↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/20

勇者はダンジョンへ行く

王都から馬車で数時間。

 俺と聖女メルティがやってきたのは、近郊にある『試練の洞窟』の入り口だった。


「ここが最初の現場ですか……」


 周囲を見渡して、俺は思わず眉をひそめた。

 国から支給された軽量なホワイトカラーの軽鎧――『業務用プロテクター』の襟元を整えながら観察する。

 入り口には崩れかけた木製の案内板。落ちてくる岩を防ぐネットもなく、足元はぬかるんでいる。安全対策の「あ」の字もない、完全な欠陥現場だ。


「はい! ここで魔物を数体討伐し、薬草を持ち帰るのが勇者様の初仕事となります!」


 メルティが元気に説明してくれるが、俺の目は洞窟前で立ち尽くす数人の若者たちに注がれていた。

 ボロボロの革鎧を着た少年剣士と、青ざめた顔で杖を突く少女魔導士。

『契約鑑定眼』を発動させると、彼らの頭上に赤い文字でステータスと状態が浮かび上がる。


『名前:ロイ(新米冒険者)/コンディション:極度の疲労・栄養失調』

『名前:リナ(新米魔導士)/コンディション:魔力枯渇・睡眠不足』

『雇用環境:ギルドからの完全歩合制(手当なし・装備自腹)』


(ひどすぎる……。完全に新人使い捨てのブラックギルドじゃないか……)


 胸の奥から怒りが湧き上がる。自分の苦しかった下積み時代がオーバーラップしたのだ。


「あ、あの……そちらの二人、大丈夫ですか?」


 俺が声をかけると、少年剣士ロイが力なく振り向いた。


「……あ、あんた誰? 俺たちは今日、薬草を100束採ってこないとギルドをクビになるんだ……休んでる暇なんてないんだよ」


「100束!? 1人・1日あたりの適正採取量はせいぜい20束ですよ! それにその体調でダンジョンに入るのは自殺行為です!」


 俺が注意しようとしたその時――!


『グギャアアアアッ!!』


 洞窟の奥から、体長2メートルを超える巨大な角イノシシ――『オークボア』が飛び出してきた!


「ひ、ひえっ!? なんでこんな浅い階層にBランクモンスターが!?」


 メルティが悲鳴を上げる。ロイとリナは恐怖で腰を抜かし、動けない。


『Target:オークボア/危険度:高』

『契約鑑定眼:突進の威力・骨折および即死リスク100%』


「う、嘘だろ……っ! 死ぬ……!」


 ロイが目を瞑る。オークボアの鋭い角が、丸腰に近いロイたちに向かって一直線に迫る――!


「危ないっ!」


 俺は二人をかばうように前に飛び出した。


「勇者様ぁぁぁっ!?」


 ドォォォォンッ!!!!

 激しい衝撃音が洞窟前に響き渡った。


 土煙が舞い上がり、誰もが俺の死を確信した、その瞬間。


「……ふぅ。驚かさないでくださいよ。労働安全衛生上、事前告知のない飛び出しは非常に危険です」


 煙の中から現れた俺は、支給されたプロテクターの肩のホコリを叩きながら、ケロリとした顔で立っていた。


「「「え……???」」」


 全員の時が止まった。

 俺の身に着けた防具の表面に、見えない半透明の膜――『全自動安全衛生バリア』が展開されている。

 そして、突進してきたオークボアはというと――

 俺のバリア(絶対不可侵の安全領域)に激突した反動で、自らの突進エネルギーをそのまま喰らい、白目を剥いてひっくり返っていた。完全な自爆KOである。


「な……なんですか今の!? 物理攻撃も魔法バリアも効かないはずのオークボアの突進を、棒立ちで跳ね返した……!?」


 メルティが目を丸くして叫ぶ。


「いや、ただの労災防止バリアですけど……」


 俺はひっくり返ったオークボアを見下ろし、ため息をついた。


「さて……現場の危険予知(KY活動)ができていない上に、新人に過密スケジュールを強いる労働環境。見過ごせませんね」


 俺は腰を抜かしているロイとリナに向かって手を差し伸べた。


「君たち。そんなブラックなギルド、今すぐ労働条件の改善を要求するか、転職しましょう。僕が『ホワイトな冒険』のやり方を教えてあげます!」

毎日18時30分更新!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。