↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/81

第七十三話 つもりがない

朝起きると、紗奈からメッセージが返ってきていた。


〈ありがとう〉


それだけだったけど、妙に安心できた。


登校してすぐに清水の教室で、清水と文化祭について話をした。


「何がどこまで進んでんの?」


清水は無言で紙の束を見せてきた。


「…………」


出せる言葉が何もなかった。


タコ焼きの機材はレンタルしておらず、家庭用のホットプレート二台を誰かの家から借りていた。しかも、延長ケーブルの長さも足りない。


料理器具に至っては全て借りる前提になっていた。材料の発注だけが終わっていた。冷凍タコ焼きではなく、粉から作る。


「えーと……何個を予定してるん?」


「二千個」


「おけ。それをホットプレート二台で焼く……と」


清水は何も言わない。


「それ、無理やろ」


少し黙って口を開いた。


「だから練習してたんだけど?」


アホか、と言う言葉を飲み込んだ。


「で、俺は何したらいいん?」


清水は黙っている。


「めんどくさいからはっきり言うわ。利益捨てや。せやないと無理ちゃうか? 楽しみたいだけなら、それでええやんか」


それでも清水は黙っている。さすがにイラついてきた。


「あんなぁ、お前はマジで何したいねん」


少し声が大きくなった。清水が答えた。


「お前はいいよな。五百城のおかげで女子が味方になるからな」


「は? 関係ないやん。あいつらに巻き込まれて、こないなってんねん。タコ焼きとか焼きたないわ」


また清水が黙った。


「お前、もうええわ。とりあえず二千個さばく。そんでええやろ」


俺は自分の教室に戻った。


放課後、俺はランニングをせずに道場前に向かった。文化祭組が集まっていて、清水が腕組みをして待っていた。


俺はみんなの前で言った。


「えーと……外注しよう。機材も看板も、もう今から準備する時間ない」


全員が俺の顔を見た。


「機材レンタルはもう無理やから、ガスのタコ焼き機を二つ買う。暖簾(のれん)と看板はネットで発注。それでもギリや」


誰も何も発言しない。ただ俺の顔を見続ける。


「利益は下がって、二千個全部売れても、四万円くらい。でも、カラオケ行くには十分やろ」


俺は昨日調べた模擬店の工程をスマホで見ながら言った。


「あと、火使うから、消防への届け出も要る。これも日程ギリギリや」


みんな、互いに顔を見合わせ、時々、清水を見た。俺はひとつため息をついた。


佐々木が口火を切った。


「誰がいつまでに何をするか決めようよ。間に合わせよう。せっかくなら、楽しもうよ」


なんとか進んだ。佐々木に感謝。


道場に入ってホワイトボードに役割、担当者、期限が書かれていく。


ホッとして、俺は議論の輪から少し離れて、それを見ていた。


「伊織くんの一言で進んだね」


五百城が俺のところにやってきた。


「や、これは佐々木のおかげでしょ。剣道下手やけど、キャプテンシーは最高ちゃうか?」


「そういう言い回し、伊織くんぽいね」


「なんやそれ」


「んー、たとえば……清水くんをどう思う?」


「めんどくさいヤツやけど、あいつなりに頑張ってんちゃう?」


「ほら! けなしたあとでも褒めるよね?」


気にしたこともなかった。


「そんなつもりないで。イラつくもんはイラつく」


五百城が頷いた。そして言葉を置いた。


「つもりがないのが、伊織くんだね」


「……こんなん関西人のクセやで」


この日から、文化祭組も手が空いてる人は稽古に参加し、道場の玄関には、暖簾や看板、食材が積み重ねられていた。


文化祭一週間前となり、短縮授業となった。いよいよ学校全体が文化祭仕様に変わっていく。


剣道部も道場の庇の下で、模擬店のリハーサルをすることにした。


机を置いて、その上にタコ焼き器二台とホットプレートを準備した。


「えーと、ガスで焼くのはそのまま提供。ホットプレートで保温して、タコせんとタコ串に回す」


清水が予定表を見ながら言う。


「焼き係やりたい人、挙手をお願いします」


誰も手を挙げない。


「あのねー、それがダメなんだって」


佐々木が強い口調で清水に言った。


「清水が監督するなら、実働九人しかいないんでしょ」


そして、紙を見ながら読み上げた。


「各台に一人ずつ、パック、レジ、食材準備、呼び込みが二人で、もう九人じゃん」


みんなが佐々木に注目する。


「それなら――」


一年男子の藪が続いた。


「人前に立つのは女子の方がいいよね。あと配置も変えません?」


藪がタコ焼き台が並んだテーブルに向かう。


「すぐ提供できるホットプレートは手前。ガスは後ろ……」


しゃべりながら、机の配置を変えていく。


一年男子の村上がホワイトボードを持ってきて、二年女子の久保がそこに当日の係と機材配置を記録していく。


食材の確認、当日の流れ、どんどん話が進んでいく。ホワイトボードが埋まっていく。


清水は腕組みをしてそれを眺める。


『食材 大西』


『呼び込み 五百城』


俺と五百城の名が、ホワイトボードにいつの間にか書き込まれていた。


見映えの良い五百城が呼び込み係なのは分かるが、大阪出身の自分は焼き係に回されると思っていた。


「さぁ、明日から本番想定の練習に入るよー。みんな、自分の仕事を忘れないように」


夜までかかったリハーサルは清水の言葉で締められた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。