ホワイト退社とブラックギルド
「作業完了! 全員、撤収準備に入ってください!」
洞窟内に俺の威勢の良い声が響く。
『契約鑑定眼』で最効率のルートを割り出し、『全自動安全衛生バリア』で迫りくる魔物の攻撃をすべて弾き返した結果――わずか二時間足らずで、全員分の適正ノルマである高品質な薬草が完璧に揃ってしまった。
「す、凄すぎるよ勇者さん! 一滴の汗もかかずに、こんなに質のいい薬草が採れるなんて……!」
「怪我人もゼロ……こんなに安全で楽しい採取、初めてです……!」
ロイとリナが目を輝かせている。
「よし、予定通り17時ピッタリに現場撤収です。定時退社(街への帰還)と行きましょう」
「て、定時退社……!? ダンジョンから定時で帰る冒険者なんて聞いたことありませんよ!?」
メルティがまたしても叫んでいたが、流石に慣れてきたのか、半ば呆れ顔で後をついてきた。
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王都の路地裏にある、薄暗く湿気くさい建物――『黒蛇の剣ギルド』。
ここは新入りの冒険者を甘い言葉で釣り込み、過酷なノルマと高金利の装備ローンで縛り付けることで知られる、噂のブラックギルドだった。
ギルドのドアを押し開けると、カウンターの奥から酒臭い息を吐きながら、強面の大男――ギルドマスターのドグラが姿を現した。
「あァ? なんだロイにリナじゃねえか。薬草100束は持って帰ってきたんだろうな? 足りねえなら規約通り、違約金と違約利息を払ってもらうぞ」
「ひっ……!」
ドグラの圧迫面に、ロイとリナが怯えて俺の背後に隠れる。
俺は二人をかばうように一歩前へ出ると、ドグラの前に薬草の入った麻袋をドンッと置いた。
「薬草は計40束。1人あたり20束の適正採取量です。本日の業務はこれで終了とさせていただきます」
「あァ!? 40束だと!? なめとんのかガキが! 契約書には100束と書いてあるだろ!」
ドグラが机を叩いて立ち上がり、威嚇するように腰の斧に手をかけた。
だが、俺は怯まない。
『契約鑑定眼』を発動させ、ドグラが提示してきた『誓約書(契約書)』をジッと睨みつける。
『解析完了:誓約書』
『違反項目:暴利行為(金利規定の上限超過)、不当な解約手数料、および誤認勧誘』
「ドグラさん。あなたの提示したこの契約書、法的に(この国の基本法令に照らし合わせて)完全に無効ですよ」
「あ……? 何をわけの分からんことをブツブツと……!」
「まず、新人に告知なしでBランクモンスターの出没地域へ向かわせる『安全配慮義務違反』。次に、市場適正価格の5倍に跳ね上がった『不当な装備品のローン契約』。さらに、ノルマ未達時の違約金設定は、公序良俗に反する暴利行為に該当します」
俺は胸ポケットからペンを取り出し、ドグラの目の前で羊皮紙の契約書にスーッと赤線を引いていった。
「よって、本日をもってロイ君とリナさんの雇用契約(冒険者登録)は解除させていただきます。当然、不当な違約金の支払義務も発生しません。これまでの過払い分の装備代金については、相殺手続きを行わせていただきますので」
「ふ、ふざけるな小僧ぉぉぉっ! 誰に向かって口を利いてやがる!」
ブチ切れたドグラが、巨体から繰り出される全力の斧振り下ろしを俺の脳天に向かって叩き込んできた!
「勇者さんっ!?」
ロイが悲鳴を上げる。
ドォォォンッ!!
猛烈な衝撃波がギルド内に吹き荒れた。
だが――ドグラの斧は、俺の頭上数センチのところでピタリと止まっていた。
「な……なんだと……!?」
俺の防具から展開された『全自動安全衛生バリア』が、ドグラの攻撃を完璧にブロックしている。衝撃すらない。
「不当な暴力による業務妨害および公務執行妨害(王国勇者への攻撃)。……これ以上暴れられるなら、聖騎士団(警察)に通報し、ギルドの営業停止処分を請求しますが、いかがいたしますか?」
俺はバリアの向こう側から、冷静で冷徹な、しかし極めて社会人らしい笑みを投げかけた。
「ひ……ひぃぃぃっ……!? か、化け物……!」
自慢の斧がピキピキとヒビ割れていくのを見たドグラは、恐怖のあまり腰を抜かして後ずさったのだった。
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