第42話 五乗先生と恋 1
【ホタル視点】
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土曜日の夜。
私は、自室でベッドに入ろうとしていた。
今日の部活には、五乗先生、来ていたな。
様子も普通だったけど・・・。
そう言えば、虹色サンドの試食会から、先生とはまともに話していない。
先生、告白した経験ないからどうしたらよいかわからない、と言っていたから、諦めたのかな?
なら・・・。
「あーー、ダメ!嫌な奴になる。寝よう、寝よう。こんなことで悩んでいてもしょうがないよ」
私は、ガバっと布団を開きベッドに潜り込んだ。
【五乗視点】
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土曜日の夜。
私は、眼が冴えて眠れずにいた。
今日は、部活の顧問の仕事で疲れていたはずなのに。
なので、一人暮らしの部屋の中をウロウロしている。
そして、体温の上昇を感じていた。
「あわわわ・・・・。マスターを前にして告白なんて!」
考えるだけで、心臓がドキドキしてしまう。
きっと、マスターの前で顔が真っ赤になっちゃうわ。
「私、恋愛経験なんてないし・・・・」
無理そう。
でも、今まで怖かった男性の中で初めて、イイと思える人に会えたんだ。
こんなことってもう無いのでは?
「そうよ。ここは、勇気を奮い起さないと!」
でもマスターと顔を合わせられるのなんて、カフェだけだし・・・。
お客さんがいる前で、そんなこと言えない。
どうしたら?
部屋をウロウロしながら、心のせめぎ合い続く。
そして、立ち止まった。
「そうだわ!食事に誘えばいいのよ。明日、カフェに行ってマスターを食事に誘うのよ!」
そう思いつくと、私は、少しスッキリしてベッドに潜り込んだ。
翌、日曜日
「来てしまった・・・」
マスターを誘えるという確信も無いままに・・・。
マスターに会いたかったこともある。
私は、マスターと話ができれば、ホッとするし癒されるのだ。
でも。
今日こそ!
そう決意して『Cafe・プリマヴェーラ』にやって来た。
しかし、入り口の手前で足がすくんだ。
「うう・・・」
告白のことを考えると緊張してしまい、マスターの前に出るのが恥ずかしくなってしまうのだ。
これじゃ、顔を合わせたら、どうなってしまうのか?
この先にマスターがいるのに。
何て意気地がない私なのだろう。
ダメ?
いいえ。
ここは、頑張りどころなの。
行け!行け!私!
勇気を持つのよ!
「スー、ハー、スー、ハー、スー、ハー・・」
私は落ち着こうと深呼吸で息を整える。
「五乗先生。五乗先生。五乗先生!」
突然、すぐ後ろから大きな声が響いた。
「ヒイッ!」
後ろから急に声をかけられて情けない声を上げてしまった。
振り返ると、先日、一緒に『虹色サンド』の試食をした関さんだった。お店でもよく顔を合わせる。何度か話かけられ、話すこともあったが、会話は続かなかった。私のせいだと思うけれど。
「お、驚かせないでください!」
私は、少しずり落ちた眼鏡を指で押し上げながら抗議する。
本当にビックリしたのだ。
「ビックリしたのはこっちだよ。急に大きな声をあげて。まあ、いいや。先生も食べに来たんだろ。さっさと入ろうぜ」
「え、あの・・、ちょっと!まだ心の準備が・・・」
「何言ってんだ。入るぞ」
私は、関さんに押されるようにプリマヴェーラに入った。
カランカラン。
「いらっしゃいませー」
もう、心の準備ができていないのに・・・。
関さんに押されるように、あたふたしながら、カウンター席までやってきた。
「五乗先生、いらっしゃいませ。あれ、関さんも。珍しいですね、一緒なんて」
勧められるままカウンター席についた。
マスターが満面の笑顔を向けると、顔が赤くなっていないか、気になり俯く。
「店の前を行ったり来たりしていたから、連れ込んだんだよ」
関さんが、私の隣の席に腰かけた。
「そうだったんですか。最近いらっしゃらなかったので、心配していました。何かありましたか?」
「いえ、特には・・・何も・・」
ひたすら俯く。
耳が赤くなっていないかしら。
ああ、勇気がでない。
ゴン、ゴン!
乱暴に冷たいレモン水が入ったグラスが、私と関さんの間からカウンターテーブルに置かれた。
レモン水が少し零れた。
「いらっしゃいませ~!」
葵井さんだ。
作り笑いだとわかる強張った笑顔を向けている。
「出たな!狂暴娘!」
「何を!」
関さんが立ち上げりファイティングポーズを取ると、葵井さんはトレイを左手で後方上方に掲げ、右掌を前に出しこちらも応じた。
「はいはい、2人ともお客様の迷惑ですから、やるなら外に出ましょう」
マスターが慣れた感じで落ち着いた口調で言うと、二人は、矛を収めた。
「チっ!」
「ふん」
お互いそっぽを向く。
葵井さんは私たちの注文を取ると、カウンターに入って行った。
そして、私の方を時々ジッと見ている。
私は、その視線と合わせられない。
私は、俯いて思案していた。
不本意な形になったが、お店には入れた。
でも、マスターと食事がしたいと話せるチャンスがあるだろうか?
