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個性という武器

レイブンと衝突した翌日、アルディオは苛立ちを隠せないでいた。


(自分の方が強いからってあそこまで言う必要あるか......?)


考えれば考えるほど納得のいかない部分が浮かんでくるのは万国共通なのかもしれない。


アルディオもその例に漏れずブツブツと頭の中で愚痴を吐いていると、一人の生徒と遭遇する。


「君は......昨日のアルディオか」


「......あっ、アレス。昨日振りだな」


アレスの体躯はアルディオよりも一回り大きい。必然的にアルディオを見下ろす形になる。


「そうだな。なにか考え事か?浮かない顔をしている」


「おぉ......そんなことも分かるのか」


「目線が下にいっていたからな。何の悩みもない者は前を向く。」


「......すごいな」


アレスはただ大きい男なのではなく、見た目以上によく周りを見ているのかもしれない。


「何を悩んでいる?と聞くような無粋な真似はしない。だが、一つだけアドバイスをするとすれば、空に向けて叫ぶといい」


「......随分と原始的な方法だな」


「俺にはそれしか言えない。が、そんな原始的な方法でも実行した場合としない場合では心の持ちようは雲泥の差だ」


「やったこと、あるのか?」


「無論だ。俺にも悩みの一つや二つできる。が、それは己に対する試練だ。乗り越えることができた時、晴れやかな気分になれるぞ」


アレスの目は力強くアルディオを射抜いていた。悩みを何度も乗り越えてきたという何よりの証拠なのだろう。


「......わかった。でも今はアレスの話を聞いて不思議と落ち着いた。また今度それは実践してみるとするよ」


「そうか。それなら何よりだ。そろそろ講義も始まる。俺は先に行っているぞ」


そう言うとアレスは戦士クラスの方へと向かっていった。その背中は昨日程の絶望的な大きさは感じなかった。


いや、違う。


昨日よりもアルディオは少しだけ前を向けているのだろう。






アルディオは魔法クラスのドアを開け、昨日と同じ席に着く。隣には同じようにセリスが座っていた。


「ねぇ!昨日どうだったの?喧嘩してない?」


「いやまぁ......喧嘩はしてないけど......」


「けど!? けどなに!?」


セリスがすごい剣幕でアルディオに詰めていく。嘘やごまかしはとても通用しなさそうだ。


「いやっ......その......」


「お前たち、席に着け」


アルディオが必死に言い訳を考えている中、担任のウィルトが教室に入ってきた。一先ず目先の命は救われたアルディオであった。


ウィルトの一言で浮き足立っていた生徒たちも昨日と同じように引き締まる。唯一、セレスのみ「覚えてなさいよ」という視線をアルディオに送っていた。


「さて、本日から授業が開始だが......君たちは魔法クラスだ。そんな君たちに一つ、質問をしよう。魔法とは、何かな?」


あまりにも根源的、そして哲学的な質問に生徒たちの思考は一瞬停止する。


「では、そこの君」


「ええっと......風とか火とかそういう属性を......」


「違う。君」


「後方から前線を助けるため......」


「違う」


ことごとくそれらしき答えは否定されていく。そんな中アルディオは必死に頭を巡らせていた。


(属性のことでもなければ補助するためのものでも無い......なら......もっと根源的なこと......まさか......)


自然と、アルディオは手を挙げていた。


「君」


「個性、ですか?」


「うむ。短い時間でよくそこまで辿り着けたな。その通り」


ウィルトに認められたことでアルディオはそっと胸を撫で下ろした。


「今彼が言ってくれた通り、魔法とは個性だ。戦士や僧侶はある程度型が決まっているし、考え方も同じだ。一方魔法使いは根本的に使える属性は例外を除いて一人一属性であり、その属性が同じでも考え方が攻撃的か保守的かで戦い方が全く変わってくる」


ウィルトの至極論理的な説明にある者は頷き続け、ある者はノートにペンを走らせていた。


「火属性を持っているが補助が得意?それも個性。複数属性を持っている?それも個性。水属性だけど風属性の戦い方に憧れる。それも個性だ。そして魔法使いというのは、その個性をアイデンティティ、武器に昇華させた者が賢者へと進化することができる」


世界を代表する大賢者による、賢者の定義。それは魔法クラスに入った生徒たち誰もが欲していたある種の答えだった。


「それから、この学園に入学した以上先に伝えなくてはならないことがある。戦士、僧侶、魔法問わず学園の学習についていけなくなった者は後方支援に回ってもらうことになる」


それもまた爆弾発言だった。


戦士、僧侶、魔法使いを問わず、学園についていけなくなれば後方支援へ回される。


それは実質的な戦闘員としての引退を意味していた。


生徒たちは困惑、動揺、様々な要因で再びざわめく。が、ウィルトはそれを見てニコリと微笑む。


「無論、そうならない為に私がいる。そこで、今から君たちの個性を育てる授業をしよう」


そう言うとウィルトはクラスを見渡した。


「君たちと私による、レイドバトルを行う」


教室がさっきとうって変わって静まり返る。


「安心しろ。エドガーより理不尽じゃない」


その一言に表情を和らげた者はただの一人もいなかった。

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