国家最高機関の勇者
「長官! 本日の『労働相談』および『退職代行』の申請件数が、早くも三千件を超えました!」
「落ち着いてください、メルティさん。まずは緊急度の高い『過労死ライン越え』の案件から優先して処理しましょう」
王都の中心に新建設された巨大な庁舎――『国家最高労働適正化機構』。
かつての中央連盟本部は改装され、いまや全土の冒険者や労働者の権利を守る、希望の象徴となっていた。
Sランク冒険者から機構の『最高安全責任者(警備総括)』に就任したバルザックが、コーヒーカップを片手に豪快に笑う。
「ガハハ! 連盟を潰して常時バリアが王国全域に張られたおかげで、冒険者の死亡率が一気にゼロになったぜ! アラタ長官のおかげで、街の飲み屋は感謝の声で持ちきりだ」
「ロイ君とリナさんの『出張相談チーム』も、地方のギルド改革で大忙しですよ」
かつて路頭に迷っていた若者たちが、今や立派な「労働基準監督官(ホワイト査察官)」として胸を張って活躍している。
元・無職の就活生だった俺が、まさか異世界で国家機関のトップとして陣頭指揮を執ることになるとは、人生(異世界生)分からないものだ。
「……それにしてもアラタさん」
ふと、メルティが書類をめくりながら不思議そうな顔で俺を見つめてきた。
「アラタさんって、ご自身を『元無職の就活生』とおっしゃっていましたよね……? なんでそんなに手続きや法律、公文書の作成に詳しいんですか……? 正直、王国の最高法務官より手慣れていますよ……?」
「ああ、それか」
俺は苦笑いしながら眼鏡をクイッと上げた。
「ブラック企業で理不尽に使い潰されそうになる度に、自分の身を守るために労働法や契約書を必死で勉強したんですよ。それに、ハローワークに通い詰めすぎて、職員さんの動きや書類の書き方が体に染み付いちゃいましてね」
(本当なんだから仕方ない。でも、書類作成や説明を繰り返しているうちに、習慣や立ち振る舞い、考え方にまで影響していたなんて…。ついには異世界でスキル発動、って……)
「ハ、ハローワーク……恐ろしい場所ですね……(※何かすごい国家の秘密特務機関だと思っている)」
そんな平和な会話を交わしていたその時――
バァンッ!!
長官室の重厚なドアが勢いよく開かれ、ボロボロの漆黒の鎧を纏った『魔族』の少女が崩れ込んできた!
「た……助けてくれ……! 噂に聞く『ホワイト勇者』の機構はここか……!?」
「魔族……!? なぜ王都の真ん中に魔王軍の者が!?」
バルザックが瞬時に大剣に手をかける。
だが、俺は『契約鑑定眼』で少女のステータスと契約内容を瞬時に読み取った。
『Target:魔王軍・第三軍団長 リュミエラ』
『疲労度:99.8%(死相が出ている)/連続勤務日数:842日(無休)』
『担当業務:魔王城の全インフラ維持・徹夜での魔導陣構築・サビ残100%』
『依頼内容:【退職代行】による魔王軍からの完全脱出』
(……連続勤務842日!? サビ残100%だと……!?)
俺の脳内で、社会人としての(そして人間としての)静かな怒りのスイッチが切り替わった。
「バルザックさん、剣を引いてください。彼女は敵ではありません」
俺は駆け寄り、少女の肩を優しく抱え上げると、新スキル【退職代行】のファイルを取り出した。
「話を聞きましょう、リュミエラさん。……魔王軍のブラックな職場から、僕が責任を持ってあなたを『退職』させてあげます!」
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