そんなモヤモヤしている時。
隣に座っている関さんが、急に言い出した。
「五乗先生、○○君に何か話したいことがあるんだろ?」
「え?」
私は、驚いて顔を上げた。
「そうなんですか?」
私は、関さんとマスターの顔を交互に見る。
「何でしょうか?五乗先生、何でもおっしゃってください」
マスターが優しい笑顔を向ける。
「え、あの・・・」
その時、奥にいる葵井さんと目が合った。
冷めた眼でこっちを見ている。
そうだ。私は、葵井さんに宣言したんだ。
ここは、怯えて躊躇している場合ではない。
「はい、マスターにお話したいことがありまして・・・・」
「どんなことでしょうか?」
「あの、その・・・。ここでは、ちょっと。外で2人でお話する機会を頂けないでしょうか?」
ああ、ついに言ってしまった!
「外でですか?」
「はい・・・」
「そうですね」
マスターは少し考える風だ。
「あ、無理ですよね。マスターお忙しいでしょうから、今のはお気になさらずに・・・」
ああ、ダメだったな、やっぱり・・・。
「わかりました。大丈夫ですよ」
「え?」
私は、驚いて顔を上げる。
マスターは、ニッコリと微笑んでいる。
「では、いつに、し、痛てッ!」
葵井さんが、後ろからマスターのお尻を蹴飛ばした。
「ホタル?」
マスターが葵井さんの方に振り返る。
「ふん?」
葵井さんは、そっぽを向いた。
「何、怒ってんだよ?狂暴娘」
関さんが言う。
「うるさい。関は黙ってて」
「うん?何だ?ははあ、もしかしてお前、妬いてるのか?」
関さんは、ニヤニヤしながらからかうように言う。
「そ、そんなんじゃない!」
葵井さんの顔が、みるみる真っ赤になっていく。
「ははあ、図星か」
「う、うるさい!」
そう言うと、葵井さんはカウンターからお店の奥に消えて行った。
「すいません。五乗先生、ホタルには注意しておきますので。日にちは、メッセージしますので後で調整しましょう」
「は、はい!」
ヤッター!
とにかく外で会う約束は貰えそう。
頑張ったわ!私。
これも関さんのサポートのおかげ。
関さんの方を見ると、二ッと笑う。
私は、軽くお辞儀を返した。
少し体温が上がった。
何はともあれ、マスターと二人で会う約束を貰えそうでホッとした。
でも、ここからが大事!
そう思うと、また緊張してきた。
【○○視点に戻る】
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その日の夜。
住居棟の居間で、僕は五乗先生にメッセージアプリで連絡を取っていた。
丁度次の日曜日は、朝の買い物後の昼頃に時間を作れそうだったので、そう返信した。
場所は、森林広がる高原に佇む欧風のシックな内装の地元では有名な人気のレストランが近いし良いかと思った。
うん?待てよ。
落ち着いて話したいようだったな。
混まないお店の方がいいか?
なら、こっちの方が・・・。
メッセージアプリで五乗先生とそんなやり取りをしていると、ホタルはテーブルの対面に座りこちらの様子を伺っていた。
「行かなくていいと思うけど・・」
ホタルがボソリと言う。
「そうも行かないよ。何か大事な事のような気がしたし。ホタルのことかな、と思うんだけど」
「違う」
「なんでそう思うの?」
「それは・・・」
ホタルの言葉が詰まる。
「いずれにしろ、何か大事な事のようだから、行かないとね」
「大丈夫だってば!」
ホタルが立ち上がり、大きな声を上げた。
「どうしたの?何をそんなに怒っているの?」
僕は、不機嫌な理由がわからず、思わずそう言ってしまう。
「知らない。もういい。○○のバカ」
キっとした表情でそう言い残すと、ホタルは、自分の部屋に入り扉をバタンと閉めた。
「ホタル?」
僕は、呆気にとられて見送った。
「最近どうしたんだろうな。はあ・・・」
ホタルの気持ちがくみ取れず、僕は天井を仰いだ。
「ねえさま、パパがすき~、だーいすき!」
対面のテーブルで絵を描いていた純華が言った。
「え?」
夢中になって絵を描いている純華を見る。
「そうかな?なら、嬉しんだけどな」
「できた!」
純華が描き上げた絵を僕に見せてくれる。
それは、3人が仲良さそうに手を繋いでいる絵だった。
真ん中に大きな男の人がいて、右側が女の人、そして左側に小さな子供がいる。どうやら僕とホタルと純華の絵のようだ。みんな笑顔で明るい絵だ。
「これは、良い絵だね」
思わず、笑顔になる。
僕は、この絵のように家族が笑っていられるようにしないといけないと思った。
(つづく)




