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《悩めるピーターパン》


 この森からの脱出は、俺が歩ける様になってから。それが、この夜に俺たちが出した結論だった。


 風花さんは、今すぐにでも離れるべきと強く意見していたのだが俺の足の状態が良くない事を由良が告げると渋々ながら納得した様だ。


 でも、俺は一刻も早くこの森から逃げ出したかった。元をただせば、俺が原因でこうなってしまったんだ。俺のせいで、俺のせいで、俺のせいで...!!周りがこんなに辛い思いをする。駄目だ、今の不安定な俺じゃどうしても耐えられない。


 ちらりと、横目で自分の足の様子を確認する。まだ、少し痛みは残るが杖さえ有れば歩く事も出来る。不幸中の幸いか、ここは森の中。杖の代わりなど直ぐに見つかるだろう。


 由良には、沢山の借りを作ってしまった。そして、命を助けて貰った。なら、今の俺が出来る恩返しはなんだろう。


 分かってる。今の俺が、冷静じゃない事も一人でどうこう出来る問題では無いと言う事も。でも、恩人の命を脅かすかも知らないのに悠長に、俺の足の治癒を待つ?ふざけるな‼︎


 そんなの間違っている。可笑しいに決まっている。俺は、誰かを不幸にしたくてここにいるんじゃ無い。

 

「そういえば、今日何処に泊まるんですか?」


「え?勿論、泊めてくれるわよね?ねぇ?」


「ははっ、冗談ですよ」


 楽しそうな彼女達のやり取りを見つめる。その光景を見ているだけでも俺は幸せな気持ちになれる。だから、俺は...今すぐに...。


















 夜中の2時。照明を、付けるわけにもいかずその場は暗闇に包まれていた。部屋の中が真っ暗で見えづらかったが目が慣れるにつれてぼんやりとした輪郭だけでもわかる様になる。


(ごめん、黙っていなくなってしまって...)


 どこか、彼女達を騙すかの様な罪悪感を感じるも今は深く考えずにこの場を立ち去る事にする。数日しか、この家に居なかったけれどこの家での暮らしはとても充実していた。


(さようなら、また会えたら...)


俺は、少し泣きそうになりながらも玄関の扉をゆっくりと開ける。さて、此処から俺はどうしようか。








「バァ‼︎」


「うォッ⁉︎へ!?は?えぇ?うぇ⁉︎なんでぇ⁉︎」


 俺は、人生で初めて心臓が口から飛び出る感覚を体感した。その余りの衝撃に、倒れ込んだ腰が起き上がらない。


「あら?随分と面白いリアクションをしてくれるのね」


「ぇ?え?な、何で?寝てる筈なのに」


「ふふっ、乙女のカンって奴よ」


 暗闇の中で、月の光が風花さんの姿をスポットライトの様に明るく照らす。もしも、こんな訳も分からない状況じゃ無ければ彼女のその美しさに魅力されていた所だろう。


「まぁまぁ、貴方がこれから何をしようが私は一度忠告した以上止めないわ。でも、その前に少しお話しでもしましょう?」


 今の俺では、その質問にNOとは答えられずに大人しく首を縦に振った。どうやら、話をするだけで見逃してくれる様だ。その言葉が本当なら、今は素直に従った方が賢明な筈。


「分かりました...」


 この人は、何を考えているんだ。ここから出て行く俺に向かって今更そんな事を言ったって意味なんか無い筈だ。


「でも、まぁその前に此処ではちょっと色々と問題があるから場所を変えましょ?」


 場所を変える?いや、確かに外で話していたらいつ襲われても不思議じゃ無い。でも、もう一度家に戻るのはなにかと気まずい。それに、そもそもさっきので腰が抜けて立たないし。


「あの?何処へ行くんですか?」


 その俺の質問を、待っていましたと言わんばかりに風花さんは、高らかにその目的地を指さす。


彼女が、指を指したのは場所は空だった。















「あはは!!俺‼︎本当に浮いています‼︎凄い‼︎もう、雲の上だ!!」


 年甲斐も無く大声で叫ぶ。今日は、初めて体験する事が二つもあったがまさか、生きているうちに空を生身で飛べる日が来るなんて!!今日は、最高の1日だ。


「楽しそうで何よりよ。それにしても、妖精の粉のストックがまだ残っていて良かったわ」


 飛ぶ前に、風花さんは俺の頭に金色の粉を振りかけてきた。初めは、某緑の人の相棒の妖精と同じ事が起こるんじゃ無いかと思ったが、まさか本当に飛べるだなんて!!


「ヒャッフゥー!!」


 俺は、だんだん楽しくなってきてその場に丸を描いた。足の痛みや、腰の抜けた感じはもう忘れていた。それ程までに、俺はこの今を楽しんでいた。


 俺を、縛る物は何も無い。俺は、自由だ。......いや、そう言えばまだ首輪外して無かったな。でも、今は楽しい!!




「どう?満足した?」


「はい‼︎お陰様で‼︎楽しかったです」


 空中散歩を、充分に堪能させて貰った俺はやっと聞く体制に入る。いかん、いかん。ついつい、少し気を緩めてしまった。急いで、引き締めなければ。


「それで、話ってなんですか...?」


 俺は、真面目な顔でそう切り出す。そうだ。本来、俺は急いでここから逃げ出さないと行けないから時間は大切な筈なのに。

どうも、あの空中散歩が楽しくて...。


「ごほん。では、話していくわね。昔...昔...ある所に」




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