《三十六計逃げるが勝ち》
俺には、特技や才能などの人に誇れるものが無い。生まれつき運も悪く、己が運命を何度も憎んできた。
そんな俺にも、一つだけ長所があった。それは、直感が良く当たること。果たして、それは長所なのかと聞かれたら何とも言えないが兎に角昔から直感は鋭い方だった。
雨が降る日には一度も傘を忘れた事が無かったし、小テストが来ると思った日は前日にヤマを張っておくとそこが重点的に来る。
そんな、俺についたあだ名の一つが《超高校級の天気予報士》。初めは、冗談のつもりでクラスメイトの1人が明日の天気を聞いたのが始まりだったが、何だよ...超高階級の天気予報士って...?
まぁ、そんな話はどうでも良くて、俺が何が言いたいかって言うと、直感が良いなら人生が良くなるとは限らないって話。
寧ろ、これから来る絶望が身にしみて分かっちゃうから本当に嫌なんだよね。これ。
「ほら‼︎やっぱ駄目じゃ無いですか‼︎風花さん」
「ごめん‼︎今は走って!!」
やっぱりこうなったか‼︎あの玉を、見た時からなんか嫌な予感がしてたんだよね!!まぁ、こうなってしまったら後の祭りなんだけど。
「チッ...数が多いわね‼︎それに、スピードも早い‼︎」
風花さんは、舌打ちしつつも浮かせていた球体を群れに向かって投げつける。が、それも精々1人倒せた程度でまだまだ敵は残っている。
「あぁ、もう面倒臭い‼︎あいつ今どこいんのよ‼︎」
声を荒げながらも、必死に自身の風魔法で足止めを試みるが数が、数が多い為か効果は余りなかった。
「ご主人様‼︎顔色が!!」
「大丈夫...はぁはぁ...今は...走らないと...」
正直、かなり辛いがこんな所でお荷物になる訳にもいかない。大丈夫、苦しいだけだ。まだ、俺は動ける...!!
足が、もつれそうになる。脇腹が、悲鳴を上げたくなる程痛い。視界が、クラクラする。でも、走らないと...今は、進まないと...。
不安定なその瞳で後ろを振りかえる。ははっ...全く、これ以上酷い光景はこの世に無いだろうな。何かの冗談にしてはタチが悪すぎる。
今、俺達は追われているのだ......着ぐるみの様な熊のマスコットの群れに。
初めは、何か悪い夢だと思ったよ。3人で休憩していたら、木陰から急に等身大の着ぐるみが現れたから。
3人揃って、え?って声を出してこれが本当にこれ現実か確認していたら何か見てない隙に増えてるし...今も、追いかけて来る途中にも増えているし...本当に何⁉︎ホラーなんだけど!!
「やられたわ...恐らく私達が、あの球体を取る事を見越してわざと引き寄せる呪いにしたのね。真の目的は、この後ろの奴らが貴方を捕まえさせる...それにしても...もうちょっとデザインどうにかならなかったのかしら...」
分かるよ!!うん!!だって、俺も同じ事思った!!アレ怖いんよ!!目に、生気が宿って無いと言うか、こう?言葉に出来ない恐怖がアレにあるんだもの。子供泣くぞ!!
畜生、あんな良く分からない生き物にピンチになるだなんて‼︎そもそも、アレは本当に生き物なのか......あっ...え?...オッエ.........キッモ‼︎
運悪く俺は見てしまった。先程、球体を当てられた個体が後ろから追いかけてるくるのを。
いや、追いかけ来るだけだったらまだ良かった。だが、その個体は見えてしまっていたのだ。
脳の辺りから蠢く触覚の様なモノが。
俺達が、着ぐるみだと思っていたそれは本当にその生き物の体であり、体からは真っ赤な血が吹き出していた。
また、傷ついた脳からは脳みその代わりに何やら得体の知れない何かが右に左に左右に揺れている。
死んだ目をした無表情の前身傷だらけの着ぐるみから出ている触覚。文章で、見ただけでも吐きそうになる。これ、SANチェックいる奴だ...。
そんな、現実離れした者を見た俺だったが運良く吐く事は無く急いで視線を前へと戻した。最悪だ...しばらく悪夢で出てきそう。
だが、以前体の調子は悪いままである。ちょっと、このままじゃやばいかも知れない...。俺は、後どのくらい走れるのか...。
「ごめんなさい‼︎文句は、後で聞きます‼︎」
「え?」
一瞬、体が浮いたかと感じたのもつかの間。俺は、気が付いたら由良に背負われていた。
「由良...俺の事は...良いから...」
「私は、大丈夫です!!だから、今は大人しく背負われてて下さい!!」
「由良...」
申し訳無さと情け無さ、そして、不安。それらの感情がごちゃ混ぜになりつつも俺は由良に背負われる事しか出来なかった。
この世界に来てから、これの連続だ。俺は...誰かの力を借りなければ何もする事も出来ない。いつも、誰かの助けが無いと生きる事すら出来ない。嫌、この世界に来てからじゃ無いか...今更か...。
「はぁ...」
ついつい、無意識の内に口からため息が漏れてしまった。最悪だ、由良や風花さんが必死に頑張っているというのに‼︎
「おいおい、前も言ったじゃ無いか‼︎ため息をすると幸運が逃げるって」
「え?今...声が...」
何処からか声が聞こえてきた。それも、俺達の直ぐ近くからだ。一体何処から...。
「それに、してもまさかここまで立派になるとは流石は僕のむす...ごほん。うん、まぁ...あれだ‼︎ここは、僕に任せて先に行くんだ!!あれ?これって死亡フラグ?まぁ、いっか。へし折ってやんよ‼︎」
「遅いわよ!!夢香」
そう、風花さんが返事を返すと俺の影から何やら人の頭の様な物が出てきた...え?
「本当は、もうちょっと楽しみたかったんだけど...まぁ、ヒーローは遅れてやってくるって言うしね‼︎」
「ちょっとあんた‼︎いつから、そこに居たのよ‼︎」
「創君に、私達の過去をお話ししていた所からかな?いや〜創君を、森に引き留める為に夢の中に忍び混んで風花ちゃんのアレやコレを、色々話したらって、おいおい敵はあっちだぜ?そんな怖い顔しないでよ‼︎可愛い顔が台無しだぜ!!」
道理で可笑しいと思ったよ‼︎普通、自分が隠したい過去の事とか逐一細かく話す訳無いよな。俺も、途中で一回聞き返したけど本人じゃ無かったと言うなら納得する。
「後で、本当に覚えて起きなさいよ!!」
「僕、この戦いが終わったら結婚するんだ!!」
影から出てきた彼女は、そう言うとあのキモい着ぐるみの群れへと単身で突っ込んでいく。本当に、彼女一人で大丈夫なのか⁉︎
「大丈夫よ、あの馬鹿はそう簡単に死なないわ」
俺の表情から、読み取ったのか風花さんが答える。まぁ、確かに夢香さんなら何処か大丈夫そうなんだけど...。
「それより、あいつが時間を稼いでるうちに早く逃げるわよ」
そうして、俺達は足早にその場を投げ出したのであった。




