魔王軍最強は特濃ブラック
「リュミエラを出せぇぇぇっ! 契約期間を残して勝手に辞めるなど、魔王軍の規約違反だぁぁぁっ!」
王都の外郭防衛線に、突如として激しい雷鳴と共に巨漢の悪魔が現れた。
魔王軍第一軍団長・雷撃のゴルゴダ。魔王城屈指の武闘派であり、リュミエラの上司にあたる男だ。
その背後には数百の精鋭悪魔兵が控え、王都の住民たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「グハハハ! 脅迫も直接連絡も禁止だと? たかだか人間どもの作った『受任通知』など、この雷で焼き払ってくれるわ!」
ゴルゴダが腕を掲げると、空が黒雲に覆われ、巨大な落雷が王都へと振り下ろされた!
ドガァァァァンッ!!!!
凄まじい衝撃波が街を包む――はずだった。
「……あれ? 暖かくて気持ちいい……?」
「雷が……光の粒になって消えていく……!?」
住民たちが恐る恐る目を開けると、王都全体を包み込むように巨大な純白の黄金光ドーム――『全域型・全自動安全衛生バリア』が展開していた。
「な……なにぃぃぃっ!? ワシの超広域殲滅魔法が……無効化されただと!?」
ゴルゴダが目を剥く。
「ゴルゴダさん。受任通知の無視、および依頼人への直接の脅迫・襲撃行為。完全にアウトです」
バリアの内側から、アラタが最高長官の制服に身を包み、足取りも軽く歩み出てきた。
その横には、元Sランク冒険者のバルザックが豪快に大剣を肩に担いで控えている。
「け、不当な契約破棄をして逃げたリュミエラを連れ戻しに来ただけだ! 労働者の所有権は魔王軍にある!」
「『所有権』? 労働者は所有物ではありません。人間であれ魔族であれ、不当な拘束からの離職(退職)の自由は保障されています」
俺は胸ポケットから、新しくアップデートされた『有給休暇・広範囲適用』の操作端末を取り出した。
「それに、ゴルゴダさん。あなた自身も顔色が非常に悪いですよ。『契約鑑定眼』で見させていただきましたが……」
『Target:ゴルゴダ(第一軍団長)/ストレス値:98%』
『連続サービス残業時間:月220時間超/脳血管疾患リスク:極めて高』
「あなた、猛烈な過労状態です。部下を連れ戻す前に、ご自身の命が危険ですよ」
「な……なにを世迷い言を! ワシは魔王軍最強の――」
「はい、問答無用で『強制有給休暇』を付与します」
俺が端末のボタンをポチッと押した。
「――スキル発動!『有給休暇・広域強制適用(全自動メンタルリセット)』!」
シュヴァァァァンッ!!
バリアから溢れ出た黄金の光が、ゴルゴダと背後の悪魔兵数百人をやさしく包み込んだ。
「ぐ……お……? な、なんだこの温かい光は……? 肩のコリが……長年の不眠症が……消えていく……!?」
ドサッ、ドササッ!
さっきまで殺気を放っていた悪魔兵たちが、次々と武器を落とし、極上の羽毛布団に包まれたかのようにその場に寝転がり始めた。
「あぁ……温かい……。魔王城の冷たい石畳じゃなくて、こんなに柔らかい草むらで寝たのは何年ぶりだろう……」
「俺……本当は料理人になりたかったんだよな……なんで戦ってんだろ……」
悪魔兵たちが涙を流しながら、清々しい顔でスヤスヤと眠りに落ちていく。
「ば、バカな……! ワシの精鋭部隊が一瞬で骨抜きに……ぐ、ふあぁぁぁ……」
ゴルゴダも必死で抵抗しようとしたが、極上のリフレッシュ効果に耐えきれず、大の字になって横たわった。
「す、睡眠時間……最高……。もう魔王城に帰りたくない……」
「よし、全員『強制有休』に入りましたね」
俺はメモ帳にチェックを入れ、バルザックに振り返った。
「バルザックさん、彼らが目を覚ましたら、新設した『メンタルケアサロン』と『適性転職相談窓口』へ案内してあげてください。魔王軍からの転職希望者として受け入れます」
「ガハハ! 承知したぜ長官! 魔王軍の第一軍団が、まるごとホワイトに寝返っちまったな!」
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