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中央連盟本部(後編)

「お、おのれぇぇぇっ! くだらん帳簿のデータなど、力で揉み消してやるわぁぁぁっ!」


 大ホール全体に裏帳簿を可視化され、逃げ場を失ったヴァルター総裁が狂乱したように叫んだ。


 彼が懐から取り出した黒い禍々しい宝珠を掲げると、本部地下の保管庫から重苦しい地鳴りが響き渡る。


「出よ! 連盟創設より代々の総裁が契約し、全ギルドを死の恐怖で支配してきた守護魔獣――『黒契約の禁忌龍(ブラック・レヴナント)』よ!」


 ズドォォォォンッ!!


 大理石の床が弾け飛び、ホール中央に漆黒の鱗と赤い瞳を持つ巨大な龍が現れた。


 その身体からは、異世界の冒険者たちを不当な契約で縛り付け、怨嗟の声を吸い上げてきた禍々しい呪気のオーラが渦巻いている。


『Target:黒契約の禁忌龍/危険度:測定不能』

『契約鑑定眼:不当不利益契約の概念結晶体・物理/魔法攻撃無効化率99%』


「ははは! この龍は実体を持たぬ『契約の概念そのもの』! いかなる剣も魔法も効かぬ! お前たちのバリアもろとも噛み殺してやるわ!」


「アラタさん! 物理も魔法も効かないなんて……!?」


 ロイとリナ、そしてバルザックすらも大剣を構え直して緊張に顔を強張らせる。


 だが――俺は静かに一歩前へ出た。


「実体を持たない『不当契約の概念』……。なら、なおさら僕の専門分野です」


 俺は両手を広げ、脳内のスキルUIを最高出力で開放した。


「コンプライアンスを著しく破壊し、何千人もの労働者を不当に搾取・抑圧してきた悪質きわまりない組織構造。――これより『最高レベルの労働監査処分』を執行します」


 俺の全身から、眩いばかりの純白の黄金光が溢れ出した。


「――スキル発動!『解雇通告・集団概念破棄(ブラック組織の完全解体)』!」


 シュヴァァァァァァンッ!!


 俺の手から解き放たれた光は、巨大な「解雇通知書(監査命令書)」の形をとって空中に展開され、漆黒の龍とヴァルター総裁、そして連盟の腐敗した組織構造全体を丸ごと包み込んだ。


『――【解雇通告】の最高出力を確認!』

『対象(中央連盟)の保有するすべての不当契約・違法マージン構造・呪縛魔法を【完全解雇(消滅)】します!』


『グギャアアアアアアッ!?!?』


 漆黒の禁忌龍が、絶叫を上げた。

剣も魔法も効かないはずの「不当契約の概念」が、アラタの放つ「コンプライアンス(適法性)」の光によって、まるで雪解けのようにドロドロと消滅していく!


「な……なにィィィッ!?? 禁忌龍が……我が連盟の支配の象徴が消えていく……!?」


 ヴァルター総裁が髪を振り乱して悲鳴を上げた。


 ドォォォォンッ!!


 光が収まった時、禍々しい龍は影も形もなくなっていた。

 それどころか、異世界中の冒険者たちを縛っていた不当な違約金や拘束契約の呪縛が、一瞬にしてすべて弾け飛んだのだった。


「ひ……ひぃぃぃっ! わたしの……わたしの利権がぁぁぁっ!」


 腰を抜かして泥のように崩れ落ちるヴァルター総裁とギルバート。

 その時、大ホールの扉が勢いよく開かれ、王家直属の聖騎士団が雪崩れ込んできた。


「そこまでだ、ヴァルター! 巨額の脱税および不当人身拘束の容疑で逮捕する!」


 聖騎士たちによって連行されていく悪徳総裁たち。

 ホールに残された職員や冒険者たちからは、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。


「「「うおぉぉぉぉっ!! 自由だ! 俺たちはブラックな連盟から解放されたんだぁぁぁっ!!」」」


 歓喜の声が響く中――

 ――ファンファンファンファン、ファンファンファーレ!

 頭の中に、これまでで最も重厚で壮大なファンファーレが鳴り響いた。


『――超大型案件【異世界冒険者ギルド中央連盟の解体&ホワイト改革】の完遂を確認!』

『前代未聞の超絶実績ポイントを獲得しました!』

『【事務所ランク】が【Rank 3】から【Rank 4:国家最高労働適正化機構】へ昇格しました!』

『ランクアップ報酬として、以下の「福利厚生(チート機能)」が開放されます』

『1. 【全自動安全衛生バリア】の対象が「王立加盟店および提携ギルド全域」へ常時展開!』

『2. 新スキル【退職代行(悪質組織からの完全脱出補助)】の獲得!』

『3. 本部施設【ホワイトセントラルビル】の解禁!』


(ランク4! こ、国家規模の機関になっちゃったよ…!?)


 度肝を抜かれる俺の横で、メルティとロイ、リナ、そしてバルザックが顔を見合わせ、晴れやかな笑顔で俺を囲んだ。


「おめでとうございます、アラタ所長! いえ、これからは最高長官とお呼びすべきでしょうか!?」


「アラタさん、本当にすごいや……! この世界が、本当に変わっちゃったよ!」


「長官なんて大仰な。僕はただ、誰もが安心して働ける環境を作りたかっただけですよ」


 俺はプロテクターの襟元を正し、王都の青空を見上げた。

 かつてブラック企業で使い潰されかけた男が、異世界で掴んだ「ホワイトな未来」。


 しかし、俺たちの労働改革プロジェクトは、まだまだ続いていく――!


(第2幕・完結)

毎日18時30分更新!

次回、第3幕

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