家全体に保護の魔法を掛けているから、隕石がぶつかっても壊れないから、無事だが、僕らは無事じゃない。
僕は周りに、『風の壁』を張って、身を守っている。
「わ、分かった」
ニウスが魔力を流すのを止めると、今まで吹き荒れていた風がピタリと止まった。
ふー、死ぬかと思った。
「ちょっと騒がしいわよ⋯⋯って、何よこれ!!」
騒ぎを聞きつけてか、別の部屋で本を読んでいたエリスがやって来て驚いた。騒がしいな。
僕もあたりを見回して、気付いたが、突風のせいで、部屋がめちゃくちゃになっていた。設計図だったり、段ボールがそこら中に散らばっている。ここが多目的室じゃなかったらもっとひどいことになっていたかもしれない。
「とっとと、片付けなさい!!」
エリスにキレられた。迫力があって怖い。
実はエリスは案外綺麗好きだ。そのため、エリスの部屋は完璧に整理整頓されている。そのレベルは、プロの家政婦さんも、びっくりだろう。まじで、ホコリ一つない。
「「「はーい」」」
とりあえず、そう答えるしか無い。なぜだか三人の声がハモった。
エリスは、それだけ言うと、部屋に戻っていった。ふー、怖かった⋯⋯。
「じゃあ、とりあえず片付けるか」
僕はそう提案する。まあ、これ以外選択肢無いけどね⋯⋯。
とりあえず、三人で協力して、段ボールを重ねたり、扇風機の設計図をページ順に重ねたりして片付けた。
キュノは楽しそうに家の中を飛んでいる。気楽でいいなあ。
予想していた以上に片付けが早く終わった。というか、今更だけど、アイリスって無関係だよな⋯⋯。
「ごめん、アイリス。手伝ってくれてありがとう」
「全然いいよ。じゃあ、私も部屋に戻るね」
本当に申し訳ないなあ。
「俺も戻るな」
「分かった」
おっと、そうだそうだ。さっきのニウスのお陰で問題に気づけた。マイナスばかりではなかったな。⋯⋯いや、ほとんどマイナスか。まあ、いいや。
さっきの突風の原因は魔力の流しすぎだ。魔石に付与した魔術(今回は魔法だが)は魔力を流す量で、その効果が変わる。今回は、魔力の量で、風力が変わったのだ。
つまり、流せる魔力の量の最大値を決めれば、こんなことにはならないだろう。
というわけで、この魔石に、最大値を設定する魔術を付与する。
「『付与』吸収魔力量制限」
僕がそう唱えると、魔石が一瞬光った。
この『吸収魔力量制限』だが、その名の通り、吸収魔力量を制限するものだ。使い勝手が悪く、ほとんど使っていなかったけど、まさかこんな所で、役に立つとはな。
この制限量は自分で調節できる。どれぐらいがちょうどいいか実験しよう。
僕は、自分の周り半径一メートル以内に何も無いことを確認して結界を展開した。
さてと、実験開始だ。
数時間後、魔力の吸収量の微調整が完了した。これで、災害もどきが起こることはない。これで安全だ。
早速、居間に持って行き、起動してみる。
あー、風が気持ちいい。夏の暑さがいくらかマシになった気がする。というか、魔力を流し続ければいけないから案外きついかもしれない。⋯⋯魔力をためて置けるようにするか。
そう、考えついた僕は、魔力タンク作りを始める。まあ、簡単だけどね。
数分後、魔力タンクが完成した。容量をそのままに、小さくするのに苦労した。もちろん、魔力は、注入済みだ。
それでも、風の射程から離れると暑い。早くエアコンをつくりたいなあ。
氷の魔石を見つけ出せれば、簡単にできる気がする。氷の魔石に、『氷』を付与して、あたりを冷やす。そして、その冷えた空気を、風の魔石に付与した『風』で送り出せば完成だ。
別に、地球の技術を完璧に再現する必要は無いのだ。こっちの世界には、魔術がある。そのことを、今更ながら感じた。
気がつけばキュノはどこかに行っていた。本当に気まぐれだなあ。
コン、コン、コン。そんなことを考えていると、家のドアが叩かれた。
僕は玄関に行き、ドアを開ける。
「ごきげんよう。ユート様。お邪魔してもいいですか?」
「久しぶりだね、リュミー。最近暑いけど、元気だった?」
突然の来訪者は、この国の第一王女である、リュミエール・S・グラディアだった。
彼女は、僕らが、カイトルの町から、王都に向かう途中で魔物に襲われている所を僕らが助けた。それ以降、なぜだか、僕らに、気安く接してくれている。
この家だって、彼女がこの国の王である、オーディン様に進言してくれて、助けた報酬としてもらったのだ。
とりあえず、家に入るように勧める。今日はどうしたのだろうか。
「今日はどうしたの?」
「久しぶりにユート様にお会いしたくて来ました。ユート様もお元気ですか?」
「この暑さに滅入っているけど、体調は万全だよ」
「良かったです。ところで、エリスさん達は?」
「それぞれの部屋でなにかしてるよ。呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です」
そんな会話をしながら、廊下を進む。
「あら? あれはなんですか?」
居間に入ると、リュミーが、扇風機を指さしながら聞いてくる。しまってなかったな。まあ、いいか。
「あれは扇風機。風を起こす道具だよ」
「せんぷうき? 初めて聞きます」
そりゃあ、そうだ。こっちの世界にはないんだから。これが、この世界第一の扇風機だ。
「どうやて使うのですか?」
「ここに魔力を流すんだよ。魔力は溜まっているから、このボタンを押して」
リュミーにレクチャーする。
「押してもいいですか?」
「いいよ」
そういって、リュミーがボタンをおす。すると、扇風機から、風が吹く。
「ふわー。心地良いです」
「でしょ。我ながら力作だよ」
「一つ頂いてもよろしいですか?」
どうやら欲しいらしい。だけど、今はこれしか無いからな⋯⋯。そうだ。
「風の魔石はある? 数分待って貰えれば作れるよ」
「ぜひお願いします。こちら風の魔石です」
リュミーがマジックバック(僕のストレージリングのバッグバージョン)から風の魔石を取り出す。
さすが王族。風の魔石も、いつも手元ですか。
「お借りしますね。お茶でも飲んで待っててください」
僕は、緑茶を入れて、リュミーに渡す。
「いただきます」
リュミーはそういって、緑茶をすする。
「美味しい⋯⋯です」
「それは良かった」
リュミーが喜んでくれた。嬉しいな。
おっとこうしちゃいられない。早く作ってあげなければ。そう思い、作るのに集中し始めた。
数十分後、さっき作ったのよりも出来のいいものが作れた。友達だけど、彼女は王族だ。生半端なものなど作れるはずがない。だから、うまく作れてよかった。
「できたよ。はい」
「ありがとうございます。一生大切にします」
そういって彼女は、笑顔で受け取る。ちょっと、重い気がするがまあ、大切にしてくれえるならありがたい。
「お茶、美味しかったです。また来ますね」
「またね」
リュミーは、嬉しそうに城へと帰っていった。
我ながら、素晴らしい発明をしたな。まあ、僕が理論を見つけたわけじゃないけどね。
これで、今年の夏は少しは涼しくなるだろう。⋯⋯氷の魔石を見つけるしか無いな。




