表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蹴鞠と糸のフィールド  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/36

第35話『風よ、天を翔けよ』

空は、晴れていた。


スペイン・バルセロナの中立地で行われるチャンピオンズリーグ決勝。リヨン・ルミエールと、スペイン技巧派クラブ「CFメリアーダ」の一戦。白と青の光が入り混じるスタジアムに、世界中の視線が注がれていた。


「さあ、いと。今日はお前が、リヨンの10番だ」


クロエがベンチから声をかける。だが、いとはただ一言だけ返す。


「いいえ。今日は――“風”の吹く日でござる」


試合開始。CFメリアーダは序盤から足元の技術でリズムを掌握してきた。


軽やかなワンタッチ、密集を抜けるトライアングル。まるで小節の連なりのようにボールは回り、リヨンはその流れに翻弄された。


いとが「静」の指示を出しても、相手はその一瞬の間さえ見逃さない。


「――来る!」


中央を破られた。カットイン。シュートモーション。


……が、そこにいたのは、ゾエだった。


「絶対、通さない」


その体はまるで壁。相手FWのシュートを全身で受け止めた彼女は、何も言わず立ち上がり、味方に手で「前へ」と合図する。


いとはそれを見て、拳を握った。


(風だけでは、まだ届かぬ。されど――)



後半開始。いとが振り返ると、そこにクロエが立っていた。ユニフォームの10番が、風に揺れる。


「参ろうか」


二人は並んでピッチへ。


静かだった。言葉はない。ただ、“息遣い”だけで通じていた。


パス、ステイ、タメ、そしてリズムのずらし。音ではない。視線でもない。“間”で通じ合う司令塔ふたり。


ピッチの空気が、変わった。


「何だ、いまのは……?」

「動きが読めない……」


観客席からも、ざわめきが起こる。CFメリアーダの選手たちが次第に動きを狂わせられ、リヨンが支配を始めていく。


いとはクロエに目をやる。クロエは、かすかに笑っていた。


(“風”は、ただ吹くだけではない。吹かせるもの、そして響き合うもの……)


そして、試合は残り5分。


クロエが中央でボールを持ち、時間を止めるように“タメ”を作った。


敵の最終ラインが一歩、二歩、釣られて前に出る。


「今ぞ!」


いとは空いた背後へと、風のように駆け抜ける。


クロエは何も言わず、ただひとつの“間”にすべてを託してパスを放った。


いとはそれを追い、右足の甲で受け、トラップ、そして左足で振り抜いた。


──沈黙。


その次の瞬間、ネットが揺れた。


ゴール。


いとが、決めた。


スタジアムが爆発するような歓声に包まれる中、彼女は膝をつき、空を見上げた。


「……風は、想いを運ぶもの」


クロエが、笑っていた。ゾエが、拳を掲げていた。エミリーが、飛びついてきた。


リヨン・ルミエール、チャンピオンズリーグ初優勝。


そしてこの日、ヨーロッパの空に新たな伝説が生まれた。


“東洋の風”が、ついに頂に届いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