第2話 家族のサバイバルグルメ生活
最初はパニックだった。
目の前に広がるのは、見慣れた街並みではなく、巨大な樹木がうっそうと茂る未知の森。
聞こえるのは車の音ではなく、奇妙な鳥の鳴き声と、どこからか響く唸り声。
しかし、田中家はたくましい。
混乱は一瞬で、それぞれの「専門スキル」が発動するスイッチとなった。
父・旬太は、森のキノコや野草を見るなり、「これは……ソテーに使える。あれはスープの香り付けに」と、コック魂に火がついた。
見たこともない紫色のキノコを手に取り、匂いを嗅いで「ん〜、これはマッシュルームとトリュフの中間のような香り。バター炒めにすれば絶品だ」と独り言。すでに異世界の食材に対する好奇心が恐怖を上回っていた。
母・凛花は、混乱する家族を前に、「現状確認から始めましょう。まずは食料、次に水、そして安全な寝場所。優先順位は?」と、プロジェクトマネージャーとしての本性が炸裂。
地面に枝で図を描きながら、「ここを拠点に、半径500メートル以内の資源を調査しましょう。迅さん、偵察をお願いします」と、つい会社の定例会議口調が出てしまう。
長男・迅は、「とりあえず、あの高い木の上から周囲を見渡してみるよ。配達で培った方向感覚なら任せて」と、軽快に木に登り始めた。
「おっ、東の方に煙が見える。たぶん村だな。距離は……配達の感覚でいうと、車で15分くらいかな。徒歩なら2時間か」と、職業病全開で報告する。
長女・茜は、スマホの代わりに落ちていた奇妙な巻物を拾い上げ、「これ……もしかして『魔法のレシピ』?『火球のフランベ』って……お父さんの仕事じゃん!」と興奮気味に叫ぶ。
巻物を開くと、そこには炎を操る魔法の呪文と、「食材に一瞬で火を通し、表面を香ばしく焼き上げる術」と書いてあった。
「これ、バーナー代わりに使えるかも!」
こうして、異世界でのサバイバル生活が始まった。
最初の夜、旬太が森の材料だけで作った「謎のキノコのバターソテー」と「野草のスープ」は、不安でいっぱいだった家族の心を、不思議とほっこりと温かくした。




