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第二十一話 雨の日の世代交代

「美月ー、茉莉花ー、ごはん食べよー」


今週も始まったランチタイム。


俺と五百城の机を四人が囲う。俺は紗奈の少し斜め後ろ。わりと居心地が良くなってきた定位置だ。


足の裏は痛いし、全身筋肉痛だ。


「伊織、今日は購買いかないの?」


「醤油餅パンとお好み焼きパンがあんねん。朝、買うてきた」


「え? なんで?」


「理由いるか? そんなん気分や」


「ま、なんでもいいや」


それなら、聞くな。


紗奈が椅子ごと少し左にずれて、隙間を空けた。


「じゃあ、ここ入りなよ」


「え?」


「なにしてんの? はやく!」


紗奈が俺の手を引く。俺は慌てて椅子を持って、そこに入った。五百城と松田がこちらを向いた。


「ねぇ」


葛西が口を開いた。嫌な予感しかしない。


「大西くんと紗奈ちゃん、なにかあった?」


「え? なにも?」


紗奈がポカンとしながら答えた。俺もポカンとなった。


「紗奈ちゃん、昨日、大西くんの応援したんだよね」


五百城が言った。


「あ、そかそか。それでどうだったの?」


「決勝トーナメントで負けちゃった。でも、大西くん、大活躍だったんだよ」


「えー、大西くんが?」


「そう。相手の人、強くて有名な人だったんだけど。最後なんて、ちょっと泣きそうだった」


ん? そうだったん?


「でも、負けたんだろ?」


松田が入ってきた。なんか言い方に(とげ)あるな。


紗奈があからさまにムッとして、松田に言った。


「そんな言い方なくない?」


松田が少し肩を落とした。


「あ、伊織、すまん」


こいつは素直でいいやつだ。


「いや、かまへんよ。負けたんは事実や」


俺は、お好み焼きパンをほうばった。口の中に懐かしい味が広がった。


葛西のニヤつきが増している。


「紗奈ちゃんと大西くんって、なんやかんやで、仲いいよね?」


ふむ。確かにな。


「んー、せやな。昔は、だいたい一緒におったしな」


場の空気が(しら)けた。


あれ? 変なこと言った?


「で、茉莉花の彼氏はどうだったの?」


紗奈、フォローありがとう。


「あー、うちも負けた」


松田の目が輝いた。俺は見逃さない。


「それなら、今週みんなでサッカー部の応援来てよ。次、準決勝」


うむ。


みんな断って、五百城だけが行く流れだ。


「あ、ごめん。わたし、彼氏とデート」


ほらな。


葛西が誰よりも先に断った。


「んー、茉莉花いかないなら、わたしもやめとこ。伊織はどうせ行かないよね?」


予定調和は嫌いだが、流れに乗っておこう。


「俺もサッカーに興味あらへん」


もぐもぐ。サッカーより、醤油餅。


松田が五百城を見た。


ここまでは完璧な流れだ。


他人のラブコメは見ていて楽しい。


俺も葛西と同類か。


「んー、みんな行かないなら、私もやめとく」


え? 断るん? 予定調和はずれたやん?


「えー、なんでー」


「だって、応援席でポツンってさみしいもん」


「あ、それもそうか。じゃあ、決勝戦こそみんなで来てよ。準決は勝っとくから」


折れない心にリスペクト。


バカなのか、芯から良いやつなのか。


「あ、伊織は要らん」


撤回する。


醤油餅パンの海苔の香りを楽しみながら、俺は考えていた。


きっと、この拒絶には意味がある。


五百城が流れから外れると、それをきっかけに何かが変わるようだ。


後から、その答え合わせをしているように見える。


五百城には何か目的がある。


周りにいる人間は、それに巻き込まれている。そして、その中に俺もいる。


つまり、これから何かが起こる……はず。


最後の一口を飲み込んだ。


窓の外では、ポツポツと雨が降り出していた。


雨脚が強くなってきて、今日の部活では、校庭を走ることなく、剣道場に入った。


三年生が抜けて、部員の列が二つ減った。男子十人。女子七人、うち三人が初心者。


五百城のスタメン入りがほぼ決定した。


「あー、昨日はお疲れさまだった。よく頑張ったと思う」


顧問が言った。


頑張ったのは残ってる部員ではなく、三年生だと思う。


「とくに大西は、最後まで戦ってくれた」


誰一人音を立てない。雨が屋根を打つ音と、時々、木が軋む音だけが聞こえた。


「普段の態度からは、まったく期待してなかった。素晴らしい。はい、拍手~」


全員が俺の方を向き、笑い声と共に拍手をくれた。五百城が、小さく細かい拍手をしている。


「で、だ。次のキャプテンを指名する」


また一瞬で、静寂が戻った。


「男子は……」


えーと、スポコンなら、ここで俺は唾を飲む。


だから俺は、あくびをする。


「清水」


「はい!」


ほらな。


「女子は、五百城!」


ええええ? ありえなくね?


五百城も目が真ん丸になってるぞ。


「来たばっかりの五百城には申し訳ないが……」


顧問が腕を組んで目を閉じた。


思い切り思わせぶりだ。


「……五百城以外、全員高校から始めた組なんだ」


そういうことか。


女子の経験者が、五百城しかいない。


「……でも」


五百城が下を向いている。


「先輩! やってください!」


中元! フラグを立てる天才か?!


「え……いや……」


五百城は下を向いたまま、細かく瞬きしている。この展開は、五百城も予想してなかったってことか。


顧問が口を開いた。


「まぁ、そうなるだろな。考えておいてくれ。よし、稽古に入れ。清水、掛け声だ」


「正面に礼!」


清水が声を張った。一瞬だけ雨の音に、清水の声が勝った。


嫌な予感がした。


その日俺は、あえて残り稽古をして、誰にも会わないように、一人で家に帰った。


家で、スマホゲーをしていると、LINEの新着通知が鳴った。


五百城からだった。


〈明日、朝、時間ある?〉


背筋が凍った。幽霊とかホラーとか、それ系ではない。


〈ええよ。三十分早めにいくわ〉


〈ありがとう。屋上に上がる階段で〉


教室を避けた。


〈オッケー〉


それだけ送ってスマホを伏せた。今日はこれ以上、見たくなかったから。


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