仙台の家に行くための口実
「よかったわ」
「これは日本のケーキよね。アメリカのケーキって、どうしてあんな砂糖の暴力のような味なのかしら。アメリカでも美味しいものはあるんだから、味覚が根本的に違うとは思えないのよねぇ。食に興味がないから? それとも美味しいケーキを知らないから?」
「彩音、考えが漏れているぞ」
「あっ。ごめんなさい」
NeuraLumeの中では考えが筒抜けだったから、その影響ね…
「いや、気にしなくてもいい。気に入ってもらえたようなので、これからもケーキを用意するようにしよう」
「え! いいのですか? お願いします」
「ところで、NeuraLumeの中はどんなところなんだ? 覚えていることはないか?」
「NeuraLumeの中ですか…」
どんなところって、仙台の家って頭の中で確定した時点で、NeuraLumeの中は仙台の家に固定化されたような気がする。
リッキーがいることが現実とは違うけど…
ん? 仙台の家の隠し部屋を確認しなきゃ。
もしかして、うまく話を持っていけば、ここから出て、仙台の家の隠し部屋を確認できるんじゃない?
「思い出せないか?」
「そうですねぇ… NeuraLumeの中は仙台の家だと思います」
「NeuraLumeの中は仙台の家? 天野教授の家など別の場所はないのか?」
「はい。いつも仙台の家ですね」
「ほう。NeuraLumeの中の仙台の家だけが再現されているのか? 仙台の市内は存在しているのか?」
「仙台の家に入る小道… 家の私の部屋、お父さんの部屋、リビングとテラスはあると思いますが、他はわかりません」
「なるほどな」
「あのう… 実際の仙台の家とNeuraLumeの中の仙台の家の違いを確かめたいです」
「何を確かめるんだ?」
「NeuraLumeの中は仙台の家は手触りも空気感も仙台の家でリアルなのですけど、実際の仙台の家とは違うような気がします」
「どういう意味だ?」
「上手く表現できないのですが… NeuraLumeの中は現実と違いがなくてリアルなんです。でも仙台の家とは違うのです」
「どう違う?」
「どう違うと言われても…」
「NeuraLumeの中は仙台の家は俺達が3歳の頃の記憶の仙台の家じゃないのか?」
その答えで納得されたら、仙台の家に行けなくなるじゃない…
ん? 私の記憶の仙台の家には隠し部屋なんてないんだから、お父さんの記憶だよね?
「うーん。私が入った記憶がない部屋もあるような気がするの。NeuraLumeはリッキーとお父さんと私の脳情報が混じった状態だから、NeuraLumeの中は仙台の家はお父さんの記憶じゃないかと思うの。それを確かめるには実際の仙台の家を調べる必要があるわ」
佐々木さんは私をじっと見つめ、「NeuraLumeの中は仙台の家が天野教授のお父様の記憶であろうとなかろうと」と言ったところで言葉を止め、タブレットを見た。
リッキーが聞いているから、言葉を止めたのね…
私はタブレットに向かって、「リッキー、あなたはNeuraLumeの中で仙台の家以外には行っていないの?」と言った。
「行ってないな」とタブレットから声が聞こえる。
「どうして? 記憶している場所に行けるでしょ?」
「無理だ。俺は建物や家具を正確に記憶していない」
「私も仙台の家を正確に覚えていないわ」
「確かに、彩音が書いた仙台の家の間取り図は酷かった」
「悠人はわかったじゃない」
「まぁな」
「リッキーが仙台の家を知っているわけないし、私の記憶もあやふやということは、お父さんの記憶の可能性が高いわね。でも、どうして私の家じゃなくて仙台の家なんだろう? 私の家の方が思い入れが大きいと思うわ。何か仙台の家に秘密があるのじゃないかしら? 佐々木さん、仙台の家に行きたいのだけど…」
「…はぁ。少し席を外すよ」と佐々木さんは言うと側仕えと一緒に部屋を出ていった。
紅茶を一口飲んだが、ぬるい…
ティーポットにはカバーが掛けてあるので、まだあたたかいと思う。
私はティーポットから紅茶を注いだ。
悠人を見ると、ケーキを一口食べただけで、放置している… 美味しくなかったのかな?
「なんだ? ケーキを狙っているのか?」と言って、私の前にケーキを置く。
「口に合わなかったのかなと思っただけよ」
「いらないのか?」
「食べるわよ」
私がケーキを味わっていると、悠人が「リッキー、ケーキの味はどうだ?」と言う。
もしかして、悠人はNeuraLumeが私の脳を使っているかどうかを確かめるためにこの質問をしたの!?




