第ホワイト勇者と魔王
「れ、連続勤務842日……!? 休日なし……!?」
長官室で温かいスープ(福利厚生備品)を必死で啜る魔族の少女――第三軍団長リュミエラ。
彼女が明かした魔王軍の労働実態に、メルティもバルザックも絶句していた。
「魔王様は……『魔族の悲願』だの『やりがい』だのを理由に、睡眠時間すら削って魔法陣を描かせ続けるんだ……。『代わりはいくらでもいる』『文句があるなら去れ、ただし脱走者は死刑』って……」
涙をポロポロと零しながら語るリュミエラ。
その痩せこけた頬と深いクマは、かつてブラック企業の事務所で絶望していた頃の自分と重なった。
「やりがい搾取に、脱走への死刑ペナルティ……。典型的なカルト型ブラック企業ですね」
俺は眼鏡の位置を正し、胸ポケットから『退職代行・受任通知書』を取り出した。
「安心してください、リュミエラさん。本日をもって、当『国家最高労働適正化機構』があなたの代理人となります。これより魔王軍に対し、正式な退職代行手続きおよび過払い賃金の請求を行わせていただきます」
「え……? で、でも、魔王様にそんな紙を出したら、一瞬で殺されちゃうよ……!?」
「ふふっ、直接会いに行って手渡す必要はありませんよ」
俺は『退職代行』の専用インターフェースを展開した。
「――スキル発動!『概念送達:退職代行通知(内容証明・即時到達)』!」
シュヴァァァァンッ!!
俺の手元にあった羊皮紙の通知書が純白の光となって弾け、空間の裂け目を通って、はるか遠くの魔王城・玉座の間へと直接ワープ送達された!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
同時刻――暗黒大陸・魔王城、玉座の間。
「ぐははは! 人間どもめ、次の総攻撃で一気に攻め滅ぼして……ぬ?」
漆黒の玉座に鎮座する魔王の目の前に、突如として空間が裂け、一枚の眩い純白の書状が空降りてきた。
『受任通知書兼退職届』
『差出人:国家最高労働適正化機構 最高長官 アラタ』
『被依頼人:第三軍団長 リュミエラ』
『拝啓 魔王様。当機構はリュミエラ氏より一任を受け、貴殿率いる魔王軍に対し、本日付での【退職通知】および【有給消化手続き】を行います。なお、未払い残業代(842日分)および慰謝料として、魔導鉱石10,000個の支払いを請求します。本日以降、本人への直接連絡および脅迫行為は法律により固く禁じられます』
「な……なんじゃこのふざけた書状はぁぁぁっ!?? 退職だと!? 有給だと!?? ワシの魔王軍に『労働基準』などあるかぁぁぁっ!」
激怒した魔王は書状を破り捨てようとした。
だが――破ろうとした瞬間、書状から強烈な『全自動安全衛生バリア』の反作用(コンプライアンス衝撃波)が放たれた!
ドバァァァンッ!!
「ぐはぁぁぁっ!?? 貴様ぁぁぁっ!」
玉座ごと吹き飛ばされる魔王。
通知書は宙に浮いたまま、魔王城全体に向けてアラタの冷徹な音声ガイダンスを響かせた。
『――通知の到達を確認。本日よりリュミエラ氏の退職手続が完了しました。なお、業務妨害およびハラスメント行為が継続される場合、魔王軍全体に対する【全自動労働監査および解雇通告】へ移行します』
魔王城の幹部や兵士たちが、恐怖と驚愕でガタガタと震え上がったのだった。
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