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第三十九話 フラグはそっち?

カレーの調理が終わり、手についた玉ねぎの匂いが取れないまま、午後の稽古が始まった。


道場の外から、先生たちの声がする。


「ホットプレート足りますかね?」


「昔は火も使えたんですけどねぇ」


「時代ですよ時代。でも、あの子たちにも青春を作ってあげないと」


稽古が終わって、全員が列に並んで正座した。


そこに顧問が前にやってきた。


「今日は一日、よく頑張った。お前らの自主性が先生はとても嬉しい」


何か発言する人は、誰もいなかった。だって誰も頑張ってはないからな。


ほぼ全員が次の言葉を待っているだけだ。


「外にバーベキューの用意をしてある。肉と魚は、先生たちと保護者さんたちからの差し入れだ。残すなよ」


「わー」と「きゃー」が一斉に湧いた。


その中でも五百城は、俺の方を見て笑っている。俺は見て見ぬふりをした。


「では、全員、早く着替えて、道場前に集合!」


「「「はい!」」」


部室では、男子部員が張り切っている。一体、何を張り切るのだろう。


なによりも、今俺は、まずい状況の中にいる。


そろそろ五百城が何かする。いや、五百城の周りで何かが起きる――気がする。


だけど、何が起きるか読めない。


読めないまま、着替えを終えた。仕方なく、人が集まる道場前に出た。


「剣道部の新人戦優勝を願って、かんぱーい」


清水の声で、夜の晩餐が始まった。


十八時過ぎ。外はまだ明るい。


各人が、おのおのに食べたいものに走っていった。


離れて見てたら、中元か五百城が「はい」とか言って、カレーを持ってくる。


それを避けるため、俺もみんなと一緒に食べ物を漁りに行くことにした。


紙皿に大量の肉。


もう一つの皿に自作のカレーを持って、さっさと脇に逃げ込む。


中元と五百城は、まだ輪の中だ。


完璧だ。


これでフラグが立つことはない。


俺はコンクリートの床に胡坐(あぐら)をかいて、肉をほうばった。


美味い。先生、奮発したな、これ。


ここぞとばかりに、男子部員が女子に近づいている。


五百城の周りに集まる男子が多い。


五百城も笑顔で輪の中で話している。


中元は……相変わらずうるさい。


一年女子二人がいる輪に喜色満面(きしょくまんめん)の清水が入っていった。


見ているだけで、おもしろい。


俺はバーベキュータイムを堪能していた。


焼き鳥を口に入れた時、誰かが勝手に横に座った気配がした。


「ん?」


そちらを向いた。五百城だった。


「なんや?」


トイレと言って逃げるべきか。少しだけ腰を浮かせた。


「楽しいね」


屈託のない笑顔だ。


「……楽しいな」


そう言って、やっぱり腰を下ろした。


「清水くんがね、肝試しのペア作るから、呼んで来いって」


「あ、そゆこと。ほな、いくわ」


参加を断れない以上、お決まりパターンだ。


五百城とペアになる。


本来なら、これは王道のイベントだ。怖がる女子を男子が庇う。男らしさに惚れる。


だが、俺は肝試しが苦手だ。純粋に怖がりだ。呆れられる自信がある。


俺は意気揚々とみんなの方に歩いて行った。


怖いのは嫌だけど。


先生が十五本の紐をまとめて持った。


俺たちは、その両端をひとつずつ掴まされる。


「いっせーのーで」


清水の掛け声で、先生の手が開く。


落胆と歓喜の声が入り混じる。


どうせ俺は五百城とペアなんだろ?


紐の先を見た。


「あ、伊織先輩だー!やったー!」


ああ? なんだと?


五百城は二年の女子とペアになって、手を組んでぴょんぴょんしていた。


そっち? そっちか。


だが、動じることはない。


妹キャラにとって、頼れないお兄さんキャラは要らない。同じ結果が見えている。


「よーし。決まったな。おまえら覚悟しとけよー。大人の意地でお前らこわがらせるからな」


顧問が少年の顔をしている。先生は走って校舎に向かった。


清水がみんなにルール説明をした。


「えーと、昇降口から校舎に入って、一階を西に向かってください。そこから階段を上って屋上に。屋上にあるクーラーボックスからアイスキャンディーを取って、食べながら帰ってきてください」


ひとりの一年男子部員が手を挙げた。


「男女ペアと同性ペアがあるのって、不公平じゃないですか? クジのやり直しを要求します」


いいぞ。俺は男同士の方がいい。


「男女比が一対一じゃないからな。どうせ男同士ペアができる。これも運だ」


「えー」


明らかに不満そうだ。仕方ない。助け舟を出してやろう。


「あ、それなら変わったろか? 俺、別に男同士でええし」


中元の頬が少し膨らんだ。


一年男子の目が輝いた。


「ダメだ」


清水が一蹴した。


「結局、お前らふたりのどちらかが、大西とペアになるんだ。それこそ不公平だろう」


清水の横には、一年女子が立っていた。丸見えの魂胆に吹き出しそうになった。


てか、お前と中元、ぜったいグルやろ。


「ほなさ、せめて三人組にしたら? それなら男女で固まらんやろ」


俺の提案に、清水は少し嫌そうな顔をした。


「……そうだな。クジはもうめんどくさいから、男子同士のペアはじゃんけんして好きなところ入れ」


太い歓声と共にじゃんけん大会が始まった。


当然人気なのは、五百城ペアのところだった。


俺・中元ペアのところには、中元狙いの一年生が戦っていた。


これで二人ペアは避けられる。


そして、中元はこの一年坊に「きゃー」とくっつく。


うむ。策士、俺。


「えー、ふたりきりの方が雰囲気でるのにー」


中元がふてくされている。


「せやけど、みんなで楽しい方がええんちゃうのん」


「それもそうですね」


あっさり中元が笑顔になった。こいつ、基本、素直なんだよな。


夜が深くなり、常夜灯の光が効きだした。


「はじめるよー。前の三人が出たら、五分後に次の三人出発なー」


最初の三人が校舎に向かって歩き出した。


みんな黙って、彼らの行き先を目で追った。


昇降口に入った。


「「キャー」」


「うわぁぁぁ」


早速叫び声が聞こえた。


警察が勘違いしてやってこないことを祈った。


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