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第十六話 戻ってきた主役

週明けの朝、教室に入ると、少しうるさかった。理由は、窓際にあった。


「まじ感動した」


「まさか勝つと思ってなかった」


「サッカー部、インターハイ出れるんじゃん?」


インターハイ予選か。


モブには関係ないイベントやな。


俺は自分の席に座った。五百城はまだ来てない。


「――でも、やっぱ松田だよな?」


ん?


俺は窓際の方に耳だけ向けた。


「相手、強豪だろ、あれ」


「そう」


松田の声だ。なんだか、元気だ。いつもより声がでかい。


「残り十分で、二本入れるとか、ドラマかと思ったわ」


「一点目は押し込んだだけ。二点目は、まぁ、狙ってた」


松田のドヤ顔が、いつもよりドヤっている。


「あれって、交代直後だろ?」


そういえば、五百城を追いかけて、スタメンを外されていたはず。


「や、ほら、俺、主人公やから」


「うわ、自分で言うやつ」


……主人公。まさに。


一八〇超えの身長。彫りの深いジャニーズ顔。


花形のサッカー部。


スタメン外されても、サブ投入からの逆転劇。


多分、今年は決勝で負けて、来年にリベンジするんやろな。


俺は耳を元に戻した。


「あ、松田くん、おはよー」


声の方を向いた。葛西だった。その隣に五百城。


「おはよう、海斗くん」


松田が取り巻きの中から出て、五百城のもとに走って行った。


「昨日見に来てくれた?」


お前のその図々しさは、もはや清々しい。


「え? 行ってない……」


ええで、五百城。


「えー? 俺すごかったのに。まーいーや。次は来てよ。多分、スタメン戻れるし」


「うん。でも、私たちも今週から予選だから」


五百城が俺を見た。


剣道も今週末からだ。忘れていた。


「うわー、そうかー」


五百城が席に座りながら、俺に振ってきた。


「がんばろうね、大西くん」


「二年のモブには関係あらへんけどな」


我ながら斜に構えた言い方だ。


「なんかさー、松田くんと五百城さんて、まさにって感じだよね」


葛西が話を松田に引き戻した。


「なにが、『まさに』?」


松田が聞いた。


「いやさぁ、美男美女カップルだなぁって」


松田の顔にあからさまな花が咲いた。五百城は少し困ったような表情をした。してほしい。


うん。してるな。


「そうでしょ。でも、今はまずインターハイ。告白はそれから!」


ほう、告白すんのか。ていうか、今、本人の前で言うん?


「……ちょっと海斗くん。やめて」


五百城の顔が曇った。さすがに葛西の顔も曇った。


「松田くんって、なんかすごいよね……なんで言えちゃうの?」


松田は少し考えた。


「……なんで……か。なんでだろ?」


分からへんのか? 猿かお前は?


「だって、口に出せば、実現できるような気がしない?」


松田は笑顔を葛西に向けた。


爽やかや。俺にも感じる爽やかさや。


皮肉れない。こいつこそ、イケメンや。


「煽っといてなんだけど、あんまり急だと五百城さんも困るよ?」


葛西、お前……初めてまともな言葉を……。


「……あ、そか。美月ちゃん困ってる?」


聞くんか? 直に聞くんか?


すげぇな、おい。


「うん。少し……」


五百城が少し笑いながら、下を向いた。


「わかった。もうしない。ごめんな」


松田は二秒で謝った。


イケメンなのかアホなのか微妙だが、教室の雰囲気全部、こいつが持っていった気がする。


その後も、無事にモブ化した俺は、平穏に放課後を迎え、中元と校庭を走った。


とは言え、中元は並走してくれない。こいつはいつも本気だ。


道場に入ると、顧問がすでに座っていた。全員集合していた。


入口で中元と顔を見合わせた。


はて? なんかあったっけ?


「大西! 中元! 今日スタメン発表だって言ってただろ!」


言ってた。知ってる。でも、俺、モブ。


「え? それって選手組の話じゃないんですか? 僕、病み上がりだし」


顧問が大きなため息をついた。


「……お前なぁ。そのふざけた性格は治らんのか? それに病み上がりじゃなくて、治り際だろ」


「ゲームマスターに能力値を書き換えてもらえれば……」


顧問は、もう一度、大きなため息をついた。


「……やっぱりやめようか」


「なにがですか?」


顧問が目を見開いた。だが、俺から視線を外して、身体ごと横を向いた。


「……大西。来週、先鋒で出ろ」


「は?」


「お前もう防具付けれるだろ?」


「今日からそのつもりでしたが」


「試合出ろ。一度くらい、本気だせ」


俺の方を向くことなく、そのまま教官室へと戻っていった。


並んで正座する六十個くらいの目が全部、俺を向いていた。


五百城が音を立てず、小さな拍手をしていた。


視界の左下から、中元の握った右手が見えた。


振り向くと妹顔が、笑顔でグータッチを求めていた。


俺は中元と目を合わせず、グータッチした。


いや、正しくは、目が合わなかった。焦点を合わせられなかった。


状況が全く飲み込めない。


スタメンになるような兆しはなかったはず。


部活が終わり、部室から出ると五百城が待っていた。


「スタメン選出、おめでとう」


笑顔で言ってきた。素直にうれしかったが、同時に、背中が冷たくなった。


「……五百城、なんかしたん?」


考えるより先に口から出た。


「え? できるわけないでしょ。大西くんの実力でしょ」


「んなわけない。こないだの部内戦でも七番目。五人に入ってへん」


「本気出してないだけって、バレたんじゃない?」


辻褄(つじつま)は合うな」


五百城が少し黙った。


「……そうね……なんでだろね」


「え?」


「ごめんね、私もわかんないや」


五百城はそう言って少し笑って、俺を置いて帰っていった。


ん、置いてかれた?


「……ま、ええか」


夕日で伸びる自分の影を踏み続けながら、いつもと逆の道を通って、駅に向かった。


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