↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/81

第四十四話 あの頃と同じように

花火会場の入り口は、待ち合わせの人で混雑していた。色とりどりの浴衣が流れていく中で、紗奈はすぐに松田を見つけた。


「あ、海斗くん。おっきいから見つけやすいね!」


紗奈に手を引かれ、慣れない下駄でなんとかついていく。


「紗奈ちゃん、かわいい!」


若草色の浴衣を着た葛西が言った。


「ほんと、似合ってる」


薄い黄色の五百城も続く。


「俺は?」


茶系の甚平を着た松田が、なぜか自己主張した。浴衣じゃなくても似合うのに腹が立つ。


「いや、お前、かっこええな」


「伊織に褒められても、ゾッとせんな」


「褒めたのに損した」


横から、松田と同じくらい背の高い男が並んできた。


「あ、わたしの彼氏ね。草間桔平くん」


葛西が当たり前みたいに紹介した。


「あ、よろしく」


「よろしく。茉莉花からいつも聞いてます」


かっこいいじゃないか。


葛西は草間の腕にしっかり絡んでいた。葛西の顔は草間の胸あたりにある。


松田も草間も背が高い。浴衣の女子三人も普通に目立つ。


俺だけ一般人だ。


「なんでこそこそしてるの?」


後ろに下がった俺に、五百城が聞いてきた。


「いや、前が目立ちすぎんねん」


「そうかな?」


「せや。五百城らも含めてやな」


五百城は少しだけ首を傾げた。


自覚のない美人は罪だ。


俺は松田の後ろに隠れるようにして歩いた。


「あ、あの辺りで良くない?」


紗奈が指さした先に、六人なら座れそうな隙間があった。


「オケー」


松田がブルーシートを広げる。


「お前、用意ええな。海の時も」


「普通じゃん?」


さらっと言う。


こいつ、中身もかっこいい。


シートに座ると、女子三人はすぐに浴衣の話を始め、松田と草間はスポーツの話になった。


俺はスマホでゲームをしていた。だがそのうち、暇と雰囲気に耐えられなくなった。


「飯、なんか買ってくるわ」


「あ、じゃあ私も行く!」


紗奈が立つ。


「私も行きたい」


五百城も続いた。葛西は草間の腕から離れないまま、松田に目配せする。


「じゃあ、俺も行くわ」


松田が立った。さすがだ。


「わたし、桔平と場所取りしとく。テキトーにお願いしていい?」


「とりま俺、タコ焼き買うてくるわ」


「あ、私も!」


そう言う五百城と目が合った。


「や、三つくらい買(こ)うとくから。五百城たちは、他のん買うてきといてや」


俺はそれだけ言って、三人から走って離れた。


パッと見渡して、美味しそうな屋台を見つけ、行列に並んだ。


自分の番になったとき、ちょうどストックが無くなった。


「十分くらいかかるけどええか?」


「あれ、関西弁? 本場ですね。待ちます待ちます」


「にーちゃんも関西か。ちょい待ちや。美味いもん、食わしたるさかいな」


関西弁も場所場所で少し違う。このおじさんは、大阪の南の方の人らしい。


タコ焼きの返しを見てると、十分があっという間に過ぎた。


「にーちゃん、三個やな。おおきに」


三パックを袋に入れて手渡されて、みんなの場所に戻ろうとした。


来たときよりも遥かに人が増えて、もう道が見えなくなっていた。


「お、ちょっと……」


タコ焼きを守りながら歩いているうちに、人の流れにそのまま流され、自分の居場所が分からなくなった。


「ふーむ」


ひとつため息をして、人の流れから外れるように端に寄った。


「モブがモブである所以(ゆえん)だな」


タコ焼きのパックを開けて、一つを口に入れた。


「あっつ!」


口の中が火傷した。慌てて周りを見渡した。自動販売機があった。


そこで水を買って口に流し込んだ。


「さすが本場やな」


ひゅーと音がして、その方を向くと、光の筋が空にまっすぐ上がっていた。


ドン!バーン!


近くの木の葉が音で揺れた。


そこから、連続して花火が上がる。花火が咲くたびに、目の前の人込みが明るく照らされる。


「ま、帰りには会えるわいな」


〈すまん、まよった。放置よろしく〉とLINEを送信し、その場に座った。


俺は妙に落ち着いていた。ひとりであることに安心していたのかも知れない。


「いおり!」


後ろの方から聞き覚えのある声がした。


「見つけた! なにしてんの?」


「いや、迷ったし、探すんめんどいし、ここで花火見てた。タコ焼き食う?」


紗奈が笑みを浮かべながら、ため息を吐いた。


「……ここで落ち着いてられるのが、伊織だね」


「んー、焦る意味がわからへん。ほんで、食べるん?」


俺は串にタコ焼きを刺して、紗奈に見せた。


「食べる」


「ほな、どーぞ」


串を紗奈に手渡した。紗奈がタコ焼きを口に入れた。


「あつっい」


「せやろ、本場の熱さや」


そう言って、ペットボトルを手渡した。


「飲みかけイヤなら、新しいの買うで?」


「ううん、全然。ありがと」


紗奈は気にすることなく、水を飲んだ。


「なんでここわかったん?」


「なんとなく」


「勘? すごいな」


「ずっと一緒だったからね。美月にも中元さんにもそれは負けない」


紗奈を見た。紗奈は空の方を向いていた。


花火は間を空けずに上がっていた。


「きれいだねー」


そう言う紗奈を俺は見ていた。


「きれいやな」


視線を空に戻した。大きな柳の花火が、ちょうど空から落ちてきた。


「……せやんな、ずっと一緒やったもんな」


独り言が勝手に口から漏れた。


すぐに紗奈の視線を感じた。だけど、俺はそっちを向かなかった。


花火が終わると、人の流れは駅の方へ一気に動き出した。


松田から〈でかいふたりを見つけろ〉、葛西から〈人多すぎ。無理でしょ。現地解散で〉と続けて届いた。


「だって」


紗奈がスマホを見せてくる。


「しゃあないか」


俺たちはそのままふたりで、人波に押されて駅へ向かった。


「来年も見たいね」


「せやな、来年も来れたらええな」


それ以上、話すことはなかった。


紗奈はいつも、俺の左側を歩く。俺は右手で、残りのタコ焼きが入った袋を持った。


人に押されて何度か肩が触れあって、いつのまにか、紗奈は俺の左腕に絡まっていた。


人ごみを抜けても、それはあの頃と同じように、そのままだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。