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蹴鞠と糸のフィールド  作者: やしゅまる


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エピローグ『風は、次の空へ』

あの日から、季節がひとつ巡った。


花村いとは、いつものように芝の上にいた。練習場では、次代のリヨン・ルミエールの選手たちが笑い声を上げながらパスを回している。


クロエ・モンフォールは、もうここにはいない。


──引退。それは、静かで、確かで、美しい幕引きだった。


「私は十分に走った。あとは風に任せる」


そう言って、クロエは誰よりも晴れやかな笑顔でピッチを去った。


その背を見送ったとき、いとは初めて“風”という言葉の重みを知った。



「いと、次の舞台は決まった?」


スタッフに声をかけられて、いとはうなずいた。


「ええ。パリ、でござる」


パリ五輪。サッカー女子日本代表。その10番を、いとは託されていた。


「風は、ひとりでは吹かぬ。わらわが学んだことは、すべて“共鳴”の中にあった」


ゾエは、静かに隣でうなずいた。今やキャプテンマークを巻く彼女の瞳は、あの決勝の日よりも強い光を宿している。


エミリーは笑いながらボールを蹴り、いとの元に寄ってくる。


「今度こそ、あんたと“本気のライバル”やらせてよ。五輪でね」


「受けて立とうぞ」


ふたりは笑い合う。その風は、もう“伝説”ではなく、“日常”のなかにある。



夕暮れのピッチ。誰もいなくなったあと、いとはひとり、ボールを足元に置いた。


そして、ぽつりと呟く。


「クロエ。あなたが吹かせた風は、今も、ここにございます」


風が、そっと彼女の頬を撫でた。


やがて彼女は、ボールを蹴る。


それは未来へと続くパス。まだ誰も立っていない場所に、想いを込めた“予感”のようなパスだった。


風はまた、新しい空を目指して吹き始める。


──花村いとの旅は、まだ終わらない。


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