サーバルーム その3
「これって、『あなた、この人を知っていますね?』という尋問に使えるってことよね?」
「そうなるな」
「じゃ、言って良い?」
「いいが、誰だ?」
「NeuraLume、佐々木さんって知っている?」
画面がちらちら変化するが、定まった人ではないような気がする。
「あれ?」
「予想と違ったのか?」
「うん。私達をここに連れてきた人が出るかと思ったけど、違ったわね」
「なるほど… 佐々木さんは偽名だからなぁ。それに、佐々木希、佐々木蔵之介、佐々木朗希とか有名人がいるだろ?」
「そうね。あと、佐々木小次郎とかね。 私達が名前を言う度に画面に顔が出るわね…」
「で、どうして佐々木さんなんだ?」
「だって、ここに連れてこられるまで佐々木さんは日本にいたでしょ? もし知っていたら、外部接続時に得た情報ってことになるかなぁと思って…」
「確かに、研究室で彩音が意識を失った時、救出時に佐々木さんは研究室にいたから顔を知っていると思うが、研究室内で佐々木さんと呼びかけたかどうかは覚えていない」
その時、画面に佐々木さんらしき顔が映った。
「! ねぇ! 今の佐々木さんよね?」
「おそらく」
「うーん。最初は佐々木さんという名前に反応しなかったよね? その後、悠人が研究室にいた話をしたら反応したわね」
「ここの施設のネットワーク障害発生後に彩音が意識を失ったなら、今も外部と接続できていることになるな。ん? どうした何を考えている?」
「うーん。ちょっとした思考実験だけど… NeuraLumeが外部接続していて、一つのシステムとして動作しているのよね?」
「そうだな」
「ネットワークが切れたら?」
「独立して動く」
「だよねぇ。で、またネットワークが繋がったら?」
「同期? マージ?して一体に戻る」
「そう、マージよ。ソフトウェアの分散開発みたいなことが発生しているんじゃない?」
「ネットワークが切れていると、それぞれのリポジトリで更新が発生する。ネットワークが繋がればリポジトリをマージするか… で、脳のマージってどうするんだ?」
「脳はシナプス接続の重み付けだから… マージでコンフリクトした部分は足して2で割るとか?」
「単純すぎるんじゃないか?」
「そうね。脳細胞の新陳代謝もプログラムされているようだから、マージ対象と認識されない脳細胞まで出てきそうね」
「それって、マージすると脳細胞が増えているということか?」
「かもね。新陳代謝のプログラムしだいだけど… 無駄に増えた脳細胞も淘汰できるかも」
「だといいがな。あまりにも変化が大きすぎたら?」
「まともに動作できない可能性があるわね」
「だとすると、どうする?」
「自動テストを導入していれば、まともに動作するかどうかは判断する基準があるけど、脳がまともに動作しているかのテストなんてきでないわよね。むりやりマージするとまともに動作しないわね」
「そうだな。では回避方法は?」
「そうねぇ…」
マージしないしか無いわよね。マージしないということは研究所と仙台とここが別々に進化するということになるけど…
NeuraLumeは実験的な要素が強いような気がする。そうすると、そこまで考えていなかったら?
人格が破壊される?
リッキーはエージェント?と使っていると言っていたから、ネットワーク接続は常時ではないよね? すると、更新はそう頻繁にはできないということは変化量が多い…
まずいわね。
ん? 悠人が私の顔をじっと見ているのに気づいた。
「あっ。ごめん。考え込んでた」
「いや、いい」
ここで話すとNeuraLumeが聞いているからそれ以上聞いてこないのかな?
悠人の空気を読む能力はすごいわね。
「はぁ。疲れちゃったわね。休憩しない?」
「そうだな」
私達は入口の休憩エリアに行った。
自販機を見ると…
「何これ?」
「どうしたんだ?」
「コカ・コーラにスプライトにドクターペッパー… 甘くないのがないじゃない!」
「ま、無いのが普通だな」
「なんで、ドクターペッパー?」
「ハッカーは好きなやつが多いんだよ。ここなら他のものがあるかもな」
悠人は携帯の地図を見て言った。
「そうね。その前にトイレ」
「あぁ。わかった」
私がトイレで手を洗っていると、「後で確認して」とスボンのポケットに何か入れられた。
誰? と思って振り返っても誰もいない。
『後で』ということは、ここじゃダメってこと?
ソフトウェアの開発の用語が多くなってしまいました...
研究者間の会話だから知っていることが前提なので、用語説明は入れにくいです。
すみません。




