↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/81

第六十七話 つるつるの埴輪

高校二年生。修学旅行。ホテルじゃなく旅館。あまりにもテンプレすぎる。


大部屋に集まって、朝まで恋やら夢やらを話しつくす。それが青春。


俺は大部屋ではなく三人部屋で、ルームメイトは、相変わらず安達と江口。


このふたりには申し訳ないが、彼らが陽キャでないことがありがたかった。


俺が風呂から上がってきたときには、安達と江口も寝ていた。気兼ねすることなく、俺も寝れた。


次に目を開けた時には、もう朝だった。


スマホには紗奈からのメッセージが届いていた。


〈起きてる?〉


八時間以上前だけど、返しておこう。


〈今は起きてる〉


既読もつかず、返事もこなかった。


朝ご飯を食べに宴会場に向かう途中、後ろから松田が元気にやってきた。


「おはよう。伊織、なんで昨日こなかったんだよ?」


「俺、モブや。夜は寝るんや」


「昨日のテンションはどこいった?」


「昨日は昨日、今日は今日。あー、サボりたい」


ブッフェ形式の朝ご飯。目の前は、皿に料理を山盛りにして食べる高校生で溢れていた。


俺はおにぎり一個とコーヒーだけ持って、ロビーで食べた。


ひとりになりたかった。


昨日は興奮気味だったから、あっさりと流してしまった。だけど、ループというのは受け入れがたい。


答えなんて出るわけもなく、時間だけが過ぎていく。


バスに乗せられ、百舌鳥・古市古墳群《もず・ふるいちこふんぐん》へ。


古墳なんて、近くで見るとただの小さな山だ。入口の広場で整列させられている時、パタパタと音が聞こえた。空を見ると、ヘリコプターが頭上を旋回していた。


「……上から見ないと、全体は見えへんわいな」


愚痴がぽろっと出た。


「――はい、解散。十三時には戻って来いよー」


みんなが一斉に散りだした。


「ん? あれ? どした?」


取り残された。


「伊織くん、どうする?」


五百城が聞いてきた。


「え? 聞いてなかった」


「見学する人は先生についていく。あとは、散策してもいいし、お土産見てもいいし。この辺から離れなければ、三時間自由だって」


「まだ理解できない。いいのそれ?」


「しおり読んでないの? で、伊織くんのご予定は?」


「読むわけない。松田と上川は?」


「レンタサイクルして古墳カレー食べに行くって。ノリノリで」


話しているうちに、広場には俺と五百城だけになっていた。


「……なるほどな。こりゃどないしましょかね?」


言い方が変だったのか、五百城が笑い出した。


「伊織くんって、ほんっと焦らないよねー」


「焦る理由ないやん。せやけど、ここで三時間なにしろ言うねん?」


俺が愚痴を言った時、五百城が、一枚のパンフレットを見せてきた。


『小さなお子様も大人も。埴輪づくり体験』


おお、手作り感満載のパンフやな。


「いや、なんかもう予想できるな」


「うん。埴輪つくろ」


「……んー、断る理由が思いつかへん」


「じゃ、決まりね」


俺とは対照的に、五百城はとにかく笑顔だ。昨日の顔はなんだったんだ。


パンフレットの地図を見る。今は、応神天皇陵古墳の前にいる。地図を見ながら道路を歩いた。


同じ高校のやつらが、いっぱいだ。


考えることはみんな同じで、結構な人が埴輪づくり体験に集まっていた。


「みんな、そんなに埴輪作りたいんか? 古墳見いひんのか?」


そんな愚痴を言いながらも、内心はありがたかった。


ここだけで九〇分は潰せる。


大勢の同級生たちと、教室に入っていくと、机の上には板と粘土の塊と、木べらが人数分並べられていた。部屋には土の匂いが残っている。


係の人が前で作り方を説明してくれる。


粘土を伸ばす。輪にする。積む。ならす。


それを繰り返す。


ひたすら地味だ。


「なんかさ、埴輪の顔ってかわいいよね。丸みっつ」


手本の埴輪を見ながら、五百城が言う。


「それは否定しない。絶対に万博のミャクミャク作ったヤツおるやろな」


「あー、いそういそう」


土をコネながら、くだらない話をする。意外と癒される。


だいたい目立ちたがりは、ここでアヒルのオマルを作る。偏見だ。


俺にそんな気はない。凝る気もない。


ひたすら、水でつるつるにしていた。


「伊織くん、なんかそれスゴイかも。光ってるよ」


五百城が笑う。


「いや、これに、目と口の穴あければ、ほら」


つるつるの表面に、丸い穴を三つ開けて、その真ん中に鼻となる棒を置いた。


それを見た五百城はもう、笑いが止まらなくなっていた。


「あははは、その顔」


俺は五百城の作品を見た。馬だ。たぶん、馬だ。


「五百城のそれ、馬やんな」


「そだよ」


「いや、なんつーか。上手いわけでも、下手なわけでも……」


「なに? どういうこと?」


「いや、ほら、中途半端つーか。ネタにならんつーか」


五百城が頬を膨らませるのを初めて見た。


「これでいいじゃん」


五百城は、俺の埴輪を自分の馬に乗せた。


「はに……は……埴輪の王子様。光りすぎ。だめ、おもしろすぎる」


ひとりでツボに入って笑っている。


最後に名前を書いた紙を添えて、係の人に渡す。焼き上がるのは後日らしい。


「あ、日菜子ちゃんが、一緒に古墳カレー食べよう、だって」


「興味はある」


「じゃあ、いこー!」


この日、五百城はずっと機嫌が良かった。


帰りの新幹線は……静かだった。


みんな寝ていた。そりゃ、そうだろな。


そう思いつつも、俺自身もすぐに寝てしまい、起きたときにはもう、降りる直前だった。


駅でみんなを並べて、先生がお決まりの文句を言う。定番の光景だ。


「あー、今日はここで解散だ。帰るまでが修学旅行。事故などに気を付けて帰るように」


いつも思う。「など」ってなんや? 事故以外を教えてほしい。


五百城たちとはそこで別れ、俺は最寄り駅が同じ紗奈と帰るつもりだった。


だけど、解散して紗奈を探しても、紗奈はもういなかった。


修学旅行のテンションで友達と帰ったんやろな。そんな風に思っていた。


五百城も松田も上川も、もう帰っていた。


俺はひとり残された。


いつもなら喜ぶべき状況なのに、この時の俺は、消化しきれない何かを感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。