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第六十二話 回る地球儀

翌朝、ホテルで目を覚ました時、他の二人はもう起きていた。時計を見ると、六時半。


「大西くん、USJ組だよね? 早くしないと朝ごはん食べれないよ?」


江口が言う。


「何時までやったっけ?」


ベッドから身体を起こしながら聞いた。


「六時四十分まで。七時にロビー集合だよ」


「なんでそんな早いねん」


「知らない。入り口で待つのかな?」


おお、他人事だと言わんばかりだ。


「あー、ほな、朝飯いらんわ。めんどくさい」


俺はあくびをしながら、顔を洗いに洗面所に向かった。


修学旅行二日目は、自由行動。夕方までに指定のホテルに戻ればいい。


バスは、USJ組となんば組。なんば組は八時に集合。


海遊館組は、ここから歩きで九時集合。


安達と江口は海遊館組。これから二時間何をするか謎だった。


洗面所で顔を洗い、昨日とは別の服に着替えた。


「ほな、行くわ。また夜な」


「いってらっしゃーい」


安達と江口が手を振る。うん、いいやつなんだろうな。


朝食会場に向かうと、もう部屋に戻る人たちとすれ違うだけで、会場内にはほとんど人がいなかった。


俺はサーバーからカップにコーヒーを注ぎ、一口飲んで蓋をした。それをそのまま持って、ロビーに向かった。


ロビーに行くと、引率の先生がすでに待っていたが、生徒は俺が最初だった。


「大西、おはよう。お前、USJがそんなに楽しみだったか?」


やたら爽やかな笑顔で言ってくる。


「おはようございます。や、ちゃいますよ。寝坊で飯食いそびれただけっす」


先生がガハハと笑う。


「お前らしいな」


「てか、なんでこんな早いんすか? オープンしてないんちゃいます?」


「お前らがいられるのは十七時までだからなぁ。八時半オープンの最初から遊びたいだろ」


生徒を思う気持ちはありがたいが、俺は眠い。


「大西、おはよー」


上川がやってきた。黒のショートパンツに、コンバース。やたら薄着だ。一応、上には大きめの白いパーカーを羽織っていた。袖が長くて、指先が半分隠れている。


「お、萌え袖や。上川、わかってんな」


「そう。かわいいでしょ。大西さ、もち、被り物するよね?」


「モブの俺に……はしゃげと……」


「そう。大西もはしゃげ」


言われるまでもなく、俺はもうかなり浮かれていた。


「おはよう。ふたり早いねー」


五百城だ。淡いピンクのニットに、ゆるいアイボリーのパンツを合わせていた。足元はニューバランス。


「美月ちゃん、かわいい! お人形さんみたい」


「そんなことないよ。日菜子ちゃんも、かわいい」


なぜ女子は、会った時に「かわいい」合戦をするのだろう? かわいくない時の会話を聞いてみたい。


続々と人が集まってきた。先生が腕時計を見だした。時間は六時五十五分。松田がまだ来ない。


「海斗くん、まだ、こない。寝坊? 置いてかれないかな?」


上川が落ち着かず、萌え袖をくるくるしだした。


「そん時は、電車で行こや。俺、大阪育ち。余裕やで」


「でも……」


「なんとかなるなる。たまには俺を頼りなさい」


なぜか五百城が、俺を見て微笑んだ。


松田が、走ってきた。少し太めのデニムに、履き慣れたスニーカー。黒いロゴ入りのタンクトップに、薄いカーキのシャツを羽織らず手に持ってきた。タンクトップから出ている肩の筋肉があざとい。


「間に合ったか?」


「全員ここにおるから、間に合っとるやろ」


「……はぁ、良かった」


「どしたん?」


「単純に寝坊。俺、難波組と同室で、あいつらの目覚ましで起きた」


上川がホッとした顔をしている。


「おまえは、起きたてでもイケメンなのが腹立つな」


「あ?」


「ただの寝ぐせが、無造作ヘアーや」


五百城がツボに入ったらしく、笑い出した。


「たしかに。これ寝ぐせだもんね」


腹を抱えて笑っている。正直、なにが面白いのか分かってない。


ピピピと先生の腕時計が鳴った。


「よーし。全員おるかー。来てないやついたら手を挙げろー」


来ていないなら、手も挙げられへんやろ。


もっと多いと思っていたけど、全部で五十人くらいだった。


バスに乗り込み、USJに向かう。バスの中は、阿鼻叫喚(あびきょうかん)だ。言い過ぎた。


とにかくうるさい。


「伊織、どこ行きたいとかあるか?」


「俺、全部行ったことあるから、任せるわ」


「えー、うらやましい。大西のくせに」


「日菜子ちゃんは、絶叫系好き?」


「超絶好きー」


「俺も好きー」


「モブとして言いたくないが、俺も好きや」


「じゃあさじゃあさ。最初にフライングダイナソーに走ろ!」


五百城のテンションが珍しく高い。もっとも、このバスの中でテンションを低く保つ方が難しい。


七時半にはUSJに着いてしまった。


バスを降りて整列する。


「八時二十分にまた、ここに集まってください。団体入り口から入ります。それまでは自由」


先生がそう言うと、また歓声が上がり、みんなが一斉に地球の形のモニュメントに走り出した。


「……あぁ、なるほど」


俺の独り言を五百城が拾った。


「なにが?」


「やたら朝早いと思ってたんだけど、写真を撮るためやってんな」


「あ、なるほど! じゃあ、私たちも行こう!」


五百城が上川の手を引いて、写真の列に並びにいった。


「ほな、いこかー」


「だな。お前も、アオハルしようや」


松田と並んで、五百城と上川を追いかけた。


ハロウィンシーズンとはいえ、今日は平日。人はまばら。


だけど、回る地球儀の周りだけは、高校生たちで夏フェスみたいに盛り上がっていた。


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