第六十六話 やっぱり上川
ショップの中に戻ると、さっきよりも人が増えてて、レジの列が通路にはみ出している。ぬいぐるみの棚の前では、小学生くらいの女の子が高校生に紛れて、両腕いっぱいにキャラクターを抱えていた。
スマホを見る。タイムリミットまであと十五分。
上川から送られてきた写真の商品を、片っ端からかごに入れる。商品を選ばない分だけ早かった。
五分もしないうちに指定の品を集められた。
「まだ、少しだけど時間あるな。俺、レジ並んでおくから、五百城も何か見てき。一緒にレジ通しちゃおう」
「ありがとう」
俺はレジの列に並び、五百城はまた人混みに戻っていった。レジを待つ間、スマホを見ると紗奈からの新着メッセージが届いていることに気づいた。
〈伊織オススメのレトロ喫茶見つけた! オシャレだった。ありがとう〉
親父が好きだった喫茶店だった。釣りの後によく寄った。母も姉も釣りは嫌いだったから、いつもふたりだった。
〈せやろ。まだつぶれてへんかってんな〉
〈マスターが伊織のこと覚えてた。今度は来てやー、だって〉
少しだけ考えて、〈いつか一緒にいかなアカンな〉とだけ返信して、スマホを閉じた。
「親父にこっちの土産は要らんやろな」
独り言を言って、目の前にあるクッキーの箱をひとつ、かごに入れた。剣道部用だった。
前があと二人になった時、五百城が両手にいろいろ抱えて戻ってきた。
「はぁはぁ、間に合ったー。これもお願い」
「えっらい、買うたな」
「選んでる時間ないし、もう全部買っちゃえって」
五百城は、泣いた素振りもなく、元気そうだ。
レジ台の上は山盛りになり、クルーがひとりやってきて、商品を読み取るたびにキレイに袋詰めしてくれた。
「二万八千五百円になります」
旅行テンション、恐るべし。「ケチるな」と五万を持たせてくれた親父に感謝だった。
「一括で出すから、ホテル帰ってから精算やな」
ふたりで両手いっぱいにお土産袋を持ってバスに向かった。
すでに十七時を過ぎていた。
周りにはまだ高校生がいっぱいいた。焦る様子もなかった。
「俺ら、まだ早い方なんちゃうん?」
「そうかもね」
集合場所の近くまで戻ると、上川と松田が待っていた。上川はエルモを脱いで、萌え袖パーカーに戻っていた。
「美月ちゃん! 大西!」
上川がこっちに気づいて、大きく手を振った。
「バイオハザード、怖かった?」
五百城が、聞いた瞬間、上川の顔が崩れた。
「やばかった。ほんとやばかった。もうだめかと思った」
「死んだん?」
「余裕で。三回くらい」
「俺行ってたら、リアルで死んだかもな」
松田が入ってきた。
「日菜ちゃんさ、途中から俺の服つかんでたんだよ」
「だって、怖いじゃん」
「で、急に強く引っ張るからさ。俺、後ろから襲われたかと思って、普通に大声出た」
「そうそう。声大きすぎて、襲ってきたゾンビもびっくりしてたよね」
髪の毛をボサボサにしたふたりが顔を見合わせた。
「あ、ねぇ、最後に写真撮ろうよ」
上川がスマホを掲げた。四人が寄り添ってポーズを取った。
撮った写真を四人で覗き込む。朝撮った写真とは全く違う。
騒ぎ疲れたふたりと、泣いた後のひとり。そして、笑い慣れてない俺。
「これ、さいっこーの写真だね。紗奈ちゃんにも送ろ」
上川はそう言って、五人のグループLINEに送信した。すぐに返信が返ってきた。
〈うわ! たのしそう!〉
それから上川と紗奈でメッセージをやり取りしていた。
「松田と上川に、これやる」
俺は松田にペアのキーチェーンを渡した。
「え? なんで?」
松田は不思議そうな顔をしている。
「お前のためじゃない。上川のためや」
松田はスマホを打つ上川に、キーチェーンのひとつを渡した。
「え? なにこれ?」
上川は松田と同じ反応をした。
「これのお礼やで」
そう言って、俺はキャップを指さした。
上川はしばらく口を開けたまま固まっていた。
「……えー大西が? えー。めっちゃ嬉しいかも。ありがとー」
上川が俺に抱きつこうとした。反射的に身体がそれを避けた。
「なんで避けるの? これ、愛情表現」
「モブには刺激が強すぎる。勘違いするやろ」
「そだね。じゃ、代わりに――」
そう言って、五百城に抱きついていた。
「やっと全員揃ったか。よーし、急いでバスに乗れよー」
バスは三十分遅れでUSJを出発した。
俺と松田の前に、五百城と上川が座っている。ふたりで今日撮った写真を見ながら話している。時々、大きな笑い声が聞こえる。
「二学期始まった時、美月ちゃん、日菜ちゃんのこと怖がってなかったか?」
覚えてたか……
「でも結局、仲いいよな。タイプ、正反対だけど」
いや、あれは絶対ブラフじゃない。きっと五百城は、夏まで葛西と過ごしている。ただ俺らには、その記憶がない。
「……伊織、どした?」
「え……ああ。落ちかけとった。で、なんや?」
「いやさ、俺さ、今日一日で、上川の印象変わったわ」
「どゆこと?」
「いや、もっととっつきにくいかと思ってた」
「あ、確かにな。金髪ショートの時点でちょっと怖い」
「一日過ごして、めっちゃ話しやすかった」
「そかそか。そりゃ良かったな」
あの日、五百城は松田の告白を怖がった。
告白されると、ループする。そう考えれば、怖がったのも納得できる。
今、上川がいるおかげで、松田の告白は遠のいている。
上川はループを止めていることになる。
でも、五百城の中で上川が現れた時も、五百城は怖がった。
その隙間に、俺がいる。
やっぱり上川がヒントってことか。
考えているうちに、バスがホテルに到着した。先生がやたらと焦っている。
「夕飯は十八時半だからなー。荷物置いて、すぐ降りてこいよー」
降り際に先生が俺に言った。
「大西。おまえ、今日、はしゃいだのか?」
「当然っすよ。修学旅行は一度切りなんで」
「夜は、はしゃぐなよ」
「疲れて二秒で爆睡っす」
俺は大量のお土産を両手に抱えてバスを降りた。
目の前にあったのは、ホテルではなく小さめの旅館だった。




