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衝突

「やることは簡単。君たち二十人と私一人で戦おう。但し、使うのは魔法だけ」


つい先日も聞いた覚えがあるような文言にクラス中から「またか......」というため息混じりの雰囲気が漂う。


しかしそれも無理はない。生徒たちにとってエドガーに手も足も出せずにボコボコにされたのは記憶に新しい。億劫になって当然だろう。


そんな空気に満たされていた空間は、意外な人物がぶち壊した。


「ルールは?」


それは後方の方から発せられた声だった。アルディオ含め、全員そちらに視線を向ける。その視線の先には、レイブン・ミラー。


ただ一言。だがそれだけでレイブンは本当に勝つつもりなのだとその場にいた誰もが理解した。


「簡単だ。私に傷一つ付けられれば君たちの勝ちだ」


「なら、早速やりましょう」


レイブンはそう言うやいなや、椅子から立ち上がり杖を構える。その杖の先端に赤い魔力が集まり、空気が熱を帯びた。周囲の生徒も思わず息を飲む。


「おいおい!いきなりかよ!」


「つか、なんつー威力だよ......!」


あまりのテンポの速さに生徒達は状況を飲み込めきれていない中、ウィルトは表情すら変えていなかった。


「ははっ、結構。来なさい」


そして、集められた魔力が爆発する。


「ファイアアロー」


それは先日アルディオが見たものと変わらぬ威力のものだった。しかし、その矛先は明確にウィルトのみに定まっていた。


しかし、ウィルトは動かない。



ドゴオオオオオオオオン!!!!



その爆発音は生徒たち、そしてレイブン自身にとってもやった手応えを感じさせるには十分だった。


「やった......のか......?」


「いや......」


アルディオだけは気づいていた。ファイアアローとウィルトがぶつかる時、足元に魔法陣が浮かんだことに。


やがて煙が晴れる。そこには、皆が期待していたものとは真逆の展開が残っていた。


「いい威力だ。......が、真っ直ぐすぎるね。そんなものかな?」


ウィルトはあれほどの魔法を喰らってもなおダメージを負っていなかった。いや、喰らってすらいなかったのだ。


(あいつのファイアアローを食らう直前......あの人もファイアローを放ったのか......!?)


「軽く説明してあげよう。君が放ったファイアローに合わせて私もファイアアローを放った。相殺しきれるように威力を調整して、ね」


誰もがあれほどの威力を完全に受け止められた現実を理解しきれていない中、二人の生徒は違った。


一人、レイブン・ミラー。


入学試験一位で入った実力者。そのプライドがただの一撃で揺さぶられた。レイブンの眉が僅かに動く。


初めてだった。


自分の魔法を正面から否定されたのは。


だがそれは、レイブンの闘争心を更に燃やした。


そして


(俺には今何が起きたかなんて理解できない......!でも......!やるしかねぇだろ......!)


アルディオ・オーウェンだった。


「ウィンドランス!」


生徒全員が固まっている中、アルディオは自身の属性、風の魔法をウィルトに向けて放つ。


「良い......!それでこそレイドバトル、それでこそ魔法使いだ!だが!」


ウィルトもまた杖を構え、先端に魔力を集める。それは属性を帯びないただの魔力。


やがて、ウィンドランスとそれがぶつかり、威力が相殺された。


「少し威力が足りない!だがそれは効果がないわけではない!戦士のように前線で戦えないのならば自分の持っている術を如何にして当てるかを考えろ!思考を止めるな!」


その一連の展開はウィルトの壁の高さを実感させるには十分だった。しかしそれと同時に、生徒たちの魔法使いとしての矜恃を呼び起こすのにも十分だった。


「うおおおおおお!!!ランド!!」


「ウォーターボール!!」


教室のそこかしこから様々な属性が飛び交う。


地が隆起し、風が吹き荒れ、水飛沫が舞い、炎が弾ける。二十人による猛攻、並の魔物なら十分に吹き飛ばせる威力だった。


しかしその攻撃のどれもがウィルトにダメージを与えるには足らない事に、アルディオは気づいていた。


(だめだ、これでも足りない......!なら、どうすれば......!?)


魔法は確かに命中している。 しかし、効いていない。 ウィルトは悠然と立ち続けていた。


(違う……)


アルディオは目を細める。


(受けてるんじゃない)


炎が当たる。


その瞬間。


ウィルトの肩が僅かに動いた。


風が当たる。


今度は腰。


水が当たる。


今度は足。


(捌いてる……!)


その時だった。


アルディオの視界にセリスが映る。


杖を握り、水弾を放ち続けている。


(水……?)


アルディオの頭に閃光が駆け巡る。


「セリス!!」


「えっ!?」


「水魔法だ!!」


「やってるけど!?」


「先生じゃない!!服だ!!」


「......は?」


「服を濡らせ!!」


セリスは一瞬ぽかんとする。


だがアルディオの表情を見てすぐに頷いた。


「分かった!!」


「ウォーターショット!!」


水弾がローブへ着弾する。


バシャッ!!


バシャッ!!


バシャッ!!


「ほう?」


初めてだった。


ウィルトの眉が動く。


(反応した......!?)


アルディオは拳を握る。


「もっとだ!!」


「任せて!!」


ローブが濡れる。


裾が地面に張り付き始める。


ウィルトの動きが僅かに変わったように見えた。


「なるほど」


ウィルトが笑った。


「発想は悪くない」


その瞬間。


「セリス!!顔だ!!」


「えっ!?」


「顔の横!!」


セリスが反射的に杖を振る。


バシャァァァッ!!


大量の水飛沫。


視界が白く染まる。


「今だ!!」


アルディオが杖を突き出した。


「ウィンドランス!!」


(行け......!当たれ......!)


しかし


「ファイアアロー」


横から赤い閃光。


「なっ!?」


ドォォォォォン!!!


風と炎が激突する。


アルディオのウィンドランス。


レイブンのファイアアロー。


互いの魔法が弾け飛ぶ。


そして


絶好の隙も消えた。


「お前......!なんで今打ったんだ!!」


レイブンに向けてそう叫ぶが、レイブンはアルディオに見向きすらしなかった。


「隙が生まれたから放った。それの何が悪い」


「連携したら当たったかもしれないだろ!」


「連携など必要ない」


「お前......!」


「そこまでだ」


アルディオの声を遮り、ウィルトは手をパンッと叩いた。


「君たち全員の課題はよく分かった。以上でレイドバトルは終わりとする」

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