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スキル『有給休暇』発動!

「て、転職……? 俺たちが……?」


 地面にへたり込んだまま、少年剣士ロイと少女魔導士リナが呆然と俺を見上げる。


「ええ。劣悪な労働環境で無理なノルマを課され、命の危険に晒される。そんなの適正な労働ではありません」


 俺はウエストポーチから、王都を出る前に用意しておいた『応急救護セット』を取り出した。

 擦り傷だらけのロイの手に消毒薬を塗り、包帯を巻いていく。前職の現場監督時代、救急救護講習を何度も受けていたのがここで役立った。


「あ、ありがとう……。でも、俺たちみたいな下級冒険者、ギルドの言うことを聞くしかないんだ。今日薬草を持ち帰らないと、違約金で街からも追い出される……」


 リナが悔しそうに拳を握りしめ、ポロポロと涙をこぼした。


「違約金……。なるほど、典型的な脱法ペナルティ契約ですね」


 俺はふっと息を吐き、自分のプロテクターの胸元に手を当てた。


「安心してください。労働者を守るための強力な『権利』が、僕には付与されていますから」


 俺は二人に向き直り、はっきりと宣言した。


「――スキル発動。『有給休暇(コンディション調整)』!」


 その瞬間、俺の身体から温かな黄金色の光が溢れ出した。

 光は柔らかな波となって広がり、隣にいたロイとリナ、さらにはオロオロしていたメルティまでをも優しく包み込んでいく。


『――【有給休暇】の行使を確認。労災予防および疲労回復効果を、パーティおよび関係者に適用します』


「な……なにこれ!? 体が……すごく軽い……!?」


「魔力が……一瞬で満タンまで戻ってる……!?」


 ロイとリナが驚愕の声を上げた。

 さっきまで死に体だった二人の顔に一瞬で血色が戻り、擦り傷は綺麗に消え去り、極度の疲労と睡眠不足のバッドステータスが綺麗さっぱり消滅していた。


「な、なんですかこの凄まじい範囲回復魔法はぁぁぁっ!?」


 メルティが目を飛び出さんばかりに開いて叫ぶ。


「最高位の聖属性魔法『聖女の奇跡』すら超えていますよ!? 一瞬で全員の全ステータスと魔力が完全回復するなんて、そんなの反則です!」


「いや、ただの有給消化ですけど……。しっかりと休息を取ることで、パフォーマンスを極限まで引き上げる。労働者の基本ですよ」


 俺はケロリと言い放った。

 本来は自分用の有給(急速回復)だが、パーティの安全管理者(リーダー)として「連行する同行者の体調管理」という名目で権利を行使したのだ。コンプライアンス的にも完璧である。


「よし! 体力が回復したところで、現場の効率化(5S活動)と薬草採取に入りましょう」


 俺は洞窟の入り口を指差し、テキパキと指示を出した。


「ロイ君は無理な戦闘は避け、僕の『全自動安全衛生バリア』の後ろから安全に採掘・採取を担当してください。リナさんは『契約鑑定眼』で可視化した群生ポイントへ案内します。過重労働にならないよう、1人あたり適正量の20束をサクッと集めて、本日の業務は定時で終了にします!」


「は、はいっ……! なんか分からないけど、すごくできそうな気がする!」


「うん! 行こう、ロイ!」


 元気を取り戻した二人が、希望に満ちた目で洞窟へと足を踏み入れる。


「……あ、あの、勇者様?」


 後ろからついてくるメルティが、引きつった笑みを浮かべながら尋ねてきた。


「勇者様って……もしかして『戦って魔王を倒す』以外の方法で、この世界を変えようとしていらっしゃいます……?」


「ん? 何を言っているんですか、メルティさん」


 俺は振り返り、爽やかな(そして極めて真面目な)笑みを向けた。


「安全で快適な現場を作り、ブラックな仕組みを潰していく。これだって立派な『世界の平和維持(プロジェクト)』ですよ」

毎日18時30分更新!

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